イスラエル、ヴェネチア・ビエンナーレ復帰へ──反対の声に作家は対話を呼びかけ
2026年のヴェネチア・ビエンナーレに、イスラエルが参加することが判明した。現時点で明らかになっている展示の概要と、イスラエルの参加に反対するアーティスト団体、そしてイスラエル代表作家それぞれの主張をまとめた。

2026年のヴェネチア・ビエンナーレに、イスラエルが正式参加することになった。2024年のビエンナーレでは、抗議行動を受けたイスラエル館が開幕日に閉鎖されたが、今回イスラエルはジャルディーニにある専用パビリオンではなく、アルセナーレで展示を行う。
これについて2026年のイスラエル代表を務める彫刻家のベル=シミオン・ファイナルは、ジャルディーニのイスラエル館が改修中であるためだと説明している。イスラエル最大の湾岸都市ハイファを拠点に活動し、2025年のイスラエル賞(*1)を受賞したファイナルは、US版ARTnewsの電話インタビューに対し、アラブ首長国連邦やトルコ、サウジアラビアなど、アルセナーレにパビリオンを構える国々と並んで展示できる機会を歓迎すると語った。
「素晴らしい経験になるでしょう。イスラエル館のような近代的な建物ではなく、アルセナーレの歴史的な建造物で展示できるいい機会です」
*1 イスラエル国が、文化や芸術などの分野における国民の功績をたたえて授与する最高の栄誉賞。
タルムードを空間的に具現化した展示
ルーマニア生まれで、2019年のヴェネチア・ビエンナーレにルーマニア代表として参加したファイナルは、キュレーターのソリン・ヘラー、アヴィタル・バー=シェイとともにイスラエル館の展示を企画・制作する。ファイナルとバー=シェイは、2024年にハイファで開催された地中海ビエンナーレでも協働しており、タイムズ・オブ・イスラエル紙によると、同展で発表されたファイナルの作品は「10月6日(ハマスによるイスラエル襲撃の前日)に戻りたいという願いを込め、逆回転するよう設定された壁掛け時計」だったという。
アルセナーレで行う展示は《Rose of Nothingness(無の薔薇)》というタイトルで、水をテーマにしたインスタレーションを中心に構成される。詩人のパウル・ツェランの「黒いミルク」という概念に着想を得たこの作品では、16本のパイプから黒い水がプールに滴り落ちる。16は、ユダヤ教の伝統に基づく神秘主義思想カバラで変容を意味する数字だ。US版ARTnewsが受け取った展示説明には次のように書かれている。
「このインスタレーションは、タルムード(*2)のページを空間的に具現化したものと言えます。そのページには文字が一切ない代わりに、そこに人々が佇み、視線と注意を向けることで知識が結晶化していきます。インスタレーションの意味は、水の滴りの間、存在と不在の間の緊張の中に浮かび上がります。鑑賞者は、時間・記憶・意識からなる継続的な体験に積極的に参加することを促されます」
*2 ユダヤ教の口伝律法と学者たちの議論を書き留めた議論集。

アーティスト団体はイスラエルの参加に反発
しかし、ソーシャルメディアの反応はポジティブなものではない。前回のヴェネチア・ビエンナーレでイスラエルの参加に抗議したアーティスト団体「アート・ノット・ジェノサイド・アライアンス(ANGA)」は、イスラエルの参加が決まったことについて「ジェノサイド・パビリオン」という表現を使って反発。インスタグラムに投稿された1月12日のコメントには、現在1500以上の「いいね!」がついている。
イスラエル文化省はビエンナーレへの参加について公式に発表していないが、イスラエル館のキュレーターであるヘラーがリンクトインで参加をほのめかす投稿をしたことで話が広まった。さらに、ANGAがインスタグラムでこれに抗議したために、より多くの注目を浴びている。同団体は昨年10月にもイスラエル館に対するボイコットを呼びかけていたが、そのときの投稿には次のように書かれていた。
「ANGAはビエンナーレに対し、次回もイスラエルの参加を認めないよう改めて要請します。イスラエルの罪が裁かれるまで、修復や癒し、そして文化的対話の余地はありません」
