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ダボス会議でメタバース美術館がお披露目! その残念な結果に学ぶべきこととは?

  • 2023年1月24日
  • INTERNATIONAL

Text: Shanti Escalante-De Mattei

今年もスイスのダボスで、各国の首脳や財界人が集う世界経済フォーラムの年次総会(通称ダボス会議)が開催された。1月16日~19日の期間中、参加者には、グリーンエネルギーへの補助金や人工知能分野での中国との競争などに関する議論以外に、ユニークな体験が提供されていた。それは、メタバース上の美術館体験だ。

Octopus Contemporary Art Museum(OCAM)の画面。Photo: Screenshot made while exploring OCAM

Octopus Contemporary Art Museum(OCAM、タコ現代美術館の意)と呼ばれるこの美術館は、メタバースとデジタルディスプレーの制作を手がけるArtMeta社が設計したもの。ブロックチェーン技術分野の投資会社であるCrypto Valley Partnersがスポンサーしたネットワーキング・ラウンジで、ダボス会議の参加者はVR(仮想現実)ゴーグルを装着してOCAMを見学していた。

ArtMeta社による解説では、この美術館はTchan-Zâcaと名付けられた「メタバース上の島」に存在する。この島には「海底火山が繰り返し噴火した結果生じた」という言い伝えがあり、その中心部に住んでいたクラーケン(巨大なタコの姿をした怪物)が、激しい火山噴火の時代に化石となって、美術館の中心にある「Octopus(タコ)」になったのだという。

ダボス会議参加者でなくてもこのメタバース美術館を楽しめるよう、ブラウザ版も用意されていた。ブラウザ版では、自分のアバターを選んで広々とした空間に進むと、Crypto Valleyによるイベントの一覧が示されているキラキラ輝く看板が待ち構えている。

美術館の中央にあるホールの壁は、モンステラやヤシなど熱帯植物のイラストで彩られている。折り紙の凧や白鳥が展示され、バーチャルな「足」が疲れたら、宙に浮かぶランタンがつながれたベンチでひと休み。ひと言でいえば、子ども向けの美術館のようなデザインだ。

メインホールの周囲にあるのは、暗号取引アプリのTrustSawp、アート界にも浸透しているブロックチェーンプラットフォームのTezosなど、Crypto Valleyのパートナー企業の展示室だ。また、館内にはカフェもある。食事はできないものの、アバターが館内のどこか1カ所に長時間とどまっていると、自動的にカフェに移され、アバターの所有者に再び動かしてもらえるのを待つことになる。

各展示室はというと、何よりも目立つのは協賛企業の広告だった。TrustSwapの部屋にはグレーのパネルにアニメーションと静止画が展示されており、その1つはクリスティーン・ワンの絵画作品《Bitcoin Wife II》をアニメーション化したものだ。この作品は、SNSでバズった画像を元にしている。それは、泣いている女性の顔に「My husband is rich in Bitcoins/But if he dies I won't understand how to spend them(私の夫はビットコイン長者です/でも、もし夫が死んだら、私はそれをどう使えばいいか分からない)」というセリフが付けられたもので、今の時代ならではの悲劇的叙事詩と言えるだろう。

Tシャツや帽子にプリントされるなど、このセリフはあちこちで使われているが、その意味するところは基本的に同じだ。しかし、要人が集まるダボス会議の参加者が歩き回る奇妙なメタバースという新たな文脈の中で見せられると、笑われずにはいられない。

この美術館は完璧だ。完璧なガラクタの山で、崇高なまでの不条理と言える。

クリスティーン・ワンの《Bitcoin Wife II》を見るアバター。Photo: Screenshot made while exploring OCAM

大切なのは「メタバースの美術館」でどんな体験を提供できるか

他の展示室の作品にはこれほどの皮肉は感じられないが、全体的にアバターのぎくしゃくした動きが気になって鑑賞に集中できない。デジタルアート、またはデジタル化されたアート作品をじっくり鑑賞したいなら、インスタグラムでアーティストのページをスクロールする方が、よほど質が高く没入感のある体験を味わえる。

ArtMetaの広報担当者による紹介文には、「ギャラリストが白い壁3枚の小さなブースという枠組みに縛られずに、先見性に富んだアーティストの作品を展示できる空間を作ることが、同社の使命」だと書かれていたが、実際には、アートを鑑賞するための新しい方法が提供されているとはとても思えない。デジタル作品は平面に貼り付けられ、アバターは変に体を曲げて絵のほうを「見て」いるだけだ。ブラウザ版なら「拡大する」をクリックすることはできるが、出てくる画像はやはり圧縮されていて情報量に乏しい。

Tezosの展示室では、作品はデジタルで描かれた羊皮紙の巻物に貼り付けられていおり、少なくともデジタルディスプレーがもたらす無限の可能性に挑戦しようという部分はあった。しかし、その利点が生かされていたとは言い難い。

OCAMの展示が凡庸なものに終わっているのは、メタバースの美術館というメディアそのもののせいではない。たとえば、コロナ禍の最中にアーティストのミハル・チラーシュとショーン・ケネディが運営していたデジタル展示スペース「GMOギャラリー」は、想像を超えた才気に満ちていた。

GMOギャラリーでは、デジタルアートやデジタル化されたアートの作品が、空を浮遊する妖精の城や郊外の家にあるような裏庭といった場所に展示されていた。また、ハロウィーンの時期には、懐中電灯の灯りだけを頼りに歩き回れて、作品に近づくとお化けのような叫び声が聞こえるという企画もあった。もちろん作品自体も面白く、平面作品だけではなく3Dスキャンして描画された陶芸やジュエリー作品も含まれていた。

メタバースのギャラリーや美術館というコンセプトを揶揄するのは簡単だが、アイデアそのものにメリットがないわけではない。しかし、デジタル体験がもたらす可能性が、スポンサーの広告やお粗末なデザインによって台無しにされている限り、デジタルアートや没入型デジタル体験の未来について、一般の人々が大きな期待を抱かないのも無理はないだろう。(翻訳:清水玲奈)

from ARTnews

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