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尾上右近「ザ☆スタジオ・トーク」
アートが生まれる現場を見てみたい、作家の頭の中を覗いてみたい……そんな思いに駆られることはありませんか? 「ザ☆スタジオ・トーク」は、若手実力派として活躍の場を広げる歌舞伎俳優・尾上右近さんが、海外からも高い評価を得ている人気アーティストのスタジオを訪問。アーティストとの対話を通して、その素顔に迫る連載企画です。

#5 特別編:尾上右近ソロインタビュー「アーティストのエネルギーや考え方、生き方に触れたこれまでの対談を振り返って」

Aug 15, 2022
STORY
尾上右近

歌舞伎俳優・尾上右近さんがアーティストのスタジオを訪れ、その素顔に迫る連載企画「ザ☆スタジオ・トーク」。これまで4人の現代アーティストとの対談をお送りしてきましたが、今回はその特別編として、右近さんのソロインタビューをお届けします。各アーティストの印象や、対話を通して得られたもの、歌舞伎への思いなど、右近さんにたっぷり語っていただきました!


アーティストと関わりを持つ醍醐味

──制作中の作品が並ぶスタジオにお邪魔して、アーティストの素顔に迫る本連載。まずは、これまでの対談の感想を聞かせてください。

右近:充実感をだいぶいただいている気がします。現代アートの作家さんから話を直接伺える機会はなかなかないですから。しかも作家さんのスタジオで、一通り作品を見せていただいたうえでお話を聞けるというのも、理想的だなと。

──そもそも、どういった理由で連載を引き受けてくださったのですか?

右近:もともとアートが好きなこともあるんですが、やっぱり作家さんに会えるというのが大きかったですね。たとえば、ピカソや北斎の絵を前にした時も、僕はこれまで、どういう気持ちや意図でこれを描いたんだろう? どういう人だったんだろう? と想像しながら観ていたので、そういったことを作家さんご本人に聞けるなんて、願ってもないチャンスだと。もう一つ、現代の作家さんたちに、「歌舞伎だったら、右近くんを知ってるよ」と思ってもらえるきっかけを作りたい気持ちもありました。作家さんが、ふと「右近くんと話した時に、こんなことを言っていたな」と思い出して、その作品の中で僕が数%でも生きられるとしたら、最高じゃないですか。そういうことが、アーティストの方と関わりを持つ醍醐味だと思うんです。

──確かにそうですね。各作家さんと直にお話しされた印象はいかがでしたか? 第1回のお相手は、井田幸昌さん。体育館ほどもある大きなスタジオにお邪魔しました。

右近:初回から、ものすごいインパクトでした。スタジオのスケールはもちろん、作品のスケールとエネルギーにも圧倒されて。自分と闘いながら、30歳そこそこであそこまで行っているなんて、本当にすごいと思いましたし、それでいてお話を伺うと、共感する部分もたくさんあって、同年代だからこその刺激というんですかね。ジャンルは違っても、同世代から受けるエネルギーには、先輩方からいただくものとはまた違った強さがあるなと実感しました。

──井田さんとは、その後も連絡を取り合っていらっしゃるとか?

右近:はい。嬉しかったのは、井田さんのスタジオで、写楽の役者絵がモチーフになった絵を見て、僕が歌舞伎の公演で『春興鏡獅子』をやる時はぜひ描いてもらいたいなと思っていたら、井田さんのほうから連絡をいただいて。会いに行ったら、自分も実際に役者絵を描きたい。ここぞという時が来たら、楽屋に1週間くらい出入りしてデッサンさせて欲しいと言ってくださって、めちゃくちゃ感激しました。とても大きな出会いだったなと思います。井田さんのおかげで、この連載がより楽しみになりましたし。

