尾上右近「ザ☆スタジオ・トーク」
アートが生まれる現場を見てみたい、作家の頭の中を覗いてみたい……そんな思いに駆られることはありませんか? 「ザ☆スタジオ・トーク」は、若手実力派として活躍の場を広げる歌舞伎俳優・尾上右近さんが、海外からも高い評価を得ている人気アーティストのスタジオを訪問。アーティストとの対話を通して、その素顔に迫る連載企画です。

#3 エリイさん(Chim↑Pom from Smappa!Group)の制作現場へ

May 20, 2022
STORY
尾上右近

「ザ☆スタジオ・トーク」第3回のアーティストは、エリイさん。社会が抱える諸問題や、場所の記憶や歴史にクリティカルな視点で切り込み、独創的かつメッセージ性を持った数々のプロジェクトを手掛けてきた6人組アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」(*1)のメンバーです。油性塗料の匂いが立ち込め、金属パイプの音が響き、溶接火花が散るスタジオに、新鮮な驚きと興奮の色を隠せない右近さん。さて、世界で活躍するラディカルなアーティストとの間には、どんな接点が……?

*1 2022年4月27日より当面の間、活動名をChim↑PomからChim↑Pom from Smappa!Groupへ改名。


こんな仕事があるんだ!

右近:スタジオで作品を解説していただいてありがとうございました。一見過激だったりするけど、Chim↑Pomの皆さんは“ちゃんと見て伝える”ことを真剣になさっているんだなと感じました。なんかこう、都市とか歴史が形になって残っているものを、アートという言葉で伝えているというか。

エリイ:見ていただき、ありがとうございます。さっき説明させていただいたプロジェクトは、ビルを丸ごと使った作品です。取り壊される前の歌舞伎町振興組合のビルで展覧会を行ったのち、その中の展示物ごと取り壊して、作品を回収したものです。やっていることは多岐にわたっていて、事象を相手にしている作品もあります。たとえば、渋谷の街や国会議事堂前にカラスを呼び集める映像作品があります(《ブラック・オブ・デス》、2007年)。カラスって仲間意識が強いんですよね。その性質を使って、カラスの剥製を持って拡声器で鳴き声を流しながら、バイクに乗ってカラスと同じスピードで走ると、「仲間が人間に捕まってる!」みたいな感じで集まってくるんですよ。カラスって頭が良いので、何回もできません。最初にその映像作品を撮ったのは2008年ですが、最近は都市でカラスが減っているので、前のようには集まってきません。

右近:へえ! 面白い!



作品について説明をしてくださった稲岡求さん


エリイ
:さっきスタジオで作業していた稲岡が、断食して自分の身体を使って“彫刻”したり(《Making of the 即身仏》、2009年)、原発事故が起きた年の秋に、メンバーの水野(俊紀)が福島第一原発の収束作業員として2カ月間アルバイトをして、写真作品を作ったり(《レッドカード》、2011年)。展覧会場で、場所性を使うライブやイベントも行ったりしています。

右近:すごいなあ、まさに身体を張ったプロジェクトも展開されているんですね。

エリイ:メキシコの国境で、米国に入国できない人たちと行ったプロジェクト「ジ・アザー・サイド」では、国境の壁を自分の家の壁の一部分にして住んでいる家の子どもたちと《USAビジターセンター》っていうツリーハウスを作りました。私自身もアメリカに入国できないので。ほかには、カンボジアの地雷原で、地元の人と一緒に地雷撤去作業をして撤去した地雷で、私物のルイ・ヴィトンのバックとかを爆破して、日本に持って帰ってチャリティオークションにかけて、収益を全額カンボジアに寄付するという作品もあります(「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」)。

右近:そういう海外でのプロジェクトの場合、間に入ってくれる団体があったりするんですか?

