米・イスラエル空爆で世界遺産チェヘル・ソトゥーン宮殿にも被害。歴史的フレスコ画に亀裂

アメリカイスラエルによるイランへの空爆が続くなか、古都イスファハーンの歴史遺産にも被害が及んだ。17世紀のチェヘル・ソトゥーン宮殿(四十柱宮殿)やナグシェ・ジャハーン広場など、ユネスコ世界遺産を含む複数の文化遺産が損傷したと地元メディアが報じている。

空爆の被害を受けたチェヘル・ソトゥーン宮殿内部の様子。Photo: Telegram/میراث‌‌آریا

2月28日に始まったアメリカイスラエルによるイランへの空爆は現在も続いている。3月9日に地元メディアが報じたところでは、イランの旧市街イスファハーンで17世紀のチェヘル・ソトゥーン宮殿(四十柱宮殿)やナグシェ・ジャハーン広場など、複数の文化遺産が被害を受けた。

首都テヘランから車で約5時間の場所にあるイスファハーンは、イランの芸術と建築を代表する重要都市だ。3〜7世紀のササン朝時代には軍事や行政の拠点として機能し、その後モンゴルやティムール朝の時代を経て、16〜17世紀のサファヴィー朝期に首都となり、大きく発展した。この時代には、「イスファハーンは世界の半分」と言われるほどの繁栄を迎える。市街地には橋、宮殿、教会、シナゴーグ、バザールなど、イランを象徴する建築遺産が数多く残り、その多くは現在も日常的に使用されている。ここ数日の攻撃では、同地が特に激しい攻撃を受けている。

旧市街の宮殿内フレスコ画に大きな亀裂

地元メディアが公開した写真や動画には、チェヘル・ソトゥーン宮殿の窓ガラスや木製の扉が空爆の衝撃で破損し、内部に瓦礫が散乱している様子が映し出されている。17世紀半ば、サファヴィー朝時代に建てられた同宮殿は、9つの歴史的庭園からなる「ペルシア庭園」の一部として、2011年にユネスコ世界遺産に登録された。宮殿には、歴史的な戦いや王の謁見、ペルシア神話の場面を描いたフレスコ画が残されており、これらはペルシア圏絵画の中でも最大級かつ極めて独自性の高い代表的な作例とされる。

空爆の被害を受けたチェヘル・ソトゥーン宮殿。Photo: Telegram/میراث‌‌آریا
空爆の被害を受けたチェヘル・ソトゥーン宮殿内部。Photo: Telegram/میراث‌‌آریا
空爆の被害を受けたチェヘル・ソトゥーン宮殿内部。Photo: Telegram/میراث‌‌آریا
文化遺産の存在を伝える国際標章「ブルーシールド」を設置する職員。Photo: Telegram/میراث‌‌آریا
被害を受ける前のチェヘル・ソトゥーン宮殿。2024年5月撮影。Photo: Wikimedia commons

イラン当局によれば、宮殿内部のフレスコ画の多くは大きな損傷を免れたとみられるが、公開された動画では、17世紀のフレスコ画の一つに大きな亀裂が生じている様子が確認できる。この壁画は、サファヴィー朝の君主シャー・タフマースブとインドのムガル皇帝フマーユーンを描いたもので、もともと脆弱だった作品が今回の爆撃の影響によって損傷がさらに悪化したと見られている。

イスファハーンではこのほか、17世紀のナグシェ・ジャハーン広場やラケブ=ハーネ館(王室馬具庫)、サファヴィー朝の宮廷と関係の深い装飾的住宅建築であるアシュラフ・ホール、さらにティムール朝時代の建物で後に自然史博物館となった15世紀のテイムーリー・ホールなどでも、建物や装飾の破損が確認された。イラン当局は現地メディアに対し、被害状況の調査を進めており、報告書をユネスコに提出する予定だと述べている。

イランは「ブルーシールド」設置急ぐ

イラン当局はアメリカとイスラエルによる空爆に先立ち、攻撃の可能性を見越して文化財保護のための措置を講じている。ラケブ=ハーネ館の収蔵品をはじめとする博物館の収蔵品は、安全な場所へ移送されているという。

攻撃が激化する中、さらに当局は先週から、歴史遺跡や博物館に「ブルーシールド」の標章を設置する作業を急いでいる。この標章は1954年の「武力紛争の際の文化財の保護に関するハーグ条約」で認められたもので、武力紛争時に保護されるべき文化財であることを示す印として用いられる。同条約では、国家による文化財への攻撃や軍事利用が禁じられている。

今回の文化遺産への被害は、テヘランで唯一のユネスコ世界遺産であるゴレスタン宮殿が攻撃で損傷してから約1週間後に報じられた。同宮殿はサファヴィー朝期に起源を持つが、現在の建物の多くは後のカージャール朝(1789–1925)期に建設された。

イランの文化遺産・観光・手工芸省は3月9日、地元メディアを通じて声明を発表し、ユネスコや国連などの国際機関に対し、紛争下で文化遺産を保護するための法的・監視メカニズムを発動するよう求めた。また、被害状況を調査するための専門家や監視員、ジャーナリストを派遣するよう要請した。

一方、この紛争による人的被害も拡大している。イラン赤新月社は3月第2週に、これまでにイラン人1250人以上が死亡したと発表し、米中央軍は米軍兵士7人の死亡を確認している。一方レバノンではイスラエルの攻撃により少なくとも400人が死亡し、約70万人が避難を余儀なくされたと当局が発表した。またイスラエル国内でも少なくとも11人が死亡したと報じられている。

ニューヨーク・タイムズの集計によれば、アラブ首長国連邦(UAE)でもイランの攻撃により少なくとも民間人12人が死亡した。またアメリカ・イスラエルの軍事行動とアリー・ハメネイの死亡報道を受け、パキスタン、バーレーン、イラクでは抗議活動が起こり、アメリカ大使館や領事館への襲撃未遂も発生。これによりパキスタンだけでも少なくとも22人が死亡したと報じられている。日本政府はバスや民間チャーター機を使い、イランやUAEなどに滞在・在住する邦人の退避を進めている。

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