純資産29兆円超えの大富豪も! 世界の超一流アートコレクターたち
US版ARTnewsで1990年代から続く名物企画「TOP 200 COLLECTORS」は、その年に最もアクティブだった世界のスーパー・アートコレクター200人を紹介する大特集。今年は、「スター・ウォーズ」の監督から、巨大ファッションブランドのオーナー、音楽配信大手の元幹部までがランクイン!
エレーヌ&ベルナール・アルノー(Hélène and Bernard Arnault)
Photo: Swan Gallet/WWD/Shutterstock
拠点:フランス・パリ
職業:LVMH会長兼CEO(ラグジュアリーブランド・コングロマリット)
収集分野:現代アート
世界最高峰のラグジュアリーブランド群を傘下に持つコングロマリット、LVMHのトップに君臨するベルナール・アルノーとその妻エレーヌは、トップ200コレクターズの中で最も裕福なカップルだ。米ブルームバーグ通信による2021年10月時点の世界長者番付によると、アルノーの総資産額は約1500億ドル(約22兆円)で、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツに次ぐ世界第3位だった(編集部注:2023年5月2日現在の番付では、イーロン・マスクを押さえて第1位)。
ローラ・アリラガ=アンドリーセン&マーク・アンドリーセン(Laura Arrillaga-Andreessen and Marc Andreessen)
Photo: Eliot Holtzman
拠点:アメリカ・カリフォルニア州スタンフォード
職業:起業家、フィランソロピスト
収集分野:現代アート、戦後アメリカ美術
1989年に「ウェブの父」と呼ばれるティム・バーナーズ=リーがワールド・ワイド・ウェブ(www)の概念を考案してから数年後の1990年代前半、マーク・アンドリーセンは初期インターネット業界の巨人として名を知られるようになった。世界で初めて画像とテキストを同時に表示できるウェブブラウザ、モザイクを共同開発し、1993年にリリース。その後、ネットスケープ・コミュニケーションズを共同設立し、90年代に爆発的に広まったブラウザ、ネットスケープ・ナビゲーターで大成功を収めた。現在はシリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツを経営するほか、フェイスブックの役員も務めている。
ハリアント・アディコエソエモ(Haryanto Adikoesoemo)
拠点:インドネシア・ジャカルタ
職業:エネルギー、物流、不動産
収集分野:インドネシア、アジア、西洋の近現代アート
ハリアント・アディコエソエモは、石油・基礎化学品の物流、高級不動産物件開発などの事業を行うインドネシアのコングロマリット、AKRの2代目総帥。1983年の大学卒業後、父親が創立した企業に入社した彼が美術品の収集を始めたのは20年ほど前で、今ではインドネシア国内外のアート界に大きな影響力を持つ存在になっている。ジェフ・クーンズ、アンディ・ウォーホル、マーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒターなど、所有作品数は約800点。そのうち半数ほどが、Affandi、Srihadi Soedarsono、FX Harsono、Entang Wiharsoといった、世界での知名度は高くないがインドネシアで人気のあるアーティストの作品だ。
ペドロ・バルボサ(Pedro Barbosa)
拠点:ブラジル・サンパウロ
職業:投資家
収集分野:現代アート(特にコンセプチュアリズムとそのアーカイブ資料)
債券取引で財を成したペドロ・バルボサは、サンパウロ市内の美術学生のスタジオではおなじみの存在だ。常に新しい才能を探し求めて世界中を飛び回り、トレンドを作り出す存在として評価されている彼は、有望な学生から直接作品を購入することも多い。
ローラン・アッシャー(Laurent Asscher)
拠点:モナコ
職業:投資家
収集分野:近現代アート
ローラン・アッシャーは長い間、自らのアートコレクションを公にしておらず、現在もその全容は明かされていない。
ローラ&ジョン・アーノルド(Laura and John Arnold)
拠点:アメリカ・ヒューストン
職業:ヘッジファンドマネージャー、フィランソロピスト
収集分野:アフリカ美術、モダンアート、オールドマスター
2012年に自らのヘッジファンド、ケンタウルス・アドバイザーズを廃業して金融業界に衝撃を与えたジョン・アーノルド。彼は、元弁護士の妻ローラとともに慈善事業に専念するため、38歳で金融業界を引退した。その4年前の2008年、夫妻はローラ&ジョン・アーノルド財団を設立し、刑事司法改革、幼稚園から高校までの教育、公的説明責任・医療・情報の透明性などの改革を進めるための資金提供を行っている。
エルネスト・ベルタレリ(Ernesto Bertarelli)
拠点:スイス・グシュタード
職業:バイオテクノロジー、投資家
収集分野:近現代アート
エルネスト・ベルタレリは、人生の大半を仕事に捧げてきた。父の経営する製薬会社セロノで仕事を始めたのは6歳の時、年間最優秀社員賞を手渡す係に抜擢されたのがきっかけだった。そして、わずか31歳で病に倒れた父の後を継ぎ、セロノのCEOに就任。それでも、2010年に英フィナンシャル・タイムズ紙に語ったように、ベルタレリはこう考えている。「仕事だけでなく、ほかのことも大切だ。いつも机に向かっているわけにはいかない」
ニコラス・バーグルエン(Nicolas Berggruen)
拠点:アメリカ・カリフォルニア州ビバリーヒルズ
職業:フィランソロピスト、投資家(バーグルエン・ホールディングス)
収集分野:近現代アート
ニコラス・バーグルエンのDNAには、アート収集への関心が刷り込まれているようだ。ディーラーでもありコレクターでもあった父、故ハインツ・バーグルエンが所有する美術品の価値は約4億5000万ドル(約653億円)にのぼり、それをもとに彼の名を冠した美術館がベルリンに設立された。また、サンフランシスコでギャラリーを運営するジョン・バーグルエンと美術史家のオリバー・バーグルエンは、ニコラスの兄弟にあたる。
マリア・アリーナ・ベル&ウィリアム・ベルJr.(Maria Arena Bell and William Bell Jr)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:テレビ制作プロダクション
収集分野:近現代アート
マリア・アリーナ・ベルとウィリアム・ベルJr.夫妻は、アート収集に多大な情熱を傾けていることで知られる。アートスペース誌によると、結婚前に美術史を学んでいたマリアは、1930年代から40年代にかけてのハリウッド黄金時代のスターたちを捉えたジョージ・ハレルのビンテージ写真を集めていたという。現在ベル夫妻は、アンディ・ウォーホル、マルセル・デュシャン、ダミアン・ハーストなど、数多くの大物アーティストの作品を所有。マリアはロサンゼルスを拠点とするアレックス・イスラエル、ジョナス・ウッド、マーク・ライデンなどの作品を収集し、ダン・コーレンなどには作品制作の委託もしている。
アニタ・ブランチャード&マーティン・ネスビット(Anita Blanchard and Martin Nesbitt)
拠点:アメリカ・シカゴ
職業:産婦人科医、未公開株式投資(ヴィストリア・グループ)
収集分野:現代アート
産婦人科の医師で医学博士のアニタ・ブランチャードは、シカゴ大学病院の教授でもあった(現在は退職)。また、アメリカ産科婦人科学会の元副会長で、今も理事を務めている。マーティン・ネスビットは不動産業で成功した実業家で、2013年にキップ・カークパトリックとともに未公開株式投資会社のヴィストリア・グループを設立し、共同CEOに就任した。
デブラ&レオン・ブラック(Debra and Leon Black)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:投資ファンド
収集分野:中国彫刻、現代アート、印象派、モダンアート、オールドマスター
レオン・ブラックとデブラ・ブラックは、アート界をはじめ、いくつもの分野で巨額の資金を動かすことで知られる。2012年5月、サザビーズ・ニューヨークで、エドヴァルド・ムンクのパステル画《叫び》(1895)を、当時の史上最高額1億1990万ドル(約174億円)で落札したのがブラック夫妻だった。その後、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に半年間貸し出されたこの作品は、ムンクが描いた5枚の《叫び》のうち、唯一、個人が所有しているものだ。レオンは長年MoMAの理事を務め、2018年から21年までは理事長だった。
ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
拠点:アメリカ・シアトル
職業:アマゾン創業者(Eコマース)
収集分野:現代アート
2020年8月、米フォーブス誌はジェフ・ベゾスの純資産が2000億ドル(約29兆円)を超え、史上最高額を記録したと報じた。このときベゾスに次ぐ2位だったビル・ゲイツとの差は900億ドル(約13兆円)近い。言うまでもなく、彼の財産のほとんどは、1994年にワシントン州ベルビューで創業したアマゾンがもたらしたものだ。オンライン書店から始まったアマゾンは今や、あらゆるものを販売するEコマース界の絶対王者となっている。コロナ禍では、アマゾンが労働者の安全確保を十分に行わなかったとして批判されたが、ベゾスの富は膨らむ一方だった。2000億ドルの大台に乗るわずか1カ月前、米ブルームバーグ通信は彼の資産が1日で130億ドル(約1兆9000億円)増加したと伝えている。
デヴィッド・ブース(David Booth)
拠点:アメリカ・テキサス州オースティン
職業:投資顧問(ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ)
収集分野:現代アート
