トランプは「独裁者」── 米大統領を痛烈に風刺する挑発的彫刻が再び出現。制作したのは誰?
6月26日、アメリカの首都ワシントンD.C.の中心部にある国立公園のナショナル・モールに、ドナルド・トランプ大統領を揶揄するビデオが映し出される金色のテレビを何物かが設置した。ナショナル・モールでは16日にも、「いいね」サインをした金色の手が自由の女神の頭部を押しつぶしている彫刻が置かれる出来事があったばかり。

6月16日にその存在が明らかになり、アメリカのメディアでも広く報道されたトランプ大統領を風刺する高さ約2.4メートルのモニュメントを作った謎の人物が、ワシントンD.C.のナショナル・モールに再び現れた。「DICTATOR APPROVED(独裁者が承認)」と書かれた台座に、親指を立てた金色の手が自由の女神の頭部を押しつぶす彫刻が載っている最初の作品に続き、無許可の「ファンアート」が新たに登場したのだ。
ワシントン・ポスト紙の報道によると、6月26日朝、サード・ストリート・ノースウェスト近くの米議会議事堂が見える場所に、金色に塗られた実物大のテレビが置かれ、「トランプ・ダンス」を踊る大統領が15秒の無音ループで映し出されていた。拳を握った手を上下させ、腰を振るこのダンスは、大統領選の集会などで披露されて広く知られるようになった。しかしこのビデオでは、ジェフリー・エプスタインの横で踊っている姿が見られる。エプスタインは未成年者への性的虐待で起訴され、勾留中の2019年に自殺した富豪の投資家だ。
テレビの上では、金色の鷲がアメリカの国章のように翼を広げて威厳に満ちた姿を見せ、側面には金のツタが垂れ下がっている。そして、台座に取り付けられたプレートにはこう書かれていた。
「アメリカでは、いわゆる『アート』を展示する自由がある。それはどんなに醜いものであっても構わない。トランプのホワイトハウス、2025年6月」
この文章は、前週に「独裁者が承認」と書かれた彫刻が置かれた際、ホワイトハウスが出した声明から引用されたものだ。ちなみに、前回の台座の四面には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、ブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領、北朝鮮の金正恩国務委員長によるトランプ大統領へのお世辞じみた発言が刻まれていた。

ワシントン・ポスト紙が伝えるところでは、「独裁者」の彫刻には6月22日午後5時までの設置許可証が国立公園局から出ており、「政治的イメージを用いて言論の自由と芸術的表現を示すこと」が目的とされていた。一方、2週連続で挑発的なアートによる打撃を受けたホワイトハウスでは、アビゲイル・ジャクソン報道官が次のような声明を読み上げている。
「『アーティスト』の仮面をかぶったリベラル派の活動家たちは、私が思っていたより愚かです! 私は彼らに醜い彫刻を撤去させ、大統領の伝説的なダンスの美しいビデオに置き換えさせました。このビデオはナショナル・モールを訪れる全ての観光客に喜びと感動をもたらすでしょう。もしかしたら、次の彫刻はダンスの姿になるかもしれません」
こうしたゲリラ的なアンチ・トランプの作品は、実は昨秋からワシントンD.Cのほか、ポートランドやフィラデルフィアにも出現している。ワシントンD.C.ではブロンズ製のたいまつ(白人至上主義者の集会で使われた)や、ナンシー・ペロシ元下院議長のデスクとその上に乗せられたバスケットボール大の糞の像が話題となった。後者は、2021年1月6日の米議会襲撃事件を風刺するものだ。ワシントン・ポスト紙は、これら一連の作品が今回の彫刻のスタイルや素材に似ている点を指摘している。
上述の設置許可の申請者には、メアリー・ハリスという人物の名前が記されていた。しかし、連絡先などの詳細は記載されておらず、実際の制作者は特定されていない。この名前は、アメリカの著名な労働運動家で教師でもあった「マザー・ジョーンズ」の本名、メアリー・ハリス・ジョーンズ(1837-1930)と一致する(ジョーンズは夫の姓)。苛酷な児童労働に抗議するため、ペンシルベニア州から当時のセオドア・ルーズベルト大統領のニューヨーク州の家まで行進した彼女が今も活動しているのだろうか、それともアメリカ史の教師の副業として彫刻を作っているのだろうか?(翻訳:石井佳子)
from ARTnews