2026年ヴェネチア・ビエンナーレの国別パビリオンリスト【随時更新】
2026年の第61回ヴェネチア・ビエンナーレは、黒人女性初の芸術監督、コヨ・クオを起用したことで注目を浴びたが、国別パビリオンと代表アーティストの人選に関するニュースも見逃せない。これまでに参加を公表した国の最新情報、第一弾をお届けする。

隔年開催されるヴェネチア・ビエンナーレ美術展の核となるのは、その時々のアート界の潮流を反映したテーマに沿ってキュレーションされるメイン展示だ。それを取り囲むのが数多くの国別パビリオンで、各国が1人または数人のアーティストを代表として選び、独自の展覧会を開催する。ヴェネチア・ビエンナーレが「アート界のオリンピック」、つまり新たにスターが生まれ、各国がしのぎを削る場だと見なされるのは、国別パビリオンの存在によるところが大きい。
開催直前まで参加の有無や内容が流動的なのも、国別展示の特徴だ。2024年のビエンナーレでは、ウクライナとガザで続く戦争の影響でいくつかの国が出展を取り止めた。2026年のビエンナーレでも、こうした紛争の状況によっては周辺地域で波乱が起きるかもしれないし、各国の国内情勢が参加するか否かの決定を左右する可能性もある。
この記事では、これまでに2026年のヴェネチア・ビエンナーレへの参加を決めた国別パビリオンをリストアップした。芸術監督(ビジュアル・アート部門ディレクター/キュレーター)を務めるのは、南アフリカ・ケープタウンのツァイツ・アフリカ現代美術館エグゼクティブディレクター兼チーフキュレーターのコヨ・クオで、メイン展示のテーマは2025年夏に発表されると見られる。国別パビリオンは、メイン展示のテーマに合わせるよう求められてはいないものの、多くの国がそれに呼応する代表アーティストや展示内容を選ぶ傾向にある。
ここで紹介するのは、ほとんどが公式の国別パビリオンのものだ。ただし、ヴェネチア・ビエンナーレは、イタリアと正式な外交関係を結んでいる国に限って国別パビリオンの出展を認めている。そのため、このリストにはコラテラルイベント(*1)として開催される展示も含まれており、該当するものに関してはその旨を記載した。
*1 ヴェネチア・ビエンナーレと同時期に周辺地域で開催される企画展。
これまでに決まった2026年ヴェネチア・ビエンナーレの国別パビリオンは以下の通り。なお、このリストは定期的に更新され、新たに発表された参加国を追加していく。
オーストリア:フロレンティナ・ホルツィンガー(Florentina Holzinger)

2024年のアンナ・イェルモラエヴァに引き続き、オーストリア館は2026年もダンスに焦点を当てた展示を行う。代表アーティストに選ばれたのは、振付家でパフォーマンスアーティストのフロレンティナ・ホルツィンガー。しばしば非常に性的で、時に目を背けたくなるほど強烈な作品で知られる彼女は、各地で作品が上演される人気振付家の1人として注目度が急速にアップしている。
裸でローラースケートをする修道女とレズビアンの司祭が登場するオペラ《Sancta(サンクタ)》は、2022年の初演時に母国で激しく批判され、宗教関係者の非難を浴びた。2024年にドイツで上演された際にも、ピアッシングや大量出血を表現したシーンで観客が吐き気を訴えるなど、物議を醸している。2026年のヴェネチア・ビエンナーレで彼女が予定している《Seaworld Venice(シーワールド・ヴェニス)》も、心地良い内容とは言えないものになりそうだ。
ベルギー:ミート・ワーロップ(Miet Warlop)

ベルギー代表に選出されたミート・ワーロップは視覚芸術と演劇を融合させたパフォーマンスで知られている。パビリオンは「IT NEVER SSST」と名付けられ、アントウェルペンのMORPHOとブリュッセルのカナル・ポンピドゥー・センターの支援のもと、キャロリン・デュマリンがキュレーションを担当する。
これまでにワーロップのパフォーマンスは、ベルギーのゲント現代美術館、ベルリンのクンストヴェルケ現代美術センター、パリのパレ・ド・トーキョー、リトアニアのビリニュスで開催された2012年のバルト・トリエンナーレ、2024年のヴェネツィア国際演劇祭で上演されている。
カナダ:アッバス・アカヴァン(Abbas Akhavan)

アッバス・アカヴァンは、トロント・ビエンナーレ・オブ・アートに参加し、カナダ人アーティストに贈られるソビー・アート・アワードを受賞したほか、有名展示施設で展覧会を開催するなど、本国で着実に実績を積み重ねている。2026年のヴェネチア・ビエンナーレへの参加で、その名声はひときわ高まるだろう。
アカヴァンはこれまで、物質的なモノに埋め込まれた国家の歴史に関心を持ち続けてきたが、カナダ館の展示でもこのテーマを取り上げる。テヘラン生まれで、モントリオールとベルリンを拠点に活動するアカヴァンは世界的にも認知度が上がっており、2026年はミネアポリスのウォーカー・アート・センターでの個展も予定されている。
エストニア:メリケ・エストナ(Merike Estna)

メリケ・エストナは、カンバスに油彩という伝統的なフォーマットを超えて絵画を拡張しようとする試みで、母国エストニアで広く知られている。壁にかける抽象画を制作する一方で、工芸的な技法を取り入れたり、絵の中のモチーフを展示室のあちこちに広げたり、彫刻的な要素を加えたりしてきた彼女がエストニア館でどう絵画の限界に挑戦するのか、詳細はまだ明らかになっていない。
フィンランド:イェンナ・ステラ(Jenna Sutela,)

生物、AI、デジタル技術を利用した革新的な彫刻で知られるアーティスト、イェンナ・ステラが選出された。彼女のパビリオンの詳細は明らかになっていないが、ヴェネツィアビエンナーレにおいては数少ない生きている生物を利用した展示の一つとなるだろう。
ステラの作品ではバクテリアやカビが繰り返し登場し、現代の人間であるとはどういうことなのかを問う。キュレーターを務めるのは、ニューヨークのスイス研究所所長、ステファニー・ヘスラーが務める。
フランス:イト・バラダ(Yto Barrada)

2026年のヴェネチア・ビエンナーレでフランス代表を務めるイト・バラダは、同国で最も有名な存命アーティストの1人だ。モロッコにルーツを持つ彼女は、彫刻やインスタレーション、コンセプチュアル・アート作品の制作を通じて、思想や概念が世界をどのように駆け巡っていくのか、また、政治運動がどのように歴史化されるかといったテーマに取り組んできた。
最近、MoMA PS1(ニューヨーク)の野外スペースのために制作された彫刻は、赤や青などのコンクリートキューブを積み重ねたもの。バラダによると、この作品はブルータリズム(*2)がモロッコでどう再解釈されたかを示しているという。彼女はこれまでヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示に二度作品を出品しているが、国別パビリオンを手がけるのは今回が初めて。
*2 打放しコンクリートやガラスを用いた無骨な建築様式。1950年代に世界中で流行した。
イギリス:ルバイナ・ヒミッド(Lubaina Himid)

2017年にターナー賞を受賞したルバイナ・ヒミッドが、ヴェネツィア・ビエンナーレに参加することが決定した。彼女は、イギリス代表に選ばれた2人目の黒人女性となる。1980年のイギリス・ブラック・アーツ・ムーブメントの重要人物であるヒミッドは、黒人解放をテーマとした絵画やインスタレーション作品で知られており、特に女性に焦点を当てた作品を制作している。アーティスト活動に加え、イギリスの黒人アーティスト、特に黒人女性アーティストを中心とした展覧会を数多く企画してきた。パビリオンのキュレーターはまだ発表されていない。
アイスランド:アスタ・ファニー・シグルザルドッティル(Ásta Fanney Sigurðardóttir)

複数のメディアで作品を発表しているアーティストは少なくないが、その中でもアスタ・ファニー・シグルザルドッティルの活動は特に多彩だ。彼女は詩を書き、楽曲を作るだけでなく、実験的オペラと呼ばれる作品も制作している。その作品の多くに通底しているのは、言葉に対する深い関心だ。彼女はそれを、しばしば通常の書き言葉や話し言葉を超えた方法で表現しようとする。なお、シグルザルドッティルがアイスランド館でどんな作品を発表するかはまだ公にされていない。
アイルランド:イザベル・ノーラン(Isabel Nolan)

アイルランド館の代表アーティストは、ダブリンを拠点に活動するイザベル・ノーラン。キュレーターを務めるのは、トリニティ・カレッジのダグラス・ハイド・ギャラリー・オブ・コンテンポラリー・アートのディレクター、ジョージナ・ジャクソンだ。絵画や彫刻、テキスタイル、写真などさまざまな媒体で作品を制作しているノーランは、宇宙論や神話、歴史、死の必然性といったテーマを探求している。
ノーランはこれまで、スコットランドのグラスゴー・インターナショナルやアイルランドのEVAインターナショナルなどのビエンナーレに参加しており、2025年にはリバプール・ビエンナーレにも作品を出展する。ノーランは声明で、国別パビリオン参加についてこう述べている。「アートには、たとえ一時的であっても、知識や美を共有する人々の間に強いつながりを生じさせ、コミュニティを試行させる不思議かつ特別な力があります。その意味で、ヴェネチア・ビエンナーレはこれ以上ないほど特別な発表の場です」
リトアニア:エグレ・ブドビテ(Eglė Budvytytė)

リトアニア国立美術館によるコミッションで、インディペンデントキュレーターのルイーズ・オケリーがキュレーションするリトアニア館の代表アーティストは、エグレ・ブドビテだ。チェチリア・アレマーニが芸術監督を務めた2022年のメイン展示にも作品を出展したブドビテは、現在アムステルダムとリトアニアのヴィリニュスを拠点に活動。パフォーマンスや映像作品で知られる彼女が2026年の国別パビリオンで展示する予定の作品は、2024年から制作を続けている《Warmblooded and Wingless(温血で翼はない)》で、マルチチャンネルの映像やサウンド、空間的要素が組み合わされている。
「エグレと数年間仕事をしてきて、身体表現、社会的関係、人間と環境との共生に対する彼女独自のアプローチに特に魅力を感じています」。キュレーターのオケリーはリトアニアのウェブメディア、LRTの取材でそう語っている。「リトアニアで育った彼女は、作品の中で独自の世界観を提示し、失われた信仰や、今主流となっているものとは別の知識体系や共存の方法の重要性を示しています」
ルクセンブルク:アリーヌ・ブーヴィ(Aline Bouvy)

ブリュッセル生まれのアリーヌ・ブーヴィは、ルクセンブルクとベルギーを拠点に活動。多分野で活動する彼女は、身体とその周囲の空間との関係性に注目しながら、彫刻や絵画、写真作品などを制作している。ルクセンブルク館は、現代美術フォーラム「カジノ・ルクセンブルク」がコミッションしており、同フォーラムのキュレーターで、展覧会・プログラム部門のトップでもあるスティルベ・シュローダーがキュレーションを行う。
ニュージーランド:Fiona Pardington(フィオナ・パーディントン)

2024年のヴェネツィア・ビエンナーレは、ニュージーランドにとって2つの点で特筆すべきものだった。開催前、国の報告書により資金不足であることが明らかになり、その年のパビリオンを主催できないと発表。そして、展覧会ではマオリ族のアーティストコレクティブ「マタアホ・コレクティブ」が金獅子賞を受賞した。こうした背景を経て、ニュージーランドはビエンナーレへの正式な復帰を決定し、2030年までパビリオンを確保することを約束している。
2026年には、フィオナ・パーディントン(カイ・タフ、カティ・マモエ、ンガティ・カフンフヌ、クラン・キャメロン・オブ・エラハト)がニュージーランド・パビリオンを担当することになったが、その詳細はまだ発表されていない。
台湾:リー・イーファン(Li Yi-Fan)

台湾を代表するのは、ここ数年同国で高い評価を得ている新進作家のリー・イーファンで、展示はコラテラルイベントとして開催される。イーファンは台北を拠点とする洪建全財団から、第8回銅鐘藝術賞を2024年に受賞。100万台湾ドル(約480万円)の賞金と、アムステルダムにある国立芸術アカデミーのレジデンシーアーティストとして新作を制作する機会が授与された。
同年の台北ビエンナーレのために制作された《What Is Your Favorite Primitive(忘れられない形)》(2023)は、テック系のキーノートスピーチをパロディ化した30分の映像作品。登場人物はテック業界、特に画像制作ソフトウェア分野が直面する倫理的な問題と格闘している。自ら開発したソフトウェアツールやゲームエンジンを用いて映像作品を制作するリーが、2026年のヴェネチアでどんな作品を発表するのか期待されるが、展示の詳細はまだ発表されていない。(翻訳:野澤朋代)
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