デヴィッド・ブースは、オフィスにアートを置くのが好きだという。2013年にニューヨーク・タイムズ紙が取材に訪れたとき、ブースはアメリカの抽象画家フレデリック・ハマーズリーの作品を眺めながら、「(アートは)自分をやり手に見せてくれる」と語っている。
バーバラ・ブルーム=カウル&ドン・カウル(Barbara Bluhm-Kaul and Don Kaul)
拠点:アメリカ・シカゴ
職業:不動産、法律家(引退)
収集分野:戦後美術、現代アート
バーバラ・ブルーム=カウルとドン・カウルは、シカゴでも有数のコレクターだ。ドンはシカゴ現代美術館の終身理事、バーバラはシカゴ美術館理事とシカゴのアートフェア、エキスポ・シカゴの市民委員会のメンバーを務めている。
レン・ブラバトニク(Len Blavatnik)
拠点:イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク
職業:投資家(メディア、製造業、不動産)
収集分野:近現代アート
ウクライナ生まれのレン・ブラバトニクは、ソ連崩壊時に民営化されつつあったアルミニウムやエネルギー企業への投資で財を成した。米フォーブス誌によると、2013年にロシアの石油会社TNK-BPの株式を70億ドル(約1兆円)で売却し、さらに資産を増やしている。近年における最大の投資は、2011年にワーナー・ミュージックを33億ドル(約4800億円)で買収したことだろう。「今の価値はその倍」という業界アナリストの見方を米ブルームバーグ通信が2019年4月に伝えているが、ワーナーの広報担当者は、あくまで評価額は33億ドルだとしている。
ボティン・ファミリー(Botín Family)
拠点:スペイン・サンタンデール
職業:銀行家
収集分野:現代アート
スペイン最大の商業銀行グループ、バンコ・サンタンデールを欧州に展開して富を築いたボティン家は、銀行家として、そしてコレクターとしての名声をほしいままにしている。1857年に設立された銀行は代々一族が経営を行い、1986年から2014年に亡くなるまでサンタンデール・グループの執行役会長だったエミリオ・ボティンが、近年の事業展開の基礎を築いた。彼の死後は6人いる子供の長女、アナ・パトリシアが後を継ぎ、2010年から同行の英国部門のCEOを務めている。英ガーディアン紙によると、彼女はイギリスにある大手銀行で初の女性役員だという。
カレン&クリスチャン・ボロス(Karen and Christian Boros)
拠点:ドイツ・ベルリン
職業:広告業
収集分野:現代アート
カレン・ボロスとクリスチャン・ボロスの2人は、実験的なものやこれまでにない作品など、他のコレクターが敬遠しがちなアートの収集で知られている。ドイツ広告業界の大物であるクリスチャンは、2007年にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでこう語った。「最初は難解だと感じるアーティストが好きだ。私を挑発し、私が当たり前だと思っていることに疑問を投げかけ、新しいものを見せてくれるアーティストがいい」
スザンヌ・ディール・ブース(Suzanne Deal Booth)
拠点:アメリカ・テキサス州オースティン、カリフォルニア州ラザフォード
職業:投資家、フィランソロピスト
収集分野:現代アート(特に新進作家・女性作家)
ヒューストンのライス大学でジェームズ・タレルの大作《Twilight Epiphany Skyspace》(2012)を見ることができるのは、スザンヌ・ディール・ブースのおかげだ。フィランソロピスト、アートアドバイザー、コレクターとして活動する彼女は、この作品を恒久的に設置するための資金を提供している。また、ニューヨークのホイットニー美術館やMoMA PS1でも、タレルによる光のインスタレーションを実現するために尽力した。
ピーター・M・ブラント(Peter M. Brant)
拠点:アメリカ・コネチカット州グリニッジ
職業:製紙・出版業
収集分野:現代アート、デザイン・インテリア
父から製紙会社ホワイト・バーチ・ペーパーの経営を継いだピーター・M・ブラントは、大学時代に株式市場で一山当てた儲けで2点のアンディ・ウォーホル作品とフランツ・クラインの作品を購入。以来、現代アートの収集を続け、有数のウォーホルコレクターとなった彼にウォーホルから会いたいと声がかかり、2人は親交を深めるようになった。1976年、ブラントは自分の飼っていたコッカースパニエル、ジンジャーの絵をウォーホルに依頼し、1977年にはジェド・ジョンソン監督の映画『アンディ・ウォーホルのBAD』の制作に協力している。
ウド・ブラントホルスト(Udo Brandhorst)
拠点:ドイツ・ミュンヘン
職業:保険業
収集分野:戦後美術・現代アート
ウド・ブランドホルストが死別した妻、アネッテ・ブラントホルストは、ドイツの大企業ヘンケル社の創業者一族出身で、多大な遺産を受け継いでいた。ヘンケル社がアメリカで販売している製品には、洗剤(All、Snuggle、Purex)、トイレタリー(Dial、Right Guard、Sexy Hair)、接着剤(Loctite)などがある。
イルマ&ノーマン・ブラマン(Irma and Norman Braman)
拠点:アメリカ・フロリダ州マイアミビーチ
職業:自動車ディーラー
収集分野:近現代アート
マイアミのアートシーンきっての大物コレクター、ノーマン・ブラマンは、薬品やビタミン剤の販売で富を築き、さらにフロリダとコロラドに高級車ディーラーのネットワークを展開して資産を増やした。米フォーブス誌によると、2019年12月時点の資産額は26億ドル(約3800億円)だが、半分以上が美術品の評価額だとされている。そのコレクションには、1979年に収集を始めるきっかけとなったアレクサンダー・カルダー、2011年にニューヨーク近代美術館(MoMA)の展覧会に貸し出したアンディ・ウォーホルやウィレム・デ・クーニングなど、近現代アートの一流作家による作品が数多く含まれている。
シャナ&ジョン・ブルックス(Shanna and Jon Brooks)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:投資銀行(JMB Capital)
収集分野:現代アート
ジョン・ブルックスは、1985年に南カリフォルニア大学を卒業し、88年にシカゴ大学でMBAを取得。2002年にロサンゼルスで投資銀行のJMBキャピタルを創設した。
エストレリータ&ダニエル・ブロツキー(Estrellita and Daniel Brodsky)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:不動産
収集分野:建築家(特にル・コルビュジエとアレクサンダー・カルダー)のドローイング・彫刻・絵画、戦後美術、現代アート、ラテンアメリカの戦後・現代アート
エストレリータ・ブロツキーは長年にわたってラテンアメリカ美術を支援し、それを受け入れる美術館の必要性を訴えてきた。「世界が本当に一つになれば、『ラテンアメリカ部門』などという区分けは必要ありません。全ての芸術は完全に統合されるからです」と、彼女はラテンアメリカ美術の専門メディアArte Al Díaに語っている。しかし、近年に至るまで、ほとんどの美術館にそのような考え方はなかった。
大林剛郎(Takeo Obayashi)
拠点:日本・東京
職業:大林組 取締役会長 兼 取締役会議長(建設業)
収集分野:現代アート
1892年に曾祖父が創業した総合建設会社、大林組の会長である大林剛郎は、自らのアートコレクションを展示するためのプライベートミュージアム、游庵(非公開)の設計を、世界的な建築家の安藤忠雄に依頼したことでも知られる。
エドゥアール・カルミニャック(Edouard Carmignac)
拠点:フランス・パリ
職業:資産運用
収集分野:現代アート
2019年1月に資金運用会社の経営から退いたエドゥアール・カルミニャックは、2000年にカルミニャック財団を設立し、現代アートのコレクションおよび助成金や賞の授与によるアーティスト支援を行っている。2009年から始まったフォトジャーナリズムの年間賞も、同財団が創設した賞の1つだ。
ヨープ・ヴァン・カルデンブルグ(Joop van Caldenborgh)
拠点:オランダ・ワッセナー
職業:化学品製造(Caldic)
収集分野:近現代アート(彫刻、写真、アーティストブック、ビデオ、インスタレーションなど)
オランダの大手化学メーカー、カルディックのオーナーであるヨープ・ヴァン・カルデンブルグは、50年ほど前に現代アートのコレクションを始め、ダミアン・ハースト、トレーシー・エミン、アンゼルム・キーファー、草間彌生、ダン・グラハム、アイ・ウェイウェイなどの大作を所有。また、オランダのワッセナーにあるカルディック・コレクションの彫刻庭園には、近現代の作品約60点が設置され、予約制で一般公開されている。
田口弘、田口美和(Hiroshi Taguchi and Miwa Taguchi)
拠点:日本・東京
職業:ミスミグループ本社創業者(卸売業)
収集分野:日本国内外の現代アート
田口弘は、ファクトリーオートメーションや金型などの分野で国際的な事業を展開するミスミグループ本社の創業者の1人。ミスミの社長在職時にアメリカのポップアートを中心とした「ミスミコレクション」を構築し、その後に開始した個人コレクションでは、日本や世界各国の著名アーティストの作品へと収集対象を拡大。現在では500点以上の作品を所有している。
トルーディ&ポール・セハス(Trudy and Paul Cejas)
拠点:アメリカ・マイアミビーチ
職業:投資家(PLC Investments)
収集分野:戦後美術(特にグループ「ゼロ」)、現代アート
キューバ生まれのポール・セハスは、1960年代にフロリダに移住してマイアミ大学で学び、公認会計士になった。その後、ヒスパニック系としては米国最大の医療サービス企業、ケアフロリダ・ヘルスシステムズを設立し、1994年に売却。1998年から2001年までは、ビル・クリントン大統領のもとで駐ベルギー米国大使を務めている。現在は、不動産からベンチャーキャピタルまでの保有資産を運用するPLCインベストメンツの会長兼CEOの座にある。
柳井正(Tadashi Yanai)
