トランプ大統領にブーイングとUSAコール。王政打倒の反乱を描く『レ・ミゼラブル』会場の反応

6月11日夜、『レ・ミゼラブル』観劇のためワシントンD.C.のジョン・F・ケネディ舞台芸術センターに現れたドナルド・トランプ大統領が、ブーイングと歓声両方に迎えられたとワシントン・ポスト紙が報じた。トランプ大統領は、今年2月に同センターの理事長に就任している。

『レ・ミゼラブル』公演が行われるワシントンD.C.のケネディ・センターに到着したドナルド・トランプ大統領とメラニア夫人(2025年6月11日撮影)。Photo: Win McNamee/Getty Images

6月11日夜、トランプ大統領はメラニア夫人とともに、ワシントンD.C.のケネディ・センターで行われたミュージカル『レ・ミゼラブル』を観劇。この公演は同センターへの寄付金を集める目的で行われた。

『レ・ミゼラブル』は、ヴィクトル・ユーゴーが貧困や社会における格差、不公正への問いかけを描き、1862年に出版した小説を原作とする人気ミュージカル。19世紀のフランスで市民らが政府に反旗を翻す物語で、専制的な王政打倒を目指した1832年の6月暴動がモデルになっている。

トランプ大統領は先週、「曲も芝居も大好きだ」とFoxニュースに語っているが、皮肉なことに、反トランプの評論家たちは大統領が『レ・ミゼラブル』で市民に反乱を起こされるような抑圧的指導者だと批判している。非難の対象の1つは、先週末、不法移民摘発に抗議するロサンゼルスのデモ鎮圧に州兵と海兵隊を派遣したことだ。

同センターは2月に理事長に就任した大統領が保守派の管理下に置いているため、夫妻が会場に姿を現し、ボックス席に座ると、観客席からブーイングが起こり、その後「U-S-A!」のコールと歓声が続いた。休憩時間中に2人が観客に手を振り、写真撮影に応じた際も、歓迎と憤りが入り混じった雰囲気に包まれていた。

冷ややかな態度が示されるのには理由がある。トランプ大統領は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領がケネディ・センター会長に任命したデイヴィッド・ルーベンスタインとともに、バイデン前大統領が任命した理事全員を解任し、代わりに自分が指名した人物を起用。その後、理事会は長年ケネディ・センターの理事長を務めてきたデボラ・ラターを解雇し、トランプ大統領を理事長に据えている。11日の『レ・ミゼラブル』は、大統領の理事長就任後初めての同センターでの観劇だった。

トランプ大統領は、上演するプログラム内容の刷新と建物の改築を望んでいると伝えられる。これは、アメリカの芸術・文化を再構築する計画に沿ったものだが、大統領の理事長就任以来、財政の落ち込みは増すばかりだとささやかれている。関係者によると、6月初旬時点での来シーズン(今秋から)の年間利用枠の販売は280万ドルにとどまり、前年比36%減となった。

資金集めのために企画されたこの日の公演では、10万から200万ドル(約1450万〜2億9000万円)を寄付すれば、公演前のレセプションで大統領と記念撮影し、劇場内の良い席を取ることができた。大統領は、1000万ドル(約14億5000万円)余りが集まったと胸を張ったが、主要キャストの多くがこの公演をボイコットしたと報じられている。トランプ大統領が理事長に就任した2月には、ロックミュージシャンのベン・フォールズとオペラ歌手のルネ・フレミングが同センターの芸術顧問を退き、理事会の会計責任者だったTVプロデューサーのションダ・ライムズも退任した。

また、これまで女優のイッサ・レイやミュージシャンのリアノン・ギデンズなどの出演者が、ドラァグクイーンによるショーや「ウォーク」(*1)の影響力をケネディ・センターから排除しようとする大統領に抗議して公演を降板。大統領は「ウォーク」を「反米プロパガンダ」だと決めつけている。さらには、今後のプログラムにも大きな変更があり、来年に予定されていたミュージカル『ハミルトン』が中止されたほか、今年のプライド月間イベントが別の会場に移された。

*1 ウォーク(woke)は「目覚めた」の意味で、性的マイノリティの権利拡大や気候変動対策などで行き過ぎた政策を推進するリベラル的な活動家を批判する際に用いられる。

『レ・ミゼラブル』には、パム・ボンディ司法長官、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官と妻で女優のシェリル・ハインズ、保守政治行動会議のマット・シュラップ議長、共和党のテッド・クルーズ上院議員、ケリーアン・コンウェイ前大統領上級顧問、J.D.バンス副大統領など、トランプ政権の関係者が多数来場していた。バンス副大統領は3月にケネディ・センターのコンサートに出席した際にも、ブーイングを浴びている。(翻訳:石井佳子)

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