──続いて伺ったのは、日本のポップアートの先駆者、田名網敬一さんのスタジオ。極彩色の作品やピカソの模写が所狭しと置かれていました。

右近:「絵を描きたくない日はない」という言葉が印象的でした。今も絶えず創作意欲が湧いているなんて、すごいなと。一生青春というんですかね。田名網さんの胸には静かなる興奮やワクワクが秘められていて、そういったものが作品に照射され続けているんだなと感じました。お話を伺って、小さい頃の戦争体験がいかに作品に反映されているかわかったんですが、怖い思いもたくさんされたはずなのに、感傷的なことはあまり話されない。その戦争との距離の取り方も印象的でした。教え子の皆さんと「年の離れた友達」という感覚でお付き合いされているというお話も素敵で、僕もそうありたいと思いました。孫世代の人にも「けんけん」と呼ばれるような、ニュータイプの歌舞伎役者になりたいなと(笑)。そういう意味でも田名網さんは、距離感の取り方の天才じゃないかと思いました。


“自分がどう思うのか”をもっと大事にしたい

──3人目のお相手、Chim↑Pomのエリイさんとの対談はいかがでしたか?

右近:対談の後、Chim↑Pomの展覧会も観に行ったんですが、やっぱり自分から最も遠いキャラクターの方だなと思いました。でも、お互い戸惑うこともなく話せたと思うし、エリイさんは心が豊かだからこそ、日常の中にある物事や問題にアンテナが働いたり、日常を面白がったりできるんだなと。エリイさんには、僕が“日常を面白がる天才”だと思っている大好きな俳優・古田新太さんと、ちょっと似たところを感じるんです。古田さんは人と関わることがすごく好きな方なんですけど、エリイさんは関わる対象がもっと広い範囲に及んでいる。その感覚も表現の仕方も面白いし、アイディアを形にするエネルギーもすごくて、“美しきエキセントリック”という印象を持ちました。

──その次の佃弘樹さんとの対談では、どんなことが印象に残っていますか?

右近:佃さんの「歌舞伎には先人というライバルがいますよね」という言葉に、ハッとさせられました。犯罪さえ起こさなければ、なんでもありなのがアートの世界。ライバルも無限にいるという話の中で、僕が「それに比べたら歌舞伎はライバルが少ない」と言ったら、そうおっしゃって。それまで僕には、“先人が残した伝統を今生きている歌舞伎役者で守っていく”という意識はあったんですが、“先人たちと戦う”意識はあまり持ったことがなかったんです。でも考えてみたら、ずっと比べられているんですよね。観た人の中でどんどん巨大化していく先人のイメージと戦うことは、リスペクトとはまた別物なんだなと、あの時から思うようになりました。そういう意識の変化があったうえで、今年の『團菊祭五月大歌舞伎』で、代々の尾上菊五郎が当たり役としてきた弁天小僧菊之助に挑めたというのは、自分にとってすごく大きなことでしたね。

2022年5月、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」第三部『弁天娘女男白波(べんてんむすめめおのしらなみ)』より。本興行で初めて弁天小僧菊之助を勤めた右近さん。女装を見破られて正体を現す盗っ人・弁天小僧を、目にも耳にも艶やかに、熱く瑞々しく演じきった ©松竹株式会社 無断転載禁止

──記事の掲載はこれからになりますが、5人目のお相手、横尾忠則さんとの対談も楽しそうでした。

右近:楽しかったです! の一言に尽きるかもしれない(笑)。パフォーマンスをする時にいちばん大事なことって、 “自然でいること”だと思うんです。それがいちばん難しいことでもありますが。僕が歌舞伎役者を目指すきっかけになった六代目尾上菊五郎の『春興鏡獅子』のことを、五代目中村富十郎さんが「六代目菊五郎の『鏡獅子』の何がすごいって、天才的な素直さだ」とおっしゃっていたんですね。僕は今回、横尾さんと初めてお会いして、それと同じようなことを感じました。ものすごく自然体で、圧倒的に素直な方。でも実は、素直で居続けることって、格好をつけたり、真面目であることよりも、ずっと勇気がいることだと思うんです。「やる気なんて、もうないよ」「すべて出し切って空っぽだけど、そんな自分が何を描くか見てみたい」「耳が遠くなって便利だよ」……そんな言葉が、とても印象に残っています。

──詳しくは、次回の連載でお届けするとして、これまでの対談を通して、右近さんはどんなことをお感じですか?