Photo: Franck Robichon/EPA/Shutterstock
拠点:日本・東京
職業:ファーストリテイリング 代表取締役会長 兼 社長(小売業)
収集分野:近現代アート
日本の長者番付上位に常に顔を出す柳井正は、ニューヨーカー誌の取材に「アートは勉強するものではない。美しいものは、それをじっくり見ることで楽しめる」と答えたことがある。柳井の場合、ユニクロのアートコラボTシャツのように「着ることで楽しめる」とも言えるだろう。柳井は、ユニクロのほか、ヘルムートラング、セオリー、Jブランドなどを擁するアパレル小売の巨人、ファーストリテイリングの会長兼社長だ。経営者向けビジネス誌CEOマガジンによる評価では、2020年9月時点の柳井の純資産は128億8000万ドル(約1兆9000億円)とされる。
トロイ・カーター(Troy Carter)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:投資家(エンタテインメント、テクノロジー)
収集分野:現代アート
投資家でアートコレクターのトロイ・カーターは、自分が拠点とするロサンゼルスの地域社会への貢献活動を熱心に行っている。音楽配信大手スポティファイの元幹部で、タレントマネジメント会社アトム・ファクトリーの創設者でもあるカーターは、ロサンゼルス・カウンティ美術館の理事のほか、人気作家マーク・ブラッドフォードが設立したアート+プラクティスの諮問委員も務めている。この団体は、非営利展示スペース運営やレイマートパーク地区の青少年支援活動を行っている。また、数年前にはカリフォルニア芸術大学の理事に就任したが、最近のフリーズ誌のインタビューによると、初めての理事会を抜け出して、授業料への抗議を行う学生たちと話し合ったという。
ハリット・シンギリオグル&ケマル・ハス・シンギリオグル(Halit Cingillioglu and Kemal Has Cingillioglu)
拠点:イギリス・ロンドン、モナコ
職業:銀行家
収集分野:近現代アート、印象派、戦後美術
ハリット・シンギリオグルとケマル・ハス・シンギリオグルは、トルコで最も有名な銀行家一族の出だ。1970年代初めから銀行、証券、保険といった金融ビジネスに携わってきたハリットは、トルコ有数の銀行・金融サービス企業であるCグループの創業者兼主要株主で、デミルバンクの前会長でもある。
ミゲル・チャン(Miguel Chang)
拠点:香港、台湾・台北
職業:不動産、投資家
収集分野:印象派、モダンアート
香港在住のコレクター、ミゲル・チャンのコレクション内容は公にされていない。US版ARTnewsが業界関係者から得た情報によると、チャンは国際的なオークションで活発な収集を行っており、近年ではクロード・モネ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌ、パブロ・ピカソなどの作品を落札しているという。
パトリシア・フェルプス・デ・シスネロス、グスタボ・A・シスネロス(Patricia Phelps de Cisneros and Gustavo A. Cisneros)
拠点:ベネズエラ・カラカス、スペイン・マドリード、アメリカ・ニューヨーク
職業:メディア、エンターテインメント、デジタル広告、衛星通信、高級不動産
収集分野:ラテンアメリカの近現代アート、19世紀にラテンアメリカを旅したアーティストの作品、17-19世紀のイスパノアメリカ美術品・オブジェ、アマゾンの民族誌学関連品
国際的な企業グループのオーナー、パトリシア・フェルプス・デ・シスネロスとグスタボ・A・シスネロスは1970年からコレクションを始め、1990年以降は毎年トップ200コレクターズに選出されている。所蔵作家は、リジア・クラーク、ゲゴ、ラウル・ロッツァ、ヘリオ・オイティシカ、ヘスス・ラファエル・ソト、ロド・ロスファスなど、ラテンアメリカを代表するアーティストたちだ。
ピエール・チェン(Pierre Chen)
拠点:台湾・台北
職業:電子機器製造
収集分野:近現代アート
ピエール・チェンは、1977年に設立した電子部品製造企業、ヤゲオコーポレーションで財を成した。米フォーブス誌によると、台湾トップクラスの資産家とされるチェンの2022年現在の純資産は41億ドル(約6000億円)。しかし、チェンには他の資産家と違うところがある。それは、起業前からアート収集を始めたことだ。
アレクサンドラ&スティーブン・A・コーエン(Alexandra and Steven A. Cohen)
拠点:アメリカ・コネティカット州グリニッジ
職業:投資家
収集分野:近現代アート、印象派
アレクサンドラ・コーエンとスティーブン・A・コーエンが美術品の収集を始めたのは2000年。以来、ウィレム・デ・クーニング、アンディ・ウォーホル、パブロ・ピカソ、ジャスパー・ジョーンズ、ジェフ・クーンズ、ジャクソン・ポロックといった世界的アーティストをはじめとする膨大なコレクションに10億ドル以上(約1470億円)を費やしたと言われる。しかし、米フォーブス誌によると推定純資産が130億ドル(約1兆900億円)を超えるヘッジファンド・マネージャーのスティーブンにとっては、大した額ではないだろう。
エイドリアン・チェン(Adrian Cheng)
拠点:香港
職業:小売業、不動産業(K11、新世界発展)
収集分野:現代アート
エイドリアン・チェンが現代アートのコレクションを始めた2010年、彼は既に家業の小売ビジネスを率いる若き資産家だった。チェンは、祖父が設立した香港有数の不動産・小売コングロマリットである新世界発展の傘下に、K11アートモールを立ち上げている。
J. パトリック・コリンズ(J. Patrick Collins)
拠点:アメリカ・ダラス
職業:石油・ガス(Cortez Resources)
収集分野:現代アート
テキサス州ダラスの石油・ガス会社、コルテス・リソーシズの共同設立者でCEOのJ. パトリック・コリンズは、アメリカにおけるアートパトロンの中心地とされてきたダラスの次世代コレクターを代表する存在だ。ダラス・アートフェアのディレクター、ケリー・コーネルは、2020年にUS版ARTnewsの取材に答え、「ダラスのコレクティングシーンは、現代アート、新進作家を収集する新しいコレクターの登場で活性化している」と述べている。
エドモンド・チェン(Edmund Cheng)
拠点:シンガポール
職業:不動産投資、デベロッパー
収集分野:現代アート
1990年代初頭からシンガポールの現代アートシーンを支えてきたのは、香港出身の不動産デベロッパー、エドモンド・チェンだ。投資持株会社ウィング・タイ・ホールディングスの副会長兼副社長であるチェンは、あまり知られた存在ではなかったが、2005年から13年までシンガポールのナショナル・アーツ・カウンシル会長を務め、2006年には「信念」をテーマにした第1回シンガポール・ビエンナーレを開催。現代アートのギャラリーを集めたスポット、ギルマン・バラックスの創設を指揮し、2018年にはシンガポール美術館の会長に就任している。
イザベル&アグスティン・コペル(Isabel and Agustín Coppel)
拠点:メキシコ・クリアカン
職業:小売業
収集分野:現代アート
アグスティン・コペルは、小売業で一大王国を築いたエンリケ・コペル・タマヨの5人の息子の1人。父親の持株会社グルーポ・コペルの会長兼CEOを務めるほか、兄弟が経営する銀行、年金基金、不動産にも出資をしている。世界有数の会計事務所、デロイトによると、コペルは世界の小売業ランキングで156位に位置する。
セシリア&チュン=キウ "C.K." チャン(Cecilia and Chung-Kiu “C.K.” Cheung)
拠点:香港
職業:不動産(CC Land Holdings)
収集分野:近現代アート
フィンセント・ファン・ゴッホが、1890年に自分の作品を取り上げてくれた美術評論家宛てに書いた感謝の手紙は、長い間ゴッホ美術館が取得を望んでいた書簡だった。それをかなえたのが香港不動産業界の大物、チュン=キウ "C.K." チャンだ。チャン夫妻は2019年5月に、この書簡の販売価格である107,900ユーロ(約1500万円)を寄付している。
エドゥアルド・F・コスタンティーニ(Eduardo F. Costantini)
拠点:アルゼンチン・ブエノスアイレス
職業:資産運用・不動産、フィランソロピスト(ブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館創設者)
収集分野:近現代アート、ラテンアメリカ美術
アルゼンチン有数の不動産デベロッパー、エドゥアルド・F・コスタンティーニは、ラテンアメリカの芸術文化振興に多大な貢献をしている。70代後半の彼は、ブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館(略称:MALBA)の創設者で会長だが、この功績はコスタンティーニ財団の実績欄に記載されていない。
ローサ&カルロス・デ・ラ・クルス(Rosa and Carlos de la Cruz)
拠点:アメリカ・フロリダ州キービスケーン
職業:コカ・コーラ系列ボトリング会社(プエルトリコ、カリブ海地域)
収集分野:現代アート
ローサとカルロス・デ・ラ・クルスは、10代の頃にキューバのハバナで出会った。ローサは建築家の祖父を持ち、カルロスは美術収集を趣味とする両親のもとに生まれている。ともに文化的な素養を持っていた2人は1962年に結婚し、以来マイアミでも有数の現代アートコレクション(相当数の戦後ドイツ絵画を含む)を築いている。
バーゼル・ダルール(Basel Dalloul)
拠点:レバノン・ベイルート、エジプト・カイロ、イギリス・ロンドン
職業:ITサービス/コンサルティング(Noor Group)
収集分野:近現代のアラブアート
