壁画塗りつぶし問題、作者がFIFAらを提訴──約40億円の損害賠償求める

FIFAワールドカップ2026のために塗りつぶされた壁画をめぐり、作者のロバート・ワイランドがFIFAや建物所有者らを提訴した。25年にわたりダラスを彩ってきた海洋保護壁画の破壊は、芸術家の権利侵害にあたるとして2500万ドル(約40億円)の損害賠償を求めている。

LAGUNA BEACH, CA - JULY 15: Laguna Beach artist, Wyland, one of the best-known marine-life painters in the country, uses a paint sprayer to recreate the first of his 100 whaling walls on a giant canvas adjacent to his gallery in Laguna Beach on Monday, July 15, 2019, 38 years after he first painted the mural on the Hotel Laguna. (Photo by Leonard Ortiz/MediaNews Group/Orange County Register via Getty Images)
カリフォルニアにて「Whaling Walls」シリーズの1作品を制作するアーティストのロバート・ワイランド(Robert Wyland)。2019年7月撮影。Photo: Leonard Ortiz/MediaNews Group/Orange County Register via Getty Images

今月、FIFAワールドカップ2026の試合を観戦するためにダラスを訪れるサッカーファンたちは、美術館やギャラリー、パブリックアートが点在する文化都市の一面にも触れることになるだろう。しかしその一方で、この街を25年にわたり彩ってきた重要なパブリックアートである巨大壁画は今年5月、W杯のために塗りつぶされてしまった。

失われた巨大壁画の作者は、フロリダを拠点とするアーティスト、ロバート・ワイランド(Robert Wyland)。ワイランドは、自身の壁画が描かれていた建物の所有者とFIFAを相手取り、2500万ドル(約40億円)の損害賠償を求める連邦訴訟を起こした。ワイランドによると、問題となっている作品は《Ocean Life》(1999)。本作は、海洋汚染や海洋保全への意識向上を目的に世界各地で制作した100点の壁画シリーズ「Whaling Wall」の82作品目にあたる。高さ8階建て相当、約1万7000平方フィート(約1580平方メートル)に及ぶこの壁画には、絶滅危惧種のザトウクジラやイルカをはじめとする海洋生物が描かれていた。

ダラスのビル「505 N Akard Street」に描かれた《Ocean Life》(1999)。Photo: Courtesy of Wyland Foundation

視覚芸術家権利法(VARA)に違反

ダラスの法律事務所、キャリントン・コールマン・スローマン&ブルメンタールが6月1日にダラス地区連邦地方裁判所に提出した訴状には、《Ocean Life》の破壊は1990年制定の視覚芸術家権利法(Visual Artists Rights Act of 1990、通称VARA)に基づく作家の権利の侵害に当たると書かれている。この訴状は、FIFA、および、壁画が描かれていた建物「505 N Akard Street」を所有するカナダの不動産投資会社、スレート・アセット・マネジメント、さらにスレートの子会社または関連会社で同建物の所有者とされる3PZプロパティ・カンパニーを被告として名指ししている。

同事務所のアート法部門責任者アンドレア・ペレスは、「これは単なる1点の壁画をめぐる問題ではありません。法律が芸術家に約束している、芸術家の作品がその権利と意思を尊重されることなく改変・破壊されないという原則を守ることに関わる問題です」と述べた。

ダラスは、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国で開催されるFIFAワールドカップ2026の開催都市16カ所のうちの1つだ。大会は6月11日、メキシコ対南アフリカ戦で幕を開ける。

作者の許可なく上塗りを承認か

地元のFOX系列局FOX4によると、ダラス市は壁画を上塗りする前にワイランド側に事前連絡をしていたと主張しているが、作家本人はFOX4に「全くの作り話」と語り、これを否定している。また5月には、US版ARTnewsの取材に対し、「彼らは相手にすべきでない作家を選んでしまった。もしVARAで保護される作品があるとすれば、まさにこの作品です」とコメントしていた。

壁画が作業員らによって塗りつぶされたのは、ワールドカップ開幕の約1カ月前。ノーステキサスFIFAワールドカップ組織委員会は、「FIFAワールドカップ2026への期待を高め、祝祭ムードを盛り上げる」ため、別の壁画プロジェクトを実施する声明を発表していた。壁画が描かれていた隣接する2面の壁のうち、大きい方は5月中旬までに青く塗りつぶされた。当時、同委員会の広報担当者はUS版ARTnewsに対し、壁画の「一部」は「記念」として保存されると説明していた。

訴状の中でワイランド側の弁護士は、FIFA、スレート、3PZが、作家本人に一切連絡することなく壁画の大部分の破壊を承認したと主張している。さらに、「同一性保持権により、ワイランドは社会的評価を確立した自身の作品の破壊を防ぐことができるほか、自身の名誉や評判を損なう意図的な歪曲、毀損、その他の改変を防ぐことができる。同一性保持権は、ワイランドがその放棄を明示的に記した書面に署名した場合にのみ放棄できる」と述べている。

壁画の除幕式には当時の市長も出席

訴状によると、ワイランドによる壁画の除幕式には、当時のダラス市長ロン・カークが出席し、ワイランドに市の鍵を贈呈したほか、ダラス・カウボーイズの元ランニングバック、ハーシェル・ウォーカーも姿を見せた。さらに訴状では、J・C・ペニーを含むダラスの地域リーダーらが制作費の大半を負担し、寄付で賄えなかった残額はワイランド自身が負担したとしている。ワイランドは、下絵を用いることなく数週間にわたってこの壁画を一人で手描きしたという。

さらに弁護士らは、ワイランドの社会的評価の高さを裏付ける事実として、同氏が全米で7つの実店舗ギャラリーを運営していることや、1993年に海洋汚染と海洋保全への意識向上を目的とした財団を設立したことを挙げている。

FIFAはコメント要請に直ちには応じなかった。ノーステキサスFIFAワールドカップ組織委員会もコメントを拒否している。一方、スレートは広報担当者を通じて次のように説明した。

「スレートは2026年3月、ダラス・ダウンタウン・インクおよびノーステキサスFIFAワールドカップ組織委員会から、505 N Akardの壁面を地元ダラスのアーティストによる新たなパブリックアート作品のために提供してほしいとの要請を受けました。スレートは壁面利用に関していかなる対価も受け取っておらず、また地元団体からは、ワイランド氏にはすでに連絡済みであると説明を受けていました」

(翻訳:編集部)

from ARTnews

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