右近:僕も含めて、みんなもっと“自分がどう思うのか”ということを考えて、大事にしたほうがいいんじゃないかと思うようになりました。コンプライアンスが厳しい今の世の中、“人がどう思うか”がすごく重視されていますよね。それが客観性だと言われれば、それまでだけど、じゃあ客観性だけで生きている人間に面白味はあるのか?と僕は思うんです。はみ出したり、ブレたりしているのが面白いんじゃないのかな、自分が楽しんで夢中になっている時間も必要じゃないかなって。僕自身が基本的に“人がどう思うか”がめちゃくちゃ気になるタイプなので、余計にそう感じるようになったんだと思います。以前、(四代目市川)猿之助さんが「狐忠信(『義経千本桜』に登場する子狐の化身)をやっている時に、四の切(同作の四段目の最後にあたる「川連法眼館の場」)で目の前からお客さんが消えて、本当に狐になったような感覚になった。その瞬間が忘れられないから、またやろうと思うんだよね」とおっしゃっていたんですが、僕もそういう域まで達したいものだなと思います。


歌舞伎は人間力のミュージアム

──ご自身のアートに対する意識や作品の見方には、何か変化がありましたか?

右近:歌舞伎は400年以上続いてきた伝統芸能で、受け継いできたものに自分のエッセンスを“ちょい足し”していくような世界だと思うんです。自分で川を作るわけじゃなくて、そこにある大河をどう泳ぐか、という世界。それに対して、現代アーティストの皆さんは、自分で川を作っている人達なんだなと、改めて感じました。だから心惹かれるし、憧れるんだなと。でも、歌舞伎という大河も、そもそもは先人の皆さんが“ちょい足し”しながら作ってきたもの。だからこそ自分も、この大河の中で何かしなくちゃと、より思うようになりました。と同時に、現代アーティストの皆さんも、あれこれ試しながら、自分にしか作れないスタイル=型に行き着いているんだなと実感して、人の心に届くものには、どうやら型らしきものがありそうだなと思うようにもなりました。


第五回「研の會」より『猿翁十種の内  酔奴(よいやっこ)』=2019年8月に京都、9月に東京で開催。現・市川猿翁氏が1999年に踊って以来、歌舞伎俳優としては初挑戦となった舞踊『猿翁十種の内 酔奴』では、酔っぱらった奴を表情豊かに体現。文楽座から特別出演した豊竹呂勢太夫氏、鶴澤藤蔵氏、鶴澤清志郎氏との息もぴったりに、竹馬や「三人上戸」(怒り上戸、泣き上戸、笑い上戸)を披露した ©研の會 無断転載禁止

──右近さんが大事にされている、ご自身の美意識というのは、どういうものでしょう?

右近:美意識ですか? 何でしょうねぇ……美意識とは違うかもしれませんが、自分がいいと思うものをシェアしたい、みんなに見てもらいたいという気持ちは、大事にしています。そういう意味でも、コロナ禍にはかなりダメージを受けていますね。本当は、なるべく色々な人に会って、一緒に食べたり飲んだりして、人と人を繋いでいたいのに、それがほとんどできなくなってしまって。僕は“草の根活動”が好きで、コロナ以前は、地方公演がある時は必ずチラシと千社札をたくさん持って行って、現地で会う人、会う人を「歌舞伎、観に来てくださいね」と誘っていたんですよ。

