1泊2日で周る瀬戸内国際芸術祭のおすすめ12作品──地域に根付き、活性化を支えるアートの魅力

船に乗って島を巡り、瀬戸内の自然、暮らし、充実したアート作品を満喫できる瀬戸内国際芸術祭。8月の夏会期、10月・11月の秋会期に向け、プランを立て始めようと考える人もいるのではないだろうか。しかし、作品数は全部で256点、うち新作が117点と膨大だ。そこで、1泊2日で周れる瀬戸芸のおすすめ作品を、女木島・男木島、小豆島から選りすぐってお伝えしよう。

瀬戸内海の島々と沿岸部で開催される2025年の瀬戸内国際芸術祭は、過去最多の17エリアが会場となる。Photo: Osamu Nakamura

今年は3年に1度の瀬戸内国際芸術祭の年。盛況のうちに終わった春会期の来場者数は32万668人で、コロナ禍にあった前回の2022年から4割増となり、過去2番目に多い人数を記録した。来場者には、国内はもとより、高松への直行便がある韓国、台湾、中国、香港や、関空から瀬戸内を目指す欧米からの旅行客も多い。

「瀬戸芸」と呼ばれ、親しまれている同芸術祭が始まったのは2010年。今ではすっかり地元に根付き、地域の活性化に寄与していることは、ニューヨーク・タイムズ紙とナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌の「2019年に行くべき旅行先」で、それぞれ「Setouchi Islands」が第7位、「SETOUCHI」が第1位に選出されたことにも示されている。経済波及効果も2010年の111億円からコロナ前の2019年には180億円にまで増加し(*1)、さらには、外資系高級ホテルのマンダリンオリエンタルが、2027年に高松と直島での開業を予定している。

*1 瀬戸内国際芸術祭実行委員会調べ。コロナ禍中の2022年の結果は103億円。

そんな勢いのある瀬戸芸を見逃す手はない。夏会期、そして秋会期に向けて、旅の計画を練り始めたいというアートファンの参考としてもらうべく、必見の作品をご紹介する。ここでは、1泊2日で回れる範囲として女木島・男木島と小豆島から見どころをピックアップしたが、今年は過去最多の17エリアが会場となる。休暇の日程に余裕があれば、ぜひその他のエリアも加えたプランを立ててほしい。

【女木島】文句なしに楽しい「小さなお店プロジェクト」と女木小学校の作品

女木島(めぎじま)と男木島(おぎじま)は、第1回の瀬戸芸からずっと会場となっている、いわば老舗の開催エリア。女木島は高松港からフェリーで20分、女木島から男木島へも20分と、各島への拠点となる高松から近い。高松→女木島→男木島→女木島→高松という運行ルートに沿って、まずは女木島の作品から見ていこう。

原倫太郎+原游「小さなお店プロジェクト」《ピンポン・シー NEW!》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
中里繪魯洲「小さなお店プロジェクト」 《ヨガ教室 -瞑想するブランコ 転がる景色-》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
中里繪魯洲「小さなお店プロジェクト」 《ヨガ教室 -瞑想するブランコ 転がる景色-》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
原游 「小さなお店プロジェクト」《SUNSET TAILOR 思い出オーダーメイド》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
原游 「小さなお店プロジェクト」《SUNSET TAILOR 思い出オーダーメイド》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ザ・キャビンカンパニー「小さなお店プロジェクト」《休校書店 メコチャン》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ザ・キャビンカンパニー「小さなお店プロジェクト」《休校書店 メコチャン》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ザ・キャビンカンパニー「小さなお店プロジェクト」《休校書店 メコチャン》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

かつての民宿・寿荘を利用した女木島名店街。そこで展開される「小さなお店プロジェクト」では、9組のアーティストが「出店」という形で作品を展示している。中庭の大きな木の下には7人用の卓球台が、その横にはエアホッケー台が置かれ、親子で楽しむ姿も見られた。これは、原倫太郎+原游による作品《ピンポン・シー》(2019、2022、2025)で、2019年の瀬戸芸から始まった卓球場シリーズの発展形だ。

おすすめ作品1:《ヨガ教室─瞑想するブランコ 転がる景色─》

2階に上り、中里繪魯洲の《ヨガ教室─瞑想するブランコ 転がる景色─》(2025)の展示室に入ると、一瞬、夢の中の奇妙な部屋に迷い込んだ気分になる。部屋の正面は大きな窓で、その向こうに海と対岸の屋島が見え、窓際ではガラス球がゆっくり動いている。左右の大きな鏡は確かにヨガ教室のようだ。そして、中央に設置されたブランコを漕ぐと……この先は控えておくが、自分が身体を動かすことで何かが起こる没入型の体験ができる。

