バスキア黄金期のドローイングが限定版版画に。全60部、妹のサイン入りで発売
ジャン=ミシェル・バスキアの遺産管理団体が、限定60部の新作版画を発売する。原画は19世紀のスペイン国王をモチーフとしたドローイングで、バスキアのシンボルである王冠が大きな存在感を放っている。

ジャン=ミシェル・バスキアの遺産管理団体が、ペース・プリンツで制作したバスキアの新しいシルクスクリーン作品の販売を11月5日に開始する。エディション60で制作されたこの版画は、1988年にバスキアが亡くなる約5年前の1982年から83年にかけて制作されたドローイングに基づくものだ。
アクリルと木炭で描かれたこのドローイング、《King Alphonso(アルフォンソ王)》は、1886年から1931年まで在位し、「El Africano(アフリカ人)」の異名が付けられたスペイン国王、アルフォンソ13世が題材になっている。
出生時に父王が既に死去していたため、生まれるのと同時に君主となったアルフォンソ13世は、スペインの植民地だったキューバの独立をめぐって1898年に起きた米西戦争でアメリカ合衆国に敗北。アメリカ大陸での領地を失ったことから、アフリカにある植民地の支配を強めようとする、いわゆるアフリカ派だったことで知られる。
ペース・プリンツのプレスリリースには、この作品について次のように記されている。
「バスキアは、物議を醸した君主を引用することで、自らが繰り返し取り上げたテーマである歴史的文脈における人種、権力、アイデンティティを、ここでも探求しています。頭上に自身のシンボルである王冠を戴かせ、アルフォンソ王に自己を重ねたバスキアは、自らの歴史的遺産を構築しつつ、歴史への造詣と様式的な熟達を見せています」
3つの山を持つ王冠はバスキアのトレードマークで、他のシンボルと並んで数多くの作品に繰り返し登場するモチーフだ。これについてアーティスト仲間でバスキアと親交のあったフランチェスコ・クレメンテは、かつてこう語ったことがある。
「ジャン=ミシェルの王冠には3つの頂がある。それは王である彼に流れる3つの要素を表している。すなわち、詩人、音楽家、偉大なボクシングチャンピオンだ」
フラットアイアン・エディションズから刊行される《King Alphonso》の版画には、バスキアの妹で、その遺産を管理しているリサーン・バスキアとジェニーン・ヘリヴォーによる印と署名が入る。
リサーンとジェニーンは2022年に、ニューヨークで「キング・プレジャー」展を企画・開催している。このときは2人が管理する遺作から約100点の作品が展示されたが、その多くは未公開の作品だった。
なお、10月21日には、マンハッタンのソーホーに近いバワリー通りとラファイエット通りの間のグレート・ジョーンズ・ストリートが、「ジャン=ミシェル・バスキア・ウェイ」と命名された。ここにはバスキアが亡くなるまで暮らし、制作活動を行った建物がある。(翻訳:石井佳子)
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