「コレクターは、アート界の異なる人々をつなぐ存在になれる」──ソン・ギョンハ(Kyungha Song)、ジュリー・ホンジ・ソク(Julie Hongji Seok)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol. 8】
今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画、「TOP 200 COLLECTORS」リスト。中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在だ。その面々をシリーズで紹介する企画の第8弾は、ソウルでアーティスト・イン・レジデンスもスタートしたソン・ギョンハとジュリー・ホンジ・ソク夫妻。
拠点:ソウル
職業:投資家
収集分野:現代アート
アートの目的と役割を考え続ける
ソウルを拠点とするソン・ギョンハとジュリー・ホンジ・ソク夫妻は、どちらもアートに囲まれて育った。建築と美術史の学位を持ち、旅行好きの2人がこれまで訪れた国は70カ国にのぼる。その目的は、各国のアートシーンや美術館で行われる主要な展覧会を見てまわり、世界中のビエンナーレやアートフェアに参加するためだ。
夫妻の初期のコレクションに、ジョセフ・アルバースの名著『Interaction of Color(邦題:配色の設計―色の知覚と相互作用)』(1963)のシルクスクリーン版がある(2000冊の限定版)。ソンは購入した理由をこう説明する。
「修士課程にいた頃、私は『何がアートになりうるのか』という問題に大きな関心がありました。アルバースの著書は、教育目的で出版された本であると同時に収集可能な美術品としての価値もあったので、私の興味を引いたのです。私は今も、アートの目的と役割について考え続けています」
夫妻は昨年来、アンドレ・ブッツァーの絵画3点を購入した。「私たちのコレクションは、常に進化の途上にあります。いつも念頭に置いているのは、質と量の両面でコレクションを発展させることです」
コレクターはアートに関わる人々を結びつける存在
夫妻は最近、ソウルの漢南洞(ハンナムドン)でアーティスト・イン・レジデンスの受け入れを始めた。彼らの所蔵品を保管するオープンストレージ(見せる収蔵庫)もあるこの場所でレジデンスを実施しようと思ったきっかけの一つは、ピーター・ドイグがまだ23歳だった1980年代初頭の作品を購入したことだ。2人はこの作品を通じて、アーティストのキャリア初期にどのような支援を提供できるかを考えるようになったという。
2人のレジデンスは、毎年5〜6人のアーティスト受け入れを予定している。「異なる大陸のアーティストをアートでつなぎ、東洋と西洋の時差を縮めることを目指しています」とソンは語る。
「コレクターは、アート界のさまざまな部分をつなぐ最も効率的な存在です。アーティストとコレクター、アーティストとギャラリー、ギャラリーと美術館、ギャラリーと企業など、私たちはいつも、アートに関わる人たちを出会わせ、意義深い結びつきを作ろうとしています。このレジデンスプログラムによって、コレクターには独自の役割があり、アートのエコシステムに貢献できることを示せたらと思います」(翻訳:清水玲奈)
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