エリイ:上の二つは、自費で現地に行って「こんにちは」みたいな。自分たち発端でやりたいことは、機関を通すと人との距離が遠くなってしまうから、直接、自分たちと地元の人たちとの関わりの中でやっています。一方で、2019年に「マンチェスターインターナショナルフェスティバル」でコレラを題材にしたプロジェクトを行ったのですが、これは地元のヤングキュレーターたちからのお誘いでした。こういう場合は、アイデアは自分たちで出しますが、場所のリサーチなどは一緒に進めていきます。



右近:アイデアだけじゃなく、その行動力にもびっくりです。メッセージ性を感じるものが多いですけど、エリイさんは昔から社会問題に興味があったんですか?

エリイ:そうですね。私が幼稚園から高校まで通った一貫校が、戦争や社会問題の教育にすごく力を入れていたんです。私の時は、小学校で水俣病をはじめとする公害病を学んで、中高でAIDS、小中高にわたって平和教育。だから修学旅行も長崎でした。そういうことが、今やっていることにけっこう影響している気がしますね。社会に対する自分の立ち位置みたいなことが、常に考え方の軸にあるというか。

右近:でも同じ教育を受けた同級生みんなが、それを表現に昇華しているわけではないですよね。エリイさんは、どうして現代美術の道に?

エリイ:高校生の時に現代美術に出会って、「えっ、頭の中で考えていることを形にする、こんな職業があるんだ!」って、びっくりしたんです。もともと絵を描くのは好きだったし、高校では美術を選択して、美大にも行ってるんですけど、最初に「こんな職業が!」と思ったことがいちばん大きいですね。それと、Chim↑Pomのメンバーと出会ったこと。別に仲良しで集まった6人じゃないんですよ。稲岡と私なんて、現代美術がなければ一生話すこともないだろうなって思うし(笑)。



右近:なんとなく、わかる気がします(笑)。Chim↑Pomは、どうやって出会った人たちなんですか?

エリイ:高校の授業で現代美術に出会ってからは、ギャラリーに遊びに行くようになりました。そこで知り合った若者同士で飲んだりするようになって、その中でチームを組んで、今に至る感じです。

右近:ずっと同じメンバーで活動しているんですか?

エリイ:2005年に結成して以来、ずっと一緒です。メンバー6人は全然タイプが違っていて、それこそが“社会”だなって私は思ったんですね。それぞれに異なるメンバーの中で一つ共通しているのが、“現代美術が面白い”と考えていること。だから一緒に作品を作っているんです。




自分の魂が震えるか、震えないか

右近:メンバーとどうやってアイデアを共有しているんですか?

エリイ:いいアイデアを思いついたら、とりあえずメンバーにLINEしたり、電話で話したり。あとは週に1回、Chim↑Pom会議を開いています。みんなで話している時に、作品の考え方、真髄みたいなものが、度を超えて光ることがあるんですよ。何かこう、光る玉が浮かぶ、みたいな。そんな瞬間があったら、やめられないじゃないですか。そういうところまでいつも持っていきたいなと思って、制作しています。

右近:光る玉か。カッコイイなあ。

エリイ:でも全員、怠け者なんです。コロナ禍で展覧会が全部中止になった時は、《May,2020,Tokyo》という作品を作ったんですけど、基本的には、休みたい、ダラつきたいという感じ(笑)。で、展覧会が迫ってくると、やるしかない、みたいな(笑)。

右近:なるほど(笑)。じゃあ、作品を作るいちばん大きい目的は何ですか? 作品や活動で、いちばん伝えたいものは?

エリイ:私に関して言えば、自分の中に“時間軸”への視点みたいなものがあって、その中で「今ここで作品を作っておかないと」という気持ちになるんです。だから、目的があるわけじゃないし、そもそも他者に何かを伝えたいというよりは、自分の魂が震えるか、震えないかが大事かもしれない。魂を削って作ってますし。

右近:人がどう思うかということは、あまり考えない?