再び抗議を始めた理由をANGAは、イスラエルが「2025年10月10日に『停戦合意』が宣言されたにもかかわらず大量虐殺を続けている」からだと説明した。ガザ政府によれば、停戦宣言以降、イスラエルの攻撃によって440人以上のパレスチナ人が死亡したという。これについてイスラエルは、ハマスが停戦合意に反したからだと主張している。
代表作家は「芸術は対話の場」と主張
こうしたANGAのアプローチに対し、ファイナルは賛成できないと述べている。彼は、「対話こそが意思を伝える最良の方法です。ヴェネチアに限らず、ボイコットには断固反対です」とした上で、自身のインスタレーションは「希望と人間の感情を表現するもので、ボイコットや排除とは正反対の、あらゆる人々に開かれた空間となるはずです」と語った。
一方、ANGAの投稿には、「PACBI(パレスチナによるイスラエルの学術文化ボイコット運動)の原則に従い、私たちは個々のアーティストの排除を求めません。その代わり、2025年10月10日に『停戦合意』が宣言されたにもかかわらず虐殺を続けるイスラエル国の排除を要求します」と記されていた。US版ARTnewsは同団体にコメントを求めたが、期限までに回答は得られなかった。
ヴェネチア・ビエンナーレ側は、イスラエルの参加を認めないようにというANGAの訴えを退け、2024年に「イタリアが承認する国家を排除する権限はない」とコメントしている。同じ理由で、女性団体から抗議の声が上がっていたイランも2024年の開催に参加した。ちなみに、ウクライナ侵攻開始以降のロシアの不参加は、自らの意思によるものと説明されている。当時の文化相ジェンナーロ・サンジュリアーノは、イスラエル館のボイコットを求めるANGAの取り組みを「恥ずべき行為」だと厳しく非難していた。
イタリアから国家として承認されていないパレスチナが、公式のパビリオンを出展したことはこれまで一度もない。ただし、ヴェネチア・ビエンナーレの承認を得て同時期に周辺で実施されるコラテラル・イベントとして、パレスチナを支援する展覧会が開かれてきた。
イスラエルは2024年ヴェネチア・ビエンナーレに参加はしたものの、最終的に展示は一般公開されなかった。イスラエル代表アーティストのルース・パティールは、パビリオンの閉鎖を表明した上で、ハマスが10月7日に拉致した人質を解放し、イスラエルが停戦に合意すれば展示を公開するとしたが、いずれもビエンナーレ開催期間中には実現しなかった。なお、現在は停戦合意の条件に従って、生存している人質は全員、ハマスによって解放されている。
2025年4月には、イスラエルのハアレツ紙がジャルディーニのパビリオン改修に予算の問題が生じていると報道。それ以来、イスラエルによる2026年のビエンナーレへの参加は疑問視されていた。さらに注目すべきは、イスラエルがこれまで参加していたヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展への出展を2025年に見送ったことだ。これについてUS版ARTnewsはイスラエル文化省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
政治化する「国別」パビリオン
国別パビリオンが不透明な状況にあるケースは、ほかにも見られる。つい先日も、南アフリカの代表作家ガブリエル・ゴリアスがガザでの戦争を題材にした作品の展示を希望したため、同国は参加を中止した。ゴリアスの作品について南アフリカの文化相は「分断を招く」と強調。これに対し作家側は決定を検閲だと反論している。
昨年は、オーストラリアが代表作家に選出していたハーレド・サブサビの起用を取り消すという出来事があった。ヒズボラの指導者を題材にした過去の作品について一部のメディアから懸念が示されたためだったが、検閲だとの抗議を受けてサブサビを再任命している。そんな中でファイナルは、緊張状態に対応した展示を実現したいと意気込みを語った。
「芸術は対話の場であり、排除の場ではありません。それは政治を超越し、人々の意見を自由に、国境を超えて表現する主要な場の1つです。排除の政治は芸術や文化にも入り込み、人間性を失わせていますが、重要なのは対話です」(翻訳:野澤朋代)
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