今週末に見たいアートイベントTOP5:ミナ ペルホネンの30年の軌跡、河口龍夫が問う「描く」という行為の本質
関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

1. つぐ minä perhonen(世田谷美術館)
30年の創作を一望。「ものづくり」の神髄に迫る展覧会
デザイナー皆川 明が掲げた「せめて100年つづくブランド」という理念を出発点に、minä perhonen(ミナ ペルホネン)の30年にわたる創作の軌跡をひもとく展覧会。 本展は、手描きの図案から生まれるテキスタイル、その背後で織り・染め・刺繍を担う日本の職人たちの技術、そして素材と対話を重ねながら形づくられる衣服まで、ブランドを支えてきた「時間」と「手の働き」を可視化するものだ。
冒頭の空間では、小さな粒が輪となるモチーフの「tambourine」や、2011年に熊が人里に降りてきたニュースがきっかけとなった 「alive」シリーズなど、ブランドのアイコンとなった無数のテキスタイルが広がる。さらに、制作工程を映し出す映像や道具の展示、愛用者の服を修繕・再生した特別プロジェクトが並び、ものづくりの哲学が複数の角度から感じ取れる。皆川 明が語った、 「ファッションはつきつめれば『私』だ。服というものと、人の気持ちが出会う場所」という言葉は、本展を貫く軸となっている。「つぐ」という営みを通して、デザイナー、職人、道具、そして着る人の想いが連なり、ファッションが誰かの「私」へ届いていく過程を鮮やかに感じ取ることができるだろう。
つぐ minä perhonen
会期:11月22日(土)~ 2026年2月1日(日)
場所:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
時間:10:00~18:00 (入場は30分前まで)
休館日:月曜(1月12日を除く祝日は翌平日)、12月29日~1月3日、1月13日
2. 河口龍夫「未来人の落書」(SNOW Contemporary)
2世代の「落書き」から紐解く「描く」行為
日本を代表する現代美術家、河口龍夫の個展。1940年兵庫県に生まれた河口は、エネルギーや時間、生命、宇宙といった要素の「関係」を探る制作で知られ、植物や水といった自然素材に金属を組み合わせて、加熱や腐食のプロセスを取り入れるなど、独自の方法論を築いてきた。1960年代より作品発表を始め、グループ「位」の結成(1965)や国内外の主要展への参加、「関係—種子」シリーズ(1982〜)などを通して、一貫した思索を展開している。
同ギャラリーで10回目の個展となる本展は、河口が長年向き合ってきた「未来人の落書」シリーズを取り上げる。シリーズの原点は、息子が1歳だった1973年に遡る。画用紙に息子が描いた線を河口が「未来人の落書」と名付けたことに始まる。その後、彼は線を丹念にトレースしながら、「描く」という行為そのものの本質を探究した。2010年には初孫が1歳を迎えたことを契機に研究が再始動し、2世代を横断する制作として続いている。会場では、平面8点と立体1点を展示。さらに、河口と椹木野衣、渡部葉子による書き下ろしテキストを収録した、シリーズの思想的背景をより深く読み解ける図録も制作、会場で販売される。
河口龍夫「未来人の落書」
会期:11月28日(金)~ 2026年1月17日(土)
場所:SNOW Contemporary(東京都港区西麻布2-13-12 早野ビル404)
時間:13:00~19:00
休館日:日~火祝、12月28日~1月6日
3. パウロ・モンテイロ「A Car Load of Close Things」/「A Car Load of Distant Things」(小山登美夫ギャラリー京橋/MISAKO & ROSEN)
近いもの/遠いものが交差する、二会場横断のモンテイロ展
この冬、2つのギャラリーで、鮮やかな色彩でミニマルかつ表現豊かに制作するブラジルのアーティスト、パウロ・モンテイロの新作展が同時開催されている。MISAKO & ROSENでは「A Car Load of Distant Things(遠く離れたものが積み込まれた車)」、小山登美夫ギャラリーでは「A Car Load of Close Things(近くのものが積み込まれた車」が展開され、タイトルが呼応するかのように、「遠くのもの」と「近くのもの」という異なる視点から、モンテイロが探究する空間の在り方が示される。
両会場では、鮮やかな色面にわずかな絵の具の盛り上がりが物質として浮かび上がるペインティングに加え、木片を用いた小さな彫刻やグアッシュ画を発表。ブロンズやアルミの立体は、粘土を押しつぶしたようなフォルムを保ちながら揺らぎ、脆さと躍動感の両方をたたえている。作品同士は星座や譜面のように空間でゆるやかにつながり、距離や角度によって異なる姿を見せる。角度を変えるごとに印象が変わり、距離を取るたび新しい関係が立ち上がる。鑑賞者の身体の動きによって空間が更新されていくダイナミックな体験を促す展示となっている。
パウロ・モンテイロ「近くのものを積んで動く車 - A Car Load of Close Things」
会期:11月29日(土)~12月27日(土)
場所:小山登美夫ギャラリー京橋(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
時間:11:00~19:00
休館日:日月祝
パウロ・モンテイロ「A Car Load of Distant Things」
会期:11月29日(土)~ 2026年1月18日(日)
場所:MISAKO & ROSEN(東京都台東区東上野1-20-6)
時間:12:00~19:00
休館日:日~水
4. 杉戸洋展:えりとへり / flyleaf and liner(弘前れんが倉庫美術館)
「余白」から広がる杉戸洋の現在地
現代の日本を代表する画家の一人である杉戸洋(1970年生まれ)は、1990年代から国内外での作品発表を続けてきた。本展では、杉戸が「余白」に目をむけ、絵画の裏側で、カンヴァスを包む「えり」や「へり」として扱われてきた紙の表紙をめくると現れる「あそび紙(flyleaf)」や、洋服の「裏地(liner)」など、すぐには気が付かないあらゆる場所に潜んでいる余白に着目する。
本展は、身の回りの様々な事者の形や質感へ関心を寄せる作家の姿勢から、1990年代から制作されてきた杉戸作品を紹介する。さらに、杉戸が深い影響を受けてきたグラフィックデザイナー・服部一成をコラボレーターに迎え、服部が杉戸作品に応答して制作した壁紙や写真とともに展示を構成。加えて、奈良美智との共作や煉瓦倉庫の建物に呼応する最新作も紹介され、杉戸の30年超にわたる創作の広がりと深化を知ることができる。
杉戸洋展:えりとへり / flyleaf and liner
会期:12月5日(金)~ 2026年5月17日(日)
場所:弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市吉野町2-1)
時間:9:30~17:00(3月1日以降は9:00~、入場は30分前まで)
休館日:火曜(4月1日、4月21日、4月28日、5月5日は除く)12月29日~1月1日
5. 知覚の大霊廟をめざして——三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])
没後10年、「世界と繋がる知覚」をめぐる大規模展
アーティスト三上晴子(1951–2015)が1990年代以降に発表したインタラクティヴ・インスタレーションは、人間が世界と接続し関係を結ぶ入口となる「知覚」そのものを主題としてきた。彼女は1980年代半ばから情報社会と身体をめぐる大型インスタレーションを発表し、1995年以降は知覚をインターフェイスとする作品群へと展開した。
「耳で視て、鼻で聴いて、眼で触ることが可能である」と本人が記しているように、三上の作品はテクノロジーを通して鑑賞者を自身の知覚の仕組みへと向かわせる試みだった。没後10年となる2025年、ICCは彼女のメディア・アート的側面を振り返る展覧会を開催し、1990年代後半以降の代表的インタラクティヴ作品を複数展示する。会場では、国内外でも初となる、大型インスタレーション作品3点の同時展示に加え、技術更新のプロセス、修復・アーカイヴの現在進行形の取り組み、鑑賞者の作品体験データの保存研究など三上の作品をめぐる実践も紹介。さらに協働者や三上の研究者を招いたトークイベントも予定される。
知覚の大霊廟をめざして——三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション
会期:12月13日(土)~ 2026年3月8日(日)
場所:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ギャラリーA、B(東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4F)
時間:11:00~18:00
休館日:月曜日(祝休日は翌日)、12月29日~1月5日、2月8日





