おすすめ作品2:《SUNSET TAILOR 思い出オーダーメイド》

絵画の新しい形を見せてくれるのが、原游の《SUNSET TAILOR 思い出オーダーメイド》(2025)。オレンジがかったピンク色の壁に誘われ、小さな洋服屋さんのようなポップな室内に入ると、いろいろな服が並んでいる。と思いきや、それらはすべて作者が描き、カットアウトした絵。これは参加型の作品で、オーダーシートに自分の記憶にある洋服の説明を書いて発注すると、その絵を描いて店の品物として飾ってくれる。つまり、このお店にあるのは思い出の中からよみがえった服や帽子なのだ。

おすすめ作品3:《休校書店 メコチャン》

《休校書店 メコチャン》(2025)は、今、女木島に暮らすただ1人の小学生をモデルにしたキャラクター、「メコチャン」の暮らしを表現したビビッドな色彩のインスタレーション。制作したのは、阿部健太郎と吉岡紗希によるユニット、ザ・キャビンカンパニーだ。黄色とグリーンを基調とした部屋の中央には体育座りをする巨大な「メコチャン」、その背後には本棚があり、上を見上げると格天井に花が描かれている。壁には、この作品の制作意図やそこに込めたアーティストの思いが掲示されているので、ぜひご一読を。

レアンドロ・エルリッヒ 「小さなお店プロジェクト」《ランドリー》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
柴田あゆみ「小さなお店プロジェクト」《いのちの詩・あまのおと》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
原田郁「小さなお店プロジェクト」《カフェ・サムシング サインズ》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
宮永愛子 「小さなお店プロジェクト」《ヘアサロン壽》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
柳建太郎 「小さなお店プロジェクト」《ガラス漁具店》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

小さなお店プロジェクトでは、ほかにも柴田あゆみ《いのちの詩・あまのおと》、原田郁《カフェ・サムシング サインズ》(2025)、宮永愛子《ヘアサロン壽》、レアンドロ・エルリッヒ《ランドリー》(2019)、柳健太郎《ガラス漁具店》(2025)が、それぞれの「お店」に作品を展示している。

おすすめ作品4&5:《色彩の解釈と構造》、《女根/めこん》

ヤコブ・ダルグレン《色彩の解釈と構造》 Photo: Shintaro Miyawayaki (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ヤコブ・ダルグレン《色彩の解釈と構造》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大竹伸朗《女根/めこん》 Photo: Osamu Watanabe (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大竹伸朗《女根/めこん》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大竹伸朗《女根/めこん》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)

女木島名店街のすぐ裏手にある休校中の女木小学校には、スウェーデンの作家ヤコブ・ダルグレンの《色彩の解釈と構造》(2025)のインスタレーションがある。地域の人々の協力で使われなくなった木箱や本、タイルといった四角いものを収集し、さまざまな色を塗って重ね、小さな街が作られた。それが設置されているのは意外な場所で、目の前に広がった作品に驚かされる。また、島の植物と人工物を組み合わせた大竹伸朗の《女根/めこん》(2013、2016)も圧巻だ。蛍光緑の通路を抜けて中庭に出ると、赤い人工衛星のようなブイの上にそびえる椰子を中心に、いくつものオブジェや樹々が並ぶ。その濃密な空間は、圧倒的な生命のパワーを感じさせてくれる。

小谷元彦《こんぼうや》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
小谷元彦《こんぼうや》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
つん《女木島人口増加大計画 ~あなぐまち入居者募集中~》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
村山悟郎《生成するウォールドローイング ― 女木島・鬼ヶ島大洞窟壁画》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

このほか女木島の2025年の新作には、小谷元彦《こんぼうや》(2022、2025)、つん《女木島人口増加大計画〜あなぐまち入居者募集中〜》(2025)、村山悟郎《生成するウォールドローイング》(2025)などの注目すべき作品がある。

【男木島】入り組んだ細い坂道を散策し、斜面に点在する作品を訪ねる

男木島にフェリーが近づくと、港の背後の斜面に民家が密集した独特の景観が見えてくる。港から鳥居をくぐって坂を登り始めると、ほどなく急な階段にさしかかり、いきなり息が上がる。突き当たりで左右に分かれる道、それぞれの先に作品が点在するが、まずは右(島の南方向)へ向かってすぐのところにある松井えり菜の展示会場へ向かう。

松井えり菜《ゆめうつつ~ミライのワタシ》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
松井えり菜《ゆめうつつ~ミライのワタシ