──すごいです。右近さんは、本当に歌舞伎がお好きなんですね。

右近:好きですね。僕は、歌舞伎を“人間力のミュージアム”と呼ぶようにしているんです。歌舞伎のいちばんの魅力は“人間のエネルギー”で、歌舞伎を観る=修羅の道を歩く男たちのエネルギーや人間力を感じることじゃないかと思っていて。たとえば、僕の師匠の(七代目尾上)菊五郎おじさんは、偉大な六代目菊五郎の後を若くして継いで、ものすごく苦労をした人。いつも「苦労なんかしたかな。忘れちゃったよ」といった感じで舞台に立っていますが、僕が苦しんでいると「その一言で、あと40年やっていける」と思えるようなことをポロっと言ってくれる。その人間力がお客さんにも伝わっているから、皆さん観に来てくださるのだなと感じていて。

──素敵ですね。今のお話、アート作品にも通じるものがありそうです。

右近:はい。僕にとってのアート作品のいちばんの魅力は、やっぱり作家さんのセンスや概念、エネルギーや生き方が感じられるところ。これからも色々な作家さんと出会って、そのエネルギーや考え方を感じ、お伝えしていけたらなと思います。今後は、僕が知っている面白い作家さんもご紹介したいです。読者の皆様、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

二代目 尾上右近(にだいめ おのえ・うこん)

1992年東京都生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。7歳で歌舞伎座にて本名の岡村研佑で初舞台。12歳で新橋演舞場にて二代目尾上右近を襲名。2018年には浄瑠璃方の名跡・七代目清元栄寿太夫を襲名する。歌舞伎以外の舞台や映像作品でも活躍し、映画「燃えよ剣」で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また自主公演「研の會(かい)」で研鑽を積む。現在、連続ドラマ「NICE FLIGHT!」(テレビ朝日系)に酒木ジェームス役で出演中。8月には3年ぶりに「研の會」を開催予定(詳細は以下の公演情報まで)。秋にはミュージカル「ジャージー・ボーイズ」への出演が控えている。

尾上右近自主公演 第六回「研の會」
それぞれ初役で『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ) かさね』と『実盛物語』に挑む第六回「研の會」。しかも『色彩間苅豆 かさね』では、文楽人形と共演。右近さんは、かさねと与右衛門の2役を回替わりで演じます。乞うご期待!
2022年8月22日・23日(全4公演)/国立劇場 小劇場 
一、「色彩間苅豆~かさね」清元連中
出演/尾上右近(22日の昼の部・23日夜の部/かさね、22日夜の部・23日昼の部/与右衛門)、人形遣い/吉田簑紫郎、吉田簑太郎、桐竹勘介、吉田簑之
二、源平布引滝「実盛物語」
出演/尾上右近、坂東彦三郎、中村壱太郎、坂東亀三郎、尾上菊三呂、中村梅花、片岡市蔵
https://www.onoeukon.info/2022/06/28/

Edit & Text: Kaori Okazaki Photo: Shin Inaba 
Styling: Kazuya Mishima(Tatanca) Hair & Make-up: Tatsuya Nishioka(Leinwand)

尾上右近 着用アイテム/KOH’S LICK CURRO(03-6427-1405)

Index
1
Jan 17, 2022
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(前編)
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(前編)
2
Feb 04, 2022
#1 尾上右近が井田幸昌のスタジオを訪れる(後編)
3
Mar 04, 2022
#2 「田名網敬一さん、どうして絵を描くのですか?」(前編)
4
Mar 23, 2022
#2「田名網敬一さん、どうして絵を描くのですか?」(後編)
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May 20, 2022
#3 エリイさん(Chim↑Pom from Smappa!Group)の制作現場へ
6
Jun 29, 2022
#4 佃弘樹さんの「コラージュ」が生まれるスタジオへ
7
Aug 15, 2022
#5 特別編:尾上右近ソロインタビュー「アーティストのエネルギーや考え方、生き方に触れたこれまでの対談を振り返って」
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