2026年ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家は荒川ナッシュ医。後進のために「風穴を開けたい」

2026年に開催される第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表作家に荒川ナッシュ医が選出された。4月24日、主催の国際交流基金が発表した。

荒川ナッシュ医。撮影: Ricardo Nagaoka

2026年5月9日から11月22日まで開催される第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展。その日本館の展示作家に荒川ナッシュ医が選ばれたと同館を主催する国際交流基金が発表した。キュレーターはまだ決まっていない。荒川ナッシュはビエンナーレ会場のジャルディーニ地区にある同館で個展を開催することになる。

荒川ナッシュは1977年福島県いわき市生まれ。98年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学し、2004年に美術学士(B.F.A.)を取得。その後ニューヨーク州アナンデール・オン・ハドソンにあるバード・カレッジにて映像・ビデオを専攻するなど同地でアートを学び、以来アメリカを拠点に活動する。19年からは、ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン大学院アートプログラムの教授も務め、次世代のアーティスト育成にも力を注いでいる。

現地では「クィアな日系アメリカ人パフォーマンスアーティスト」として知られる荒川ナッシュの作品は、具体フルクサス、ハプニング、ジャドソン・ダンス・シアターなどの芸術運動に影響を受けており、絵画や身体表現、音楽、映像など多様なメディアを組み合わせた、作品と見る者の境界を曖昧にするような作風が特徴だ。荒川ナッシュは特に「協働」を作品の重要な要素として捉えており、観客やほかのアーティストと即興で協働して成り立つパフォーマンスを通じて、アイデンティティやコミュニティに関するテーマを追求している。

荒川医《メガどうぞご自由にお描きください》 2021 年、展示およびパフォーマンス風景 テート・モダン、ロンドン、撮影︓Brotherton-Lock Courtesy of the artist
荒川ナッシュ医、2024年 「ペインティングス・アー・ポップスターズ」展示風景 国立新美術館、東京、撮影︓中川周 Courtesy of the artists and The National Art Center, Tokyo
荒川ナッシュ医《LGBTQIA+ ベイビー・シャワー・イベント》 2024 年、パフォーマンス風景 国立新美術館、東京、撮影︓中川周 Courtesy of the artists and The National Art Center, Tokyo

近年では日本での作品発表も精力的に行なっており、2024年の恵比寿映像祭で行ったパフォーマンス《ぬいぐるみの主観性》、同年に国立新美術館で開催されたアジア初の個展「ペインティングス・アー・ポップスターズ」が記憶に新しい。同展では絵画を「ポップスター」に見立て、50人以上のコラボレーターとともに多彩なパフォーマンスを展開。​絵画と身体、空間を融合させた没入型の体験を創出した。

荒川ナッシュは今回の選出にあたり、国際交流基金のプレスリリースに次のような言葉を寄せている

「数年前に日本国籍を喪失し、日本代表としてヴェネチア・ビエンナーレに参加する機会はないと思っていました。1966年の草間彌生さんのゲリラ行為や1997年の内藤礼さんの空間など、ビエンナーレの歴史的なパフォーマンスと対話できるこの機会に高揚しています。

パンデミック以降、日本館の選考プロセスは大きく変わりました。作家がキュレーターを選び、追加資金を調達しなければならない。国を代表するという『宿題』は複雑になっていますが、見方を変えれば、今までよりさらに作家が主体性を持って展覧会に関与出来るということ。これまでの日本館でのダムタイプ、毛利悠子さんに続き、次の誰かにバトンタッチ出来るような風穴を開けたい。

現在、夫と私はロサンゼルスのアジア系ディアスポラ・コミュニティの新しい一員である2 人の子どもをせわしなく育てています。最近、和田夏十さん脚本の1962年の映画『私は二歳』をもう一度見ました。彼女の脚本は、2026 年の日本館の私のパフォーマティブな展開のヒントとなるでしょう」

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