エリイ:そうですね、観客が人間である以上、メンバーと作品について、こういう見方があるよね、という話はするけれど、それよりも大切なことがある。人の意見って、そりゃそうですけど、環境によって変わるものと捉えています。




右近:面白いなあ。たぶん、そこがエリイさんと僕のいちばん遠いポイントだと思います。僕の場合は、人がどう思うかを考えることが、自分が何を思うかと同じくらい大事だったりするので。最近は、自分のために歌舞伎をやるという感覚もどんどんなくなっているんです。僕は3歳の時に曽祖父(六代目 尾上菊五郎)が踊る「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」の映像に魅せられて、歌舞伎に求められたいと思いながら、ずっと歌舞伎を求め続けてきたんですけど、去年くらいから歌舞伎に求められ始めたような感じがあって。人間、ずっと求めてきた大事な人に求められたら、その人のために何だってやろうと思うじゃないですか。なので、最近は「歌舞伎に生きてます」と胸を張って言えます(笑)。

エリイ:素敵ですね。私も歌舞伎、好きなんです。おばあちゃんや親に連れられて、小さい頃から観ていて。特におばあちゃんは歌舞伎が大好きで、私が付き添うような感じで、亡くなるまで毎月のように歌舞伎座に行っていました。だから歌舞伎は間違いなく、私の血肉になっていると思います。

右近:そうだったんですね。エリイさんはすごく自然で、きっと子どもの時からずっと変わっていないんだろうなと感じるんですが、家族の中ではどういう存在だったんですか? 

エリイ:親は戸惑ったみたいです。子どもの時から私だけ異様に活発で「なんで一人だけこうなった?」って(笑)。妹も生まれてきて物心つく頃には「え?姉……」みたいな。でも、生きてるんで受け入れるしかないし、私も自分だけ違うことを特に気にしないタイプだったから、そのまま育ちました。大変だったかもしれないけど、育てがいがあったのではないかと勝手に思っています。そんなこと言ったら「冗談じゃないわよ!」ってマジで怒られる光景が浮かびますが(笑)。

右近:わかる気がします。僕も家族に「なんでこうなった?」って言われて育ったタイプだから(笑)。

エリイ:私には今1歳の子どもがいるんですけど、見ていると、持って生まれた性格というのは確実にあるなって感じますね。何かをどう加味してもブレない基本の特性というか。そこに環境がどう影響するかについても興味がありますが、日々の積み重ねでしかないのかな、と思います。

右近:エリイさんご自身は、結婚やお子さんを持ったことで何か変わりました? 

エリイ:結婚では特に変わらなかったけど、子どもを持って変わりましたね。命を目の当たりにするというか、自分がしっかりしないと死んじゃうかもしれない存在を、日々相手にしているので。たとえば、私は廃墟に行くのが超好きで、前は自分で扉とか開けてガンガン入ったり、崖の先端ギリギリまで行ったりしていたんですけれど、今はやめておこう、私は死ぬわけにいかないしって思うようになりました。



夢は、だいたい全員で満足して暮らすこと

右近:なるほど。そういう変化への戸惑いみたいなものも、作品に繋げたりしていますか?

エリイ:文章には結構、反映させるようにしているかもしれない。最近、私、文章を書いているんです。編集の方が書いてみましょうと言ってくれて、文芸誌で書かせてもらっているんですけど、文章って、こんなに自由なんだって、改めて感じていて。

右近:もともと書くことが好きだったんですか?

エリイ:いえ、本を読むことは前からすごく好きでしたけど。書くことで、その読み方も変わってきて、今までは一読者だったのに、参加している感じになるんですよ。その入り込み方も面白くて。あと私、日本が鎖国していた時代の漂流記が大好きで、それを調べていくことにずっとハマっているんです。それこそ、歌舞伎座で観ましたよ。

右近:漂流記……あ! 三谷幸喜さんが漫画を原作に作・演出された「月光露進路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」ですね。

エリイ:そうです、そうです! 三谷さんの歌舞伎は大黒屋光太夫の話でしたけど、船が遭難して遠い国に漂着した漁師たちが、苦労して何年もかけて船で日本に帰ってきた記録がほかにも残っていて、すごく面白いんです。私、小学校の社会の授業で、日本が鎖国していたことを知って衝撃を受けたんですね。その後、その時代の漂流記に出会って、すっかりハマっちゃったんです。

右近:へえ! エリイさんが江戸時代の漂流記にハマっているとは! 



右近:最後の質問なんですが、今の夢は何ですか? 

エリイ:最近の夢は文章が上手くなることかな。あと、みんなで幸せに暮らす、というか、みんなで満足して暮らすこと。みんなというのは、家族だけじゃなくて、だいたい全員。

右近:だいたい全員、か。自分ができることには限りがありますもんね。僕も、少なくとも自分が関わった人は幸せにしたい。そのくらいなら、おこがましくないよねと思っているので、関わった人を幸せにするような歌舞伎をやりたいなあ。

エリイ:右近さんの夢は何ですか?

右近:3歳の時に観た「春興鏡獅子」をまだ歌舞伎の公演で踊ったことがないので、まずは、それを踊ることですね。そして、それを自分の代表作にするところまで持っていくこと。「春興鏡獅子」に憧れさせてもらっている身としては、そうやってこの作品に恩返しすることが夢です。もはや、「春興鏡獅子」という宗教に入っている人みたいですけど(笑)。

エリイ:右近さんが「春興鏡獅子」を歌舞伎の公演で踊る時は、観に行きますね。

右近:嬉しいです。頑張ります。今年中に絶対やりたいと思っていて……って、自分で公言していこうと思っています(笑)。僕もエリイさんとChim↑Pomの活動に注目していきます。今日はありがとうございました!



【尾上右近コメント〜対談を終えて】

「今日はエリイさんとお話をさせていただきました。正直、本当に色々感じることがありましたし、衝撃もありましたし、何か“爆破された”ような感じのところもあって。まとまっていないと言えば、まとまっていないんですけど、とにかく“0から1を生むエネルギー”ってやっぱりすごいなと改めて感じたのと、自分が思ったことを思った通りに貫くことに迷いなく突き進む、その強さにすごく喜びと励ましを感じました。僕も0から1を自分の人生なりに作らなきゃなと思っている次第です。本当に楽しかったです」

エリイ(Chim↑Pom from Smappa!Group)

東京都生まれ。2005年に東京で卯城竜太、林靖高、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀とともに結成されたアーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」のメンバーとして、国内外で活躍する。2022年に、新潮社より著書『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』を上梓。また月刊文芸誌「新潮」にて、小説『壺中の天地』を連載中。森美術館で5月29日まで、Chim↑Pom結成17周年にして初の本格的な回顧展となる「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」、5月29日までMUJIN-TO Productionにて「いつのことだか思いだしてごらん」、6月4日までANOMALYにて個展「Chim↑Pom from Smappa!Group」が開催中。

二代目 尾上右近(にだいめ おのえ・うこん)

1992年東京都生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。7歳で歌舞伎座「舞鶴雪月花」にて本名の岡村研佑で初舞台。12歳で新橋演舞場「人情噺文七元結」にて二代目尾上右近を襲名。2018年には浄瑠璃方の名跡・七代目清元栄寿太夫を襲名する。歌舞伎以外の舞台や映画、テレビなどでも活躍し、映画「燃えよ剣」で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また自主公演「研の會(かい)」で研鑽を積む。2022年5月は歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」第三部「弁天娘女男白波」に出演。秋にはミュージカル「ジャージー・ボーイズ」への出演が控えている。

Edit & Text: Kaori Okazaki Photo: Shin Inaba Styling: Kazuya Mishima(Tatanca) Hair & Make-up: Storm (Linx)

尾上右近 着用アイテム:コート、パンツ/my beautiful land let/Connecter Tokyo(080-4428-1941)、その他/スタイリスト私物

Index
1
Jan 17, 2022
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(前編)
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(前編)
2
Feb 04, 2022
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(後編)
3
Mar 04, 2022
#2 「田名網敬一さん、どうして絵を描くのですか?」(前編)
4
Mar 23, 2022
#2「田名網敬一さん、どうして絵を描くのですか?」(後編)
5
May 20, 2022
#3 エリイさん(Chim↑Pom from Smappa!Group)の制作現場へ
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#5 特別編:尾上右近ソロインタビュー「アーティストのエネルギーや考え方、生き方に触れたこれまでの対談を振り返って」
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