バーバラ・ブルーム=カウル&ドン・カウル(Barbara Bluhm-Kaul and Don Kaul)
拠点:アメリカ・シカゴ
職業:不動産業、法律家(引退)
収集分野:戦後美術、現代アート
シカゴ有数のコレクターとして名高いバーバラ・ブルーム=カウルとドン・カウル。ドンはシカゴ現代美術館の終身理事、バーバラはシカゴ美術館理事で、シカゴのアートフェア、エキスポ・シカゴの市民委員会のメンバーでもある。2015年にバーバラは、シカゴ現代美術館のベネフィット・アート・オークションで共同司会を務めた。その夜のライブオークションの目玉は、シカゴを拠点とするケリー・ジェームズ・マーシャルがこのイベントのために制作した絵画作品《Still-life With Wedding Portrait》で、70万ドル(約1億円)で落札されている。ちなみに、2019年12月時点のマーシャルの高額落札記録は、2018年5月にサザビーズ・ニューヨークでディディことショーン・コムズが競り落とした2110万ドル(約31億円)だ。
バーバラとドンが最も大切にしている作品の1つに、ポップアートの代表的な作家、ロイ・リキテンスタインが色鉛筆で描いた一辺14センチほどの小さなスケッチ、《Study for Crying Girl》(1964)がある。これは、同じ年にエナメル塗料で制作された有名な作品《Crying Girl》(ウィスコンシン州ミルウォーキー美術館所蔵)の習作で、2012年にシカゴ美術館で開催されたリキテンスタインの回顧展に貸し出された。この絵はその後、2年間ヨーロッパを巡回したのちカウル家のリビングルームに戻り、現在はイーゼルに置いて飾られているという。バーバラは、2012年のクレインズ・シカゴ・ビジネス誌のインタビューでこう語っている。「(絵の中で)涙を拭いている彼女のほうを見ないことがあります。そっとしておいてあげたいので」
カウル夫妻はまた、数多くの作品をシカゴ美術館に寄贈している。たとえば、白髪一雄による1960年の抽象画《地闊星摩雲金翅》(*1)を2013年に、ダウード・ベイの1996年の写真作品を2015年に寄贈した。
*1 水滸伝豪傑シリーズより。英語でのタイトル表記は《Golden Wings Brushing the Clouds Incarnated from Earthly Wide Star》。
夫妻は、巨額の不動産取引でも話題になったことがある。2015年9月、シカゴ市内のミシガン湖畔にあるストリータービル地区のコンドミニアムが1037万5000ドル(約15億円)で購入され、その10日後に930万ドル(約13億6000万円)で再び売りに出された。なぜそれほど値が下がったかというと、売りに出された物件には屋上パティオが含まれておらず、下の居室(1フロアで5ベッドルーム)だけだったからだ。シカゴ・トリビューン紙によると、この謎の売買を行ったのはバーバラで、彼女は屋上パティオを所有するためだけにこの家を買ったのだという。もしかしたら、屋上に夫妻の所蔵品を飾りたかったのかもしれない。シカゴに行く機会があれば、レイクショアドライブを通るとき、この建物の屋根を見上げてみるのも一興だ。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。