バーゼル・ダルールは、ワシントンD.C.のアメリカン大学で金融を専攻し、ジョージタウン大学でMBAと法学博士号を取得。1999年にカイロを拠点とするヌール・グループを設立し、現在に至るまでCEOを務めている。エジプトとその周辺地域で初めてインターネットのダイヤルアップサービスを開始した同社は、IT関連の幅広いサービスを扱う大手企業へと成長した。それ以前は、インターネット黎明期に起業したマグネット・インタラクティブ・グループで、マイクロソフト、AOL、IBM、メルセデス・ベンツ(北米)、日産、ハーバード・ビジネス・スクール、イーストマン・コダック、バイエル、ケロッグ、M&M/マース、シティバンク、バンク・オブ・アメリカ、20世紀フォックスといった大企業に、マルチメディアウェブサービスを提供していた。
カシーム・ディーン(スウィズ・ビーツ)&アリシア・キーズ(Kasseem “Swizz Beatz” Dean and Alicia Keys)
拠点:アメリカ・カリフォルニア州ラホヤ
職業:音楽プロデューサー、ミュージシャン、起業家
収集分野:有色人種の作家を中心とした現代アート
音楽界のパワーカップル、スウィズ・ビーツことカシーム・ディーンとアリシア・キーズは、近年アート界でもさまざまなプロジェクトを立ち上げている。ディーンは、アーティストが仲介業者なしに作品の買い手を見つける方法として、世界各地でノーコミッションのアートフェアを開催するなどの試みを行い、直接販売を可能にする「Sm(art)コレクション」というアプリも開発している。
ベス・ルーディン・デウッディ(Beth Rudin DeWoody)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス、ニューヨーク、ウェスト・パーム・ビーチ
職業:不動産、フィランソロピスト
収集分野:近現代アート
ベス・ルーディン・デウッディがコレクションを始めたのは12歳。当時、夢中になっていたのはビートルズのグッズだった。以来、所蔵品は増え続け、今では著名作家から新進アーティストまで、その数は1万点を超える。2015年にホイットニー美術館のアダム・D・ワインバーグ館長は、「彼女の眼差しは貪欲で、好奇心は無限大だ。その関心の幅広さにはいつも驚かされる」と、サザビーズマガジンに語っている。
パトリック・ドラヒ(Patrick Drahi)
拠点:スイス
職業:オークションハウス(サザビーズ)オーナー、メディア・通信
収集分野:印象派、モダンアート、東洋美術
通信・メディア事業を手がける大手企業の創業者、パトリック・ドラヒは、2019年までアート界で名の知れた存在ではなかった。実際、その年に著名アートディーラーのブレット・ゴーヴィは、ニューヨーク・タイムズ紙に「ドラヒのことを知る人はほとんどいない」と語っていた。しかし、ドラヒが自らの所有する企業の1つ、ビッドフェアUSAを通じてオークションハウスのサザビーズを37億ドルで買収すると状況は一変する。
ヤン・ドゥ(Yan Du)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:相続、起業家
収集分野:近現代アート、戦後美術
幼少期を中国で過ごしたヤン・ドゥは、伝統的な中国絵画を学んで育った。アートは常に生活の一部だったという彼女が、本格的にその世界で生きていこうと考え始めたのは、大学生としてロンドンに移った頃だ。それから10年以上が過ぎた現在、約300点の作品を所有するヤンは、ロンドンを拠点とするアートパトロン兼コレクターとして活動している。
ディアドル&ジェームズ・ダイソン(Deirdre and James Dyson)
拠点:イギリス・グロスターシャー
職業:家電機器(ダイソン)
収集分野:イギリスのポップアートを中心とした近現代アート
家電の中でも高級品とされるダイソン。その創業者夫妻が、ブリティッシュポップアートを核とした膨大な数のアートをコレクションしていても不思議はないだろう。所有作品には、ピーター・ブレイク、アレン・ジョーンズ、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、デイヴィッド・ホックニー、イヴ・クライン、パブロ・ピカソなど著名作家の彫刻や絵画が並ぶ。ロンドンのデザインミュージアムのチーフエグゼクティブで館長のティム・マーローは、そのコレクションを、「個人の趣味を反映した幅の広いもので、その底流には一貫性と上質さがある」と評価している。
ロンティ・エバース(Lonti Ebers)
拠点:イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク
職業:インフラ関連、不動産
収集分野:現代アート
ロンティ・エバースは、ブルックフィールド・アセット・マネジメントのCEOである夫とともに、ロンドンとニューヨークで2拠点生活を送っている。彼女も多くのコレクターと同様、700点を超える現代アートのコレクションについて基本は公にしていない。例外的に注目されたのは、2019年5月のサザビーズ・ニューヨークのオークションで、アリス・ニールの《Georgie Arce No. 2》(1955)を予想最低落札価格の倍にあたる72万8000ドル(約1億560万円)で落札したことだ。
ジョージ・エコノム(George Economou)
拠点:ギリシャ・アテネ
職業:海運(ドライシップス)、投資
収集分野:戦後美術、近現代アート
「流行にとらわれないのが私の信条だ」。ジョージ・エコノムは、かつてウォール・ストリート・ジャーナルにこう語った。「人は耳で得た情報で物を買う。しかし、耳ではなく、心の窓である目で見て物を買うべきだ」
カール・グスタフ・エーンルート(Carl Gustaf Ehrnrooth)
拠点:フィンランド・ヘルシンキ
職業:建設業、投資家
収集分野:現代アート(スカンジナビア、ヨーロッパ、アメリカ)
フィンランド貴族の末裔であるエーンルート家は、フィンランドの首都ヘルシンキに本社を置く建設会社YITの大株主。カール・グスタフ・エーンルートの父、カシミール・エーンルートは、フィンランドの通信会社ノキアの元会長だ。
アイゼンバーグ家(Eisenberg Family)
拠点:アメリカ・ニュージャージー、ニューヨーク
職業:小売業
収集分野:近現代アート
1990年代初めから近現代アートを収集してきたウォーレン・アイゼンバーグと妻のミッツィは、ニューヨークのニューミュージアムを支える有力な後援者だ。ミッツィは2003年から同美術館の理事を務め、現在は理事会の副会長の座にある。ウォーレンは、レナード・ファインスタインとともに、家庭雑貨のチェーン店「ベッド・バス・アンド・ビヨンド」を創業した経営者だ。
ニコラ・エルニ(Nicola Erni)
拠点:スイス・シュタインハウゼン
職業:投資家
収集分野:現代アート、写真
ニコラ・エルニが所有する膨大な写真コレクションには、1960年代から70年代に活躍したポップカルチャーの旗手たちがパーティに集う姿を捉えたものが多い。2011年には、エルニが自ら編集に携わったフォトブック『Zeitgeist & Glamour(時代精神と魅惑)』を出版。アンディ・ウォーホルのスタジオ「ファクトリー」や伝説のナイトクラブ「スタジオ54」、アメリカ国外のナイトクラブなどで撮影されたこの時代のセレブリティの写真を網羅・解説している。
ヤエル&ゲイリー・フェゲル(Yael and Gary Fegel)
拠点:イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク、スイス・チューリッヒ
職業:投資家(GMF Capital)
収集分野:現代アート
「私が生きてきた世界では儲かるか損するかのどちらかで、その中間はない」と、ゲイリー・フェゲルは米フォーブス誌に語ったことがある。フェゲルとその妻ヤエルが、美術品収集というあまり一般的ではない趣味のコツをすぐに会得したのには、こうした経験が役立っているのかもしれない。スイスの大手資源企業、グレンコアを10年以上率いたゲイリーは2013年に同社を離れ、現在は不動産、テック系スタートアップ、医療サービス分野などに幅広く投資を行っている。フェゲルの退職は、業界から驚きを持って受け止められた。当時彼は、国際的な資源市場で最も影響力のあるポジションにいたからだ。しかも辞職の数週間前には、それまでの仕事を続けることを表明してもいた。
スーザン&レナード・ファインスタイン(Susan and Leonard Feinstein)
拠点:アメリカ・ニューヨーク/ロングアイランド、フロリダ州パームビーチガーデンズ
職業:小売業
収集分野:近現代アート
レナード・ファインスタインは、トップ200コレクターの1人、ウォーレン・アイゼンバーグとともに家庭雑貨のチェーン店「ベッド・バス・アンド・ビヨンド」を1971年にニュージャージー州で設立し、1999年からは共同会長を務めている。2005年にアイゼンバーグ夫妻とファインスタイン夫妻は、ニューヨークのニューミュージアムの移転・新築に対し、共同で700万ドル(約10億円)の寄付を行った。
シャーロット・フェン・フォード(Charlotte Feng Ford)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:フィランソロピスト
収集分野:現代アート
フィランソロピストでアートコレクターのシャーロット・フェン・フォードは、かつてUS版ARTnewsに「私の人生の中で、アートやクリエイティブな活動から刺激を受けなかった時期は記憶にありません」と語っている。実際、彼女はこれまで20年以上にわたり、セシリー・ブラウン、草間彌生、カレン・キリムニック、デイヴィッド・ハモンズ、アリス・ニール、ガブリエル・オロスコ、ローラ・オーエンズなどの主要作品を収集し続けてきた。
フランク・J・フェティータ3世、ロレンツォ・フェティータ(Frank J. Fertitta III and Lorenzo Fertitta)
拠点:アメリカ・ラスベガス
職業:カジノ事業(Station Casinos)、投資家(Fertitta Capital)
収集分野:近現代アート
父親からラスベガスのカジノ事業を受け継いだフランクとロレンツォのフェティータ兄弟は、経営が苦しくなっていた総合格闘技団体アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(UFC)を2001年に200万ドル(約2億9000万円)で買収して資産を拡大。50億ドル(約7200億円)規模の企業へと成長させた後、2017年8月に所有していたUFC株を売却した。ロレンツォはUFCの経営に関するワシントン・ポスト紙の取材に答え、「ネガティブなイメージばかりが取り沙汰されていたから、米国で最悪のブランドだったかもしれない」と語った。現在UFCは、トロント、サンパウロ、シンガポール、ロンドンにオフィスを構え、149カ国、30言語で数十億人の視聴者を抱えるまでになっている。
ラリー・フィンク(Larry Fink)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:資産運用会社(ブラックロック)
収集分野:現代アート
世界有数の資産運用会社、ブラックロックのCEOでニューヨーク近代美術館(MoMA)の理事でもあるローレンス・"ラリー"・フィンクは、2018年に米フォーブス誌の「世界で最も影響力のある人物」で28位にランクイン。2017年には同誌の「グローバル・ゲームチェンジャーズ」の25人にも選ばれているが、5.4兆ドル(約783兆円)の資産を誇る世界的企業のトップであることを考えれば、さほど驚くことではないだろう。
フィッシャー家(Fisher Family)
拠点:アメリカ・サンフランシスコ)
職業:小売業(GAP)
収集分野:現代アート、写真
アートコレクターのドナルド・フィッシャーとドリス・フィッシャーは、アメリカ最大級の衣料品チェーンを展開するGAP(ギャップ)の創業者だ。2009年に81歳で亡くなったドナルドは当時40歳で、アパレル小売の経験はなかった(それまで小売企業の株を買ってはいたものの、家業の家具製造に従事していた)。小売業を始めたのは、当時ドナルドがリーバイスで自分に合うジーンズを見つけられないでいたという小さなことがきっかけだったという。夫妻の息子、ロバート・フィッシャーは35年以上GAPの経営に携わり、2004年にドナルドの後を継いで取締役会議長に就任した。
アーロン・I・フライシュマン(Aaron I. Fleischman)
拠点:アメリカ・マイアミビーチ、ニューヨーク
職業:投資家
収集分野:近現代アート
マイアミビーチ在住の投資家、アーロン・I・フライシュマンは、ハーバード大学法科大学院卒業後に自分の名を冠した法律事務所をワシントンD.C.に設立し、35年以上にわたり業務を行ってきた。フライシュマンは電気通信法分野に強い弁護士として有名で、1980年代~90年代のケーブルテレビ・携帯電話業界の急成長と統合において重要な役割を果たした。その中には、1991年にベル・アトランティック(現ベライゾン)がメトロモバイルを約25億ドル(約3600億円)で買収した案件など、注目を集めたものが少なくない。また、他の業種でも数多くの米国企業や経営者の顧問を務めた。
マイケル・C・フォーマン、ジェニファー・ライス(Michael C. Forman and Jennifer Rice)
拠点:アメリカ・フィラデルフィア
職業:資産運用会社(FS Investments)
収集分野:近現代アート
マイケル・C・フォーマンは、約250億ドル(約3兆6000億円)の運用資産を扱う全米屈指の資産運用会社、FSインベストメンツのCEOだ。同社は「投資を民主化する」という方針を掲げ、大きな成功を収めている。具体的には、所得が7万ドル(約1000万円)以上で、最低5000ドル(約73万円)の投資を行う意思のある顧客であれば、民間企業に融資をすることができる。フォーマンは以前、オンラインメディアのフィラデルフィア・シチズンに、「老後のための貯蓄、教育のための貯蓄」を実現するものだと説明していた。
セシリエ・フレドリクセン、カトリーヌ・フレドリクセン(Cecilie Fredriksen and Kathrine Fredriksen)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:海運業
収集分野:現代アート、戦後美術
ノルウェーの大富豪、ジョン・フレドリクセンを父に持つ双子の姉妹、セシリエとカトリーヌは、当然のことながら常にタブロイド紙や業界紙から注目される存在だ。2017年に英ザ・サン紙から「若くてパワフル、次世代の超リッチで有能なビジネスウーマン」と評されたフレドリクセン姉妹は、有名人の結婚式や豪華なパーティに登場しては話題を振り撒いていた。しかし2019年になると、姉妹が父親の所有する世界的海運企業から遠ざけられつつあるという噂が流れ、その華やかさに翳りが見え始めたという憶測が流れた。カトリーヌはこれを、「事実無根の単なるゴシップ」だと否定している。
アマンダ&グレン・R・ファーマン(Amanda and Glenn R. Fuhrman)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:投資家(Tru Arrow Partners)
収集分野:現代アート
2014年、やはりARTnewsのトップ200コレクターズに名を連ねるジョン・フェランとともに投資会社のMSDキャピタルを共同設立したグレン・ファーマンは、かつてオースティン・クロニクル紙にこう語った。「私と妻のアマンダが惹かれるのは、美的な面で大きな魅力があり、そこに何らかの意味合いが重なっている作品。単に美しい絵であるだけではない何かを持つ作品です」
バーバラ&マイケル・ガムソン(Barbara and Michael Gamson)
拠点:アメリカ・コロラド州アスペン、テキサス州ヒューストン
職業:エネルギー取引
収集分野:現代アート
マイケル・ガムソンは、エネルギー取引で約40年のキャリアを持つ業界の有力者だ。一方、以前は公認会計士だったバーバラ・グート=ガムソンは、高額物件を中心とした不動産業に携わっている。
デニス&ゲイリー・ガードナー(Denise and Gary Gardner)
拠点:アメリカ・シカゴ
職業:消費財
収集分野:現代アート(主にアフリカ系アメリカ人の作家)
2021年、デニス・ガードナーはシカゴ美術館の理事長に選出され、アメリカにおける主要美術館の理事会を率いる初の黒人女性として歴史に名を刻んだ。彼女は夫のゲイリーとともに、その十数年前から活発なアート収集を続けている。
デヴィッド・ゲフィン(David Geffen)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:映画・音楽プロデューサー、投資家
収集分野:近現代アート、戦後美術(特に抽象表現主義)
エンターテインメント界の大物デヴィッド・ゲフィンが、マーク・ロスコやジャクソン・ポロックといった戦後美術の有名作家をコレクションしているのはよく知られている。ゲフィンの出身地にあるロサンゼルス現代美術館で、1990年から2012年まで長年にわたりチーフキュレーターを務めたポール・シンメルは、「どの作品も戦後のアメリカ美術を代表するものです。デヴィッド・ゲフィンのコレクションほど優れたものはありません」と2006年にロサンゼルス・タイムズ紙に語った。「オールドマスターの最高峰を集めたフリック・コレクションのように、戦後のアメリカ美術にはゲフィン・コレクションがあるのです」
ヤスミン&ササン・ガンデハリ(Yassmin and Sasan Ghandehari)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:投資家(産業・不動産)
収集分野:現代アート、戦後美術、印象派
ササン・ガンデハリの母、フーリエ・ペラマムは、17歳のときに生まれ故郷のカザフスタンを離れ、徒歩でイランの難民キャンプにたどり着いた。彼女はイラン人医師(ササンの父)と結婚すると隣の家を購入して不動産業を始め、のちに一大不動産企業を築き上げた。ササンは、その不動産コングロマリットでベンチャーキャピタル部門を率いている。
ダニー・ゴールドバーグ(Danny Goldberg)
拠点:オーストラリア・シドニー
職業:未公開株・不動産投資
収集分野:欧米の現代アート
オーストラリアの投資家、ダニー・ゴールドバーグは、自分のアートコレクションに不満があるようだ。その不満とは、コレクションが膨大すぎて、自宅でもオフィスでも、もう飾るスペースが残っていないことだという。オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙が伝えるところによると、所有する作品で飾ることができるのは全体の約27%で、残る73%のうち2割は、たいていどこかの美術館に貸し出されている。ゴールドバーグは同紙にこう語っている。「お金をかけた美術品が倉庫に眠っているのでは意味がない。見てもらえないのなら、他のことにお金をかけるしかなくなる」
ベルナルド・ゴメス・マルティネス(Bernardo Gómez Martínez)
拠点:メキシコ・メキシコシティ
職業:メディア企業(Grupo Televisa)
収集分野:現代アート
ベルナルド・ゴメス・マルティネスは、メキシコシティに本拠を置くグルーポ・テレヴィザで取締役副社長を務めている。同社は、スペイン語圏で有数のメディア企業だ。現場主義者の彼は、テレヴィザ全体のコンテンツ編集権を握り、政府への窓口を自分に集中させている。実際、過去2回のメキシコ大統領選挙では、テレヴィザ側の窓口として全てを仕切り(テレヴィザはメキシコの大統領選挙報道を独占)、さらには同社の法務部門の管轄者でもある。
ローレンス・グラフ(Laurence Graff)
拠点:スイス・グシュタード
職業:宝石商
収集分野:近現代アート
1960年にグラフ・ダイヤモンドを設立したローレンス・グラフは、「キング・オブ・ダイヤモンド」の異名を持つ。同社は、紛争国とのダイヤモンド原石の取引を規制する「キンバリープロセス」を厳格に遵守していることでも知られる。グラフは15歳で学校を辞め、地元イーストロンドンの宝石商に弟子入り。1960年代初頭には、中世からロンドンの宝石取引の中心地であったハットンガーデンで、2軒の宝石店を経営するようになった。
ケネス・C・グリフィン(Kenneth C. Griffin)
拠点:アメリカ・マイアミ
職業:ヘッジファンド
収集分野:現代アート、後期印象派
大手ヘッジファンド、シタデル創業者のケネス・C・グリフィンは、億万長者のフィランソロピストだ。ハーバード大学在学中、寮の屋根に衛星アンテナを設置してリアルタイムで株取引を行い、卒業前に最初の会社を立ち上げたのが、巨額の資金を動かす金融の世界への入り口だった。
ジェフリー・ガンドラック(Jeffrey Gundlach)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:資産運用会社(ダブルライン・キャピタル)
収集分野:現代アート
ロサンゼルスを拠点とするコレクターでファンドマネージャーのジェフリー・ガンドラックは、2019年に投資関連メディアのキプリンガーに対し、「私はアメリカ国内最大級の一流作品のコレクションを持っている」と豪語した。彼が謙遜するタイプではないのはよく知られているが、アンディ・ウォーホル、ウィレム・デ・クーニング、アレクサンダー・カルダー、ドナルド・ジャッドなど、現代アートのビッグネームの作品を多数所有していることを考えれば、誇らしげに語るのは当然かもしれない。また、ニューヨーク州バッファローで育ったガンドラックは、生まれ故郷にあるオルブライト=ノックス美術館の大規模拡張工事にあたり、6500万ドル(約94億円)という最大額の寄付を行った。同館は2023年6月、バッファローAKG美術館としてリニューアルオープンするが、AKGのGはガンドラックのことを指している。
クリスティン&アンドリュー・ホール(Christine and Andrew Hall)
拠点:アメリカ・フロリダ州パームビーチ
職業:フィランソロピスト
収集分野:現代アート
クリスティン・ホールとアンドリュー・ホールは、所有する戦後美術と現代アート作品を一般公開するため、2007年にホール・アート財団を設立。アメリカ・バーモント州の元酪農場にある展示用スペースのほか、マサチューセッツ州ノースアダムズのマサチューセッツ現代美術館、イギリス・オックスフォードのアシュモレアン博物館とのパートナーシップを結んでいる。また、ドイツのベルンブルクにも古い城を利用した支部がある。
リヒテンシュタイン公国公爵ハンス・アダム2世(Hans-Adam II, Prince of Liechtenstein)
拠点:リヒテンシュタイン・ファドーツ
職業:リヒテンシュタイン公国元首
収集分野:オールドマスター
リヒテンシュタイン公ハンス・アダム2世の1600点以上にのぼる膨大な美術品コレクションの多くは、ウィーンのリヒテンシュタイン美術館に展示されている。ハンス・アダム2世は2004年、アート・ニュースペーパー紙にこう語っている。「我われの美術品を一般に公開するのは一族の伝統です。第2次世界大戦中、父は美術品を倉庫に避難させざるを得ませんでした。それを再び展示することができるのは、私にとって、そして家族全員にとって大きな喜びです」
何劍鋒(He Jianfeng)
拠点: 中華人民共和国・広東省仏山市順徳区
職業:投資家
収集分野:現代アート、中国の近現代アート
2020年初め、何劍峰は自らの故郷、中国・広東省仏山市の順徳区に私設美術館を開設すると発表し話題を集めた。延床面積1万6000平方メートルの「和美術館」の設計は、プリツカー賞受賞の建築家、安藤忠雄が担当。創設ディレクターを務めるシャオ・シュウは、以前は上海の龍美術館でキュレーターチームのトップだった人物だ。
ジャニーン&J・トミルソン・ヒル(Janine and J. Tomilson Hill)
拠点: アメリカ・ニューヨーク
職業:投資ファンド運用
収集分野:現代アート、オールドマスター、戦後美術、ルネサンスとバロックのブロンズ彫刻
カラヴァッジョの真作なのか議論のあった《ユディトとホロフェルネス》(1607)は、2014年に偶然「再発見」され、2019年にカラヴァッジョ作としてフランスのオークションに出品されることになった。予想落札価格は1億7000万ドル(約247億円)だったが、実際に出品される数日前、引き取り手が決まったとオークションハウスが発表。ニューヨーク・タイムズ紙は、買い手はJ・トミルソン・ヒルだと伝えた。
マルグリット・ホフマン(Marguerite Hoffman)
拠点: アメリカ・ダラス
職業:投資家
収集分野:中国の水墨画、中世の装飾写本、欧米の戦後美術
マルグリット・ホフマンが初めて買ったアート作品は、フォートワース在住の作家、リチャード・シェイファーの絵画だった。当時30代だった彼女は、支払いを長期の分割払いにしたという。「ダラス美術館で働いていた私の給料では、そうするしかなかったのです」と、彼女はUS版ARTnewsの取材に答えている。
マーヤ・ホフマン(Maja Hoffmann)
拠点:アメリカ・ニューヨーク、スイス・チューリッヒ
職業:遺産相続(医薬品)
収集分野:現代アート
マーヤ・ホフマンは、実業家エマニュエル・ホフマンの孫娘で、製薬業界の大物かつ自然保護活動家のリュック・ホフマンとダリア・ホフマン・ラズモフスキーの娘だ。彼女は1980年代のニューヨークで、スイスの演劇監督ヴェルナー・デュゲリンとともに美術品の収集を始めた。その頃コレクションしたのは、ジュリアン・シュナーベル、ジャン=ミシェル・バスキア、フランチェスコ・クレメンテ、アンディ・ウォーホルなど、ニューヨークのダウンタウンで活躍していた作家たちだ。
ジミー・アイオヴィン&リバティ・ロス(Jimmy Iovine and Liberty Ross)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:レコード会社経営、音楽プロデューサー
収集分野:現代アート
レコードエンジニア出身のジミー・アイオヴィンは、1990年にインタースコープ・レコードを設立。のちに同レーベル所属のDr. Dreとともに、オーディオブランド「Beats by Dre」を運営するビーツ・エレクトロニクスを共同設立し、2014年には同社をアップルへ売却。Apple Musicのローンチと成長戦略の中心的役割を担ってきた。
ダキス・ジョアノー(Dakis Joannou)
拠点:ギリシャ・アテネ
職業:建設業
収集分野:現代アート
ダキス・ジョアノーが初めて購入したアート作品は、ジェフ・クーンズの《Equilibrium Tank》(1985)だった。ジョアノーは、透明なケースの中でバスケットボールが宙に浮いているように見えるこの作品を、今も自分の最も貴重な財産だと考えているという。その後、ジョアノーはクーンズに全長35メートルの豪華ヨット、ギルティ号のデザインを依頼。2022年には、自らが設立した財団がギリシャのイドラ島で毎年行う展覧会でクーンズ作品を展示している。
パメラ・J・ジョイナー、アルフレッド・J・ジュフリーダ(Pamela J. Joyner and Alfred J. Giuffrida)
拠点:アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ、ソノマ
職業:プライベート・エクイティ投資
収集分野:アフリカ系アメリカ人作家の抽象画、アフリカ系ディアスポラ作家の作品、南アフリカの現代アート
パメラ・J・ジョイナーとアルフレッド・J・ジュフリーダは、2017年にマーク・ブラッドフォードの大作《A Private Stranger Thinking About His Needs》(2016)を購入。この作品は、「Solidary & Solitary」と題された所有コレクション展の目玉となった。同展は、シカゴのスマート美術館、ボルチモア美術館、ノースカロライナ州ダーラムのデューク大学ナシャー美術館などを巡回している。ブラッドフォードの作品は、カンバスや紙などでできた巨大な吊り下げタイプであるため、巡回展から戻ってくるのに備え、ジョイナーは自宅の天井を補強。また、「その部分の光量を調節するため、窓を設計し直したり、照明をやり直したり、近くにある作品も飾り直さなければならない」と述べている。
ナセル・D・ハリリ(Nasser David Khalili)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:不動産業、投資家
収集分野:アラム語文書(紀元前535~324年)、各国のエナメル工芸品(1700~1900年)、メッカ巡礼に関するアート(700-2000年)、イスラム美術、明治期の日本美術、日本の着物(1700-2000)、スペインのダマスク柄金属細工(1850-1900年)、スウェーデンのテキスタイル(1700~1900年)
「私の収集熱は7歳のころからのものです。コレクターとして生まれ、コレクターとして死ぬと考えています」と、ナセル・D・ハリリはUS版ARTnewsに語ったことがある。元美術商で慈善家でもあるイギリス系イラン人の彼は、40年以上前から(ハリリ家の家族信託を通じて)イスラム美術(700-2000)、アラム語文書(紀元前535-324)、スウェーデンのテキスタイル(1700-1900)など、専門性の高い8つの分野の美術品を収集している。
キム・ウンギ(Woong-ki Kim)
拠点:韓国・ソウル
職業:アパレル製造(Global Sae-A Group)
収集分野:韓国の近現代アート
キム・ウンギは、ソウルを拠点とするコングロマリット、Global Sae-A Group の会長だ。同グループは、世界最大級のアパレル輸出企業のほか、インドネシアの生地製造会社、コスタリカの製糸会社、ファッションブランド、建設会社、食品・飲料会社、段ボール・紙パッケージ製造会社などを傘下に持つ。キムは企業経営において、最高レベルの環境基準を目指し、社会的責任を果たすことを重視しつつ、それぞれの業種での技術革新にも重きを置いているという。
ジル&ピーター・クラウス(Jill and Peter Kraus)
拠点:アメリカ・ニューヨーク州ダッチェス郡
職業:資産運用会社
収集分野:現代アート
ピーター・クラウスは、彼が「キュレーター」と呼ぶ妻のジル・クラウスと過ごす時間を増やすために、美術品の収集を始めたという。現在、そのコレクションの多くは、ウォール街にあるピーターのオフィスに展示されている。しかし、夫妻は所有作品を独り占めしているわけではない。ジルが理事を務めているニューヨーク近代美術館(MoMA)には、時を示す古今東西の映像をコラージュした24時間にもおよぶクリスチャン・マークレーのビデオインスタレーション《The Clock》を寄贈したほか、ロサンゼルスのハマー美術館にも作品の寄贈を行っている。
マリー=ジョゼ&ヘンリー・R・クラヴィス(Marie-Josée and Henry R. Kravis)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:金融・投資業
収集分野:18世紀フランス装飾美術、フランス・アールデコ家具、近現代アート
マリー=ジョゼとヘンリー・R・クラヴィス夫妻のコレクションには、ルイ14世の家具、ピエール=オーギュスト・ルノワールやクロード・モネの絵画など、錚々たる美術品が含まれている。また、夫妻が設立したマリー=ジョゼ&ヘンリー・R・クラヴィス財団は、1985年以来、芸術や健康に関連する団体に数億ドルを寄付してきた。ヘンリーは、世界有数の投資企業であるKKR(旧コールバーグ・クラビス・ロバーツ・アンド・カンパニー)の共同設立者で、2022年に米フォーブス誌はその純資産を80億ドル(約1兆1600億円)と推定している。経済学者であるマリー=ジョゼは、ニューヨーク連邦準備銀行の役員を務め、新進作曲家に贈られる世界で最も権威のある賞の1つであるマリー=ジョゼ・クラヴィス賞を主宰。2005年にニューヨーク近代美術館(MoMA)の評議会議長となり、2021年には理事長に就任した。
グラジナ・クルチク(Grażyna Kulczyk)
拠点:スイス・エンガディン
職業:起業家、フィランソロピスト(スーシュ美術館)
収集分野:現代アート(女性アーティスト、コンセプチュアル・アート、パフォーマンス・アートが中心)、戦後美術
ポーランド出身の起業家・投資家であるグラジナ・クルチクは、まだ法学部の学生だった頃にアート収集を始めた。初めに購入したのは、共産党政権下で作られたポスターや、ポーランドの19世紀の美術品だったという。共産主義政権の崩壊後、クルチクは自動車、通信、エネルギー分野で成功を収め、ポーランドの現代アートを支援するようになった。2003年には、故郷であるポーランド西部の都市ポズナンで、廃墟となった醸造所、スタリー・ブロバーを購入・改装し、商業施設と美術施設をオープン。現在は、数多くのショップやアートギャラリーが並んでいる。
ピエール・ラグランジュ(Pierre Lagrange)
拠点:イギリス・ロンドン
職業:暗号資産投資、ヘッジファンド、紳士服仕立て(H. Huntsman & Sons)
収集分野:現代アート、戦後美術
ゴールドマン・サックスやJPモルガンでの勤務経験があるピエール・ラグランジュは、ジョナサン・グリーン、ノーム・ゴッツマン(戦後美術や現代アートのコレクター)と共同でヘッジファンドのGLGパートナーズを設立。同社は2010年、16億ドル(約2320億円)でマン・キャピタルに買収された。ゴッツマンは会社を離れたが、ラグランジュはマン・グループのシニアアドバイザーとして残り、2013年にはサヴィル・ロウのテイラー「H. Huntsman & Sons」を買収した。2015年の英デイリー・メール紙の報道によると、ラグランジュの純資産は、約5億ポンド(約825億円)とされる。
バリー・ラム(Barry Lam)
拠点:台湾・台北
職業:電子機器製造(クアンタ・コンピュータ)
収集分野:近代水墨画、宋代の陶磁器
1988年にバリー・ラムが台湾で設立したクアンタ・コンピュータは、アップルやデルといったブランドのノートパソコン生産を行っているOEMメーカーだ。ニューヨーク・タイムズ紙はかつて同社のことを、「世界で最も重要で、最も知名度の低いコンピュータメーカー」と評したことがある。
バーバラ&ジョン・ランドー(Barbara and Jon Landau)
拠点:アメリカ・ニューヨーク州ウェストチェスター、ニューヨーク
職業:エンターテインメント
収集分野:19世紀のフランス・イギリス絵画、ルネサンスおよびバロックの絵画・彫刻
15世紀に制作されたルカ・デッラ・ロッビアの300キロ以上もある彫刻を、どう据え付けるのがベストなのか? ランドー夫妻の150点ものコレクションからは、頻繁にメトロポリタン美術館(MET)へ作品が貸し出されているが、そのたびに「小さな軍隊」のようなアートインストーラーが動員される。ジョン・ランドーはUS版ARTnewsに、「その作業を見るのを考えただけで疲れてしまう」と語っている。
スティーブン・ラトナー、マイケル・ラトナー(Steven Latner and Michael Latner)
拠点:カナダ・トロント
職業:不動産業
収集分野:近現代アート
スティーブン・ラトナーとマイケル・ラトナーの父は、不動産の開発・売買によりトロント市でトップクラスの財産を築いた故アルバート・ラトナーだ。カナダのグローブ・アンド・メール紙によると、アルバートはロースクールの在学中に妻のテミーが妊娠したため、大学院を中退して義父が経営する小さな住宅建設会社のスタッフになったという。その後、同社を業界の有力企業に育て上げた彼は、政治活動にも積極的に取り組み、アートコレクターとして故郷のパブリックアートプロジェクトへの支援を惜しまなかった。
ジョセフ・ラウ(Joseph Lau)
拠点:香港
職業:不動産業
収集分野:近現代アート(主にアンディ・ウォーホル)
米フォーブス誌によると、チャイニーズ・エステーツ・ホールディングスの会長を務める香港の不動産王、ジョセフ・ラウの2022年現在の純資産は136億ドル(約1兆9700億円)。その経済力で高額なアート作品や宝石を購入しているほか、違法な土地取引に関与したとされる。
ジョー・キャロル&ロナルド・S・ローダー(Jo Carole and Ronald S. Lauder)
拠点:アメリカ・ニューヨーク、ニューヨーク州ワインスコット、ワシントンD.C.、フロリダ州・パームビーチ、フランス・パリ、オーストリア・ウィーン
職業:化粧品製造販売(エスティローダー カンパニーズ)
収集分野:13~14世紀イタリア金地背景画、古美術、武器・甲冑、中世美術、オールドマスター、20世紀装飾美術、オーストリア・ドイツ表現主義、戦後のドイツ・イタリア美術、現代アート
化粧品業界の伝説的人物、エスティ・ローダーの息子であるロナルド・S・ローダーは、中世から現代に至る4000点以上の美術品を所蔵している。彼の収集方針は、芸術を「Oh」、「Oh My」、「Oh My God(OMG)」の3つのレベルで考え、「OMG」だけを集めることをだ。そして、最高の作品を入手するためには時間をかけることを厭わず、金にも糸目をつけないと語っている。
リー・リン(Li Lin)
拠点:中国・杭州
職業:ファッションブランド(JNBY)
収集分野:現代アート
中国のファッションデザイナー、リー・リン(李琳)は、美術を学びたいと思っていたものの、父親から言われた通り化学の道に進んだ。業界メディアのビジネス・オブ・ファッションによると、大学卒業後2年間は化学系企業で働いたが、最終的にはファッションの世界に挑戦することを決意。1994年に中国のデザイン学院の卒業生12人を集め、自分のファッションブランドを立ち上げた。
アレック・リトウィッツ、ジェニファー・ライシュナー・リトウィッツ(Alec Litowitz and Jennifer Leischner Litowitz)
拠点:アメリカ・イリノイ州
職業:投資家
収集分野:現代アート
アレック・リトウィッツは、イリノイ州に拠点を置く資産運用会社マグネター・キャピタルの創業者・CEO。シカゴ大学で法学博士と経営学修士を取得したリトウィッツは、ニューヨークのJ.P.モルガン、シカゴのシタデル・インベストメント・グループで金融界のキャリアを積んだ。トライアスロンに出場する熱心なスポーツマンでもあり、マサチューセッツ工科大学の学部生時代には、同大学でスカッシュの全米大会に出場した初の選手になっている。
マーガレット・マンザー・ローブ&ダニエル・S・ローブ(Margaret Munzer Loeb and Daniel S. Loeb)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:ヘッジファンド運営会社
収集分野:現代アート、フェミニスト・アート、戦後美術
ヘッジファンド・マネージャーのダニエル・S・ローブは、オンラインメディアのビジネスインサイダーに、「私がアートを買い始めたのは、ひとえにそれが好きだったからだ」と語ったことがある。有力ヘッジファンド、サード・ポイント創業者の1人であるローブと妻のマルグリット・マンザー・ローブは、リチャード・プリンス、マイク・ケリー、シンディ・シャーマン、アンディ・ウォーホルなど、現代アートの一大コレクションを所有している。また、2013年にサード・ポイントは、大手オークションハウス、サザビーズの大株主となった。
エウヘニオ・ロペス・アロンソ(Eugenio López Alonso)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス、メキシコ・メキシコシティ
職業:飲料メーカー(Grupo Jumex)
収集分野:現代アート
メキシコの大手飲料メーカー、ジュメックスの後継者であるエウヘニオ・ロペス・アロンソは、メキシコにおける現代美術展やアメリカの大学やアートスクールのラテンアメリカ美術講座、アメリカの美術館でのラテンアメリカ美術関連プログラムなどを支援するパトロンとして知られている。
ジョージ・ルーカス、メロディ・ホブソン(George Lucas and Mellody Hobson)
拠点:アメリカ・カリフォルニア州、イリノイ州
職業:映画制作・プロデュース、フィランソロピスト(ルーカス美術館、ホブソン/ルーカス・ファミリー財団、ジョージ・ルーカス教育財団)
収集分野:19世紀・20世紀のアメリカおよびヨーロッパ絵画、アフリカ系アメリカ人のアート、現代アート、素描とイラストレーション、コミックアート、シネマティックファッション、物質文化、写真
映画監督のジョージ・ルーカスと、アリエル・インベストメンツで共同CEO兼社長を務めるメロディ・ホブソンは、2013年に結婚する前からそれぞれアート収集に情熱を注いできた。ホブソンは、カラ・ウォーカー、ゲイリー・シモンズ、ノーマン・ルイスなど、アフリカ系アメリカ人アーティストの作品を中心に収集。一方のルーカスは、ノーマン・ロックウェル、トーマス・ハート・ベントン、フランク・フラゼッタ、ジェイコブ・ローレンス、ウィンザー・マッケイ、ゴードン・パークス、マックスフィールド・パリッシュの作品やイラストレーション、デジタル作品、コミック、映画、アニメーションなどのコレクションを40年以上続けている。
バーナード・ランプキン、カーマイン・ボッカッツィ(Bernard Lumpkin and Carmine Boccuzzi)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:フィランソロピスト、法律家
収集分野:現代アート(主にアフリカ系の新進アーティスト)
世界のトップコレクターの多くは、自分のコレクションに加える作品を選ぶのにアートアドバイザーを使う。しかし、バーナード・ランプキンはアドバイザーに頼むことはない。2020年に彼は、カルチャーメディアのDazedにこう語っている。「アートアドバイザーがいるのですかと、よく聞かれます。そういうときには、私にはたくさんのアドバイザー、つまりキュレーター、アーティスト、ギャラリスト、他のコレクターなどがついていますよと答えます。つまり、自分でリサーチして、人と話して、自分の目を鍛えるんです」
ビクター・マー(Victor Ma)
拠点:台湾・台北
職業:金融業(元大金融控股)
収集分野:20世紀のアジア美術
台湾が国際的なアート界への仲間入りを果たしたのは、ビクター・マーのようなベテランコレクターの力によるところが大きい。ユアンタ・フィナンシャル・ホールディングス(元大金融控股)の取締役を務めるマーは、中国の大物画家による数多くの作品に加え、ブライアン・ハントやキース・ヘリングなど、欧米の現代アートもコレクションしている。
マーティン・Z・マーグリーズ(Martin Z. Margulies)
Photo: ©Alex Tarajano/Alexphoto.com
拠点:アメリカ・フロリダ州キービスケーン、ニューヨーク
職業:不動産デベロッパー
収集分野:近現代アート
マーティン・Z・マーグリーズは2008年のインタビューで、8億ドル(約1160億円)にのぼると評価される自身のコレクションについて、こう表現した。「私の性格を反映しているのかもしれません。私の人生における外的・内的体験の集大成ですから」
チーチ・マリン(Cheech Marin)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:俳優
収集分野:メキシコ系アメリカ人アーティストの作品
人気コメディアン、俳優、マリファナ愛好家としてのチーチ・マリンについて説明する必要はないだろう。ただ、彼が1980年代からチカーノアート(メキシコ系アメリカ人のアート)を多数コレクションしていることは、まだあまり知られていないかもしれない。マリンは、ギルバート・"マグー"・ルハン、カルロス・アルマラス、フランク・ロメロといった著名なチカーノアーティストをはじめとする約700点の作品を所有し、それを一般公開している。2001年から2007年にかけては、彼のコレクションから作品を集めた大型展「Chicano Visions: American Painters on the Verge」が全米12都市を巡回した。
ジェフ・マークリー(Jeff Markley)
拠点:アメリカ・ボストン
職業:電気通信業(The Markley Group)
収集分野:戦後美術
ジェフ・マークリーが創業したマークリー・グループの拠点は、ボストンにある。そのオフィスに入ると目に飛び込んでくるのが、レイ・ターナーが描いた社員全員の肖像画だ。マークリーは、以前からターナーを収集しており、2014年には、ルイジアナ州のアレクサンドリア美術館、バージニア州のハンティントン美術館、カンザス州のウィチタ美術館にターナーの作品を寄贈したと発表。当時マークリー・グループは、寄贈について「アートの価値を世に知らせる」ためだと説明している。
デイヴィッド・マルティネス(David Martinez)
拠点:イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク
職業:投資アドバイザー
収集分野:近現代アート
フィンテック・アドバイザリー社を創業したデイヴィッド・マルティネスは、2006年にジャクソン・ポロックの《No.5, 1948》を、1億4千万ドル(約203億円)という記録的な落札額で手に入れたことで知られる。ただし、本人はこの作品の所有を否定している。その8年後、マルティネスはクリスティーズでフランシス・ベーコンの《Portrait of George Dyer Talking》(1969)を7000万ドル(約102億円)で売却。また、ダミアン・ハーストなど一流アーティストの作品を所有しているとされる。
レイモンド・J・マクガイア、クリスタル・マクラリー(Raymond J. McGuire and Crystal McCrary)
・拠点:アメリカ・ニューヨーク
・職業:投資銀行
・収集分野:アフリカ美術、アフリカ系アメリカ人の作品
投資銀行業界で名を成したレイモンド・J・マクガイアは、2011年に米ブラック・エンタープライズ誌の「ウォール街のアフリカ系アメリカ人トップ75」の1人に選ばれた。数々の大規模M&Aを手がけた彼は「非凡なディールメーカー」と称賛され、ニューヨーク・タイムズ紙はファッションも「完璧」だと評している。2005年にマクガイアはモルガン・スタンレーのトップバンカーからシティグループに移り、投資銀行部門のグローバル共同責任者に就任。2021年にはニューヨーク市長選に担ぎ出された。
ジョン・S・ミドルトン(John S. Middleton)
拠点:アメリカ・フィラデルフィア
職業:製造業
収集分野:19世紀・20世紀のアメリカ美術
メジャーリーグ球団、フィラデルフィア・フィリーズのオーナーであるジョン・S・ミドルトンは、2007年に一族の葉巻会社、ジョン・ミドルトン社を29億ドル(約4200億円)で売却して注目を集めた。同社は、1856年にジョン・S・ミドルトンの曽祖父、ジョン・ミドルトンがフィラデルフィアで創業したタバコ店から始まった。
ロドニー・ミラー(Rodney Miller)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:金融業
収集分野:近現代アート(主に黒人アーティストの作品)
ウォール街で長年活躍してきたロドニー・ミラーは、現在JPモルガン・チェースのM&A担当副会長として、数十億ドル規模の案件を数多く手掛けている。彼は1986年にシカゴ大学経営大学院でMBAを取得後、公認会計士として働き始めたが、すぐに投資銀行に転職。クレディ・スイス・ファースト・ボストン(当時)を経て2007年にJPモルガンに入社した。
ジュリー&エドワード・J・ミンスコフ(Julie and Edward J. Minskoff)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:不動産業
収集分野:欧米の近現代アート、ポップアート、戦後美術
ニューヨークの不動産デベロッパーとして長年活躍してきたエドワード・J・ミンスコフとその妻ジュリーは、パブロ・ピカソの作品19点を含む700点ものコレクションを築いている。その中で夫妻が最も大切にしているのは、ピカソが猿の母子を描いた彫刻《La guenon et son petit》(1951年)だという。また、ウィレム・デ・クーニング、ジャクソン・ポロック、ジャスパー・ジョーンズ、ジャン=ミシェル・バスキア、ロイ・リキテンスタインなど20世紀のアーティストのほか、ダミアン・ハーストやジェフ・クーンズといった現代アート作品も所有している。
ヤール&パメラ・モーン(Jarl and Pamela Mohn)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス、ニューヨーク
職業:ベンチャーキャピタル
収集分野:ロサンゼルスの新進アーティスト、ライト・アンド・スペースおよびミニマリズムの作品
60年代後半にディスクジョッキーとしてラジオの世界に入ったヤール・モーンは、リー・マスターズという名で20年ほどキャリアを積んだ。その後、MTVとVH1の幹部となり、E!エンタテインメント・テレビジョンの設立、南カリフォルニア公共ラジオの会長を経て、2014年から2019年まではCEOとしてNPR(米国公共ラジオ放送)を率いた。ベンチャーキャピタルとしては、スタブハブ、オキシジェン・メディア、ライアット・ゲームズ、フレッシュ・ペットなどに投資している。
ケリー&スコット・ミューラー(Kelly and Scott Mueller)
拠点:アメリカ・クリーブランド
職業:タイヤ販売(Dealer Tire)
収集分野:現代アート、20世紀のデザイン
ディーラー・タイヤ社のCEO、スコット・ミューラーとケリー夫人は、長年クリーブランド美術館への援助を続けてきた。同美術館への2000万ドル(約29億円)を超える寄付はスコットによるものというニュースが流れたとき、彼は「クリーブランド美術館が傑出した現代アートを収集・研究し、新進アーティストの作品を積極的に展示できるようにしたい」と語っている。スコットはまた、2019年から2022年まで同美術館の理事長を務めた。
キラン&シヴ・ナダール(Kiran and Shiv Nadar)
拠点:インド・デリー
職業:IT企業創業者、フィランソロピスト
収集分野:近現代アート、南アジア美術
2010年、6000点以上の作品を所蔵するキラン・ナダールは、夫のシヴとともにインド初の私設美術館を設立した。彼女はUS版ARTnewsの取材にこう語っている。「アートを目にすることのできる場所がほとんどないことを痛感し、私たちの社会に存在する素晴らしい芸術と文化への認識を高めることが使命であると気づいたのです。美術館を設立することで、青少年の美術教育に貢献できるようになりました」。なお、同美術館にはキランの名が冠されている。