親イスラエル団体、大英博物館に「パレスチナ」表記の削除要請。過去には文化機関から提訴も
ロンドンの大英博物館が、中東に関する展示の一部から「パレスチナ」という言葉を削除したと報じられている。親イスラエル団体からの働きかけを受けての措置と見られる。

2月14日に英テレグラフ紙が報じたところによると、英国イスラエル弁護士会(UKLFI)が大英博物館のニコラス・カリナン館長に書簡を送り、特定の民族を「パレスチナ系」と表記している文章から当該語句を削除するよう求めたという。同紙によると、書簡には次のように書かれていた。
「数千年の歴史がある地域全体にパレスチナという単一の名称を遡及的に適用することは、歴史的な変遷をなかったことにし、その名称が継続的に用いられていたという誤った印象を与えます。それに加え、紀元前1000年頃に成立したイスラエル王国やユダ王国の存在を消し去り、イスラエル人およびユダヤ人の起源をパレスチナに遡るとする誤った認識につながりかねない複合的な結果をもたらします。上記で述べた項目で使われている用語は、古代からパレスチナと呼ばれる地域が継続的に存在したように思わせるものです」
UKLFIは過去にも、パレスチナ支持を表明した個人や団体に対する行動で批判を呼んだことがある。昨年8月に提起された訴訟では、同団体による「パレスチナとの連帯に関する取り組みを封じ、脅迫を目的とした不当で法的根拠のない一連の書簡」に対する申し立てが行われた。
UKLFIの活動で特に注目されたのは、2022年にマンチェスターのウィットワース美術館で起きた事例だ。同団体は、パレスチナ支援の連帯声明とともに展示されたフォレンジック・アーキテクチャーの作品を理由に、アリステア・ハドソン館長の解任を求めた。その後ハドソンは辞職を勧告され、日を置かずに職を辞した。ある博物館関連の団体は、この一件を「強制的辞任」と表現している。
テレグラフ紙の記事では、大英博物館が書簡への対応として行った変更の1つが挙げられている。それはエジプト新王国時代の地図に関し、エジプトが「パレスチナで支配的地位にあった」と記述されていた箇所の修正で、「ヒクソスのレリーフに関して『パレスチナ系』が『カナン系』に変更されたと見られる」とされている。これに対し、大英博物館の広報担当者は声明で次のように説明した。
「古代の文化圏を示す中東部門の地図展示において、『カナン』という用語は紀元前2千年紀後半のレバント南部地域に関して用いるものです。現代の国境を示す地図では国連の用語を使用しており、ガザ、ヨルダン川西岸地区、イスラエル、ヨルダンなどと表記します。『パレスチナ人』については、文化的・民族学的な識別において適切な場合に用いられています」
同館の広報担当者はまた、変更が実施されたのは昨年のことで、UKLFIの書簡が届く前だとUS版ARTnewsの取材に回答した。一方、テレグラフ紙の報道では、UKLFIがカリナン館長に書簡を送付した時期は明記されていない。
博物館の壁に掲示されている説明文が何カ所変更されたかは不明だが、UKLFIはテレグラフ紙の報道は主張の勝利を示しているとして、以下のような声明を出している。
「今日では不正確あるいは誤った意味を伝える恐れのある用語を大英博物館が見直し、修正する意向を示したことを歓迎します。同館の来場者調査の結果、『パレスチナ』という用語が状況によってはもはや意味を持たないとされたことは、他の博物館や文化機関にとっても意味があり、考慮されるべき点です。公教育において極めて重要な役割を担う博物館においては、説明文に歴史的記録が正確かつ中立的に反映されていることが不可欠です。こうした変更は、来場者が古代の近東地域について正確な理解を得ることを保証するための重要な一歩です」(翻訳:石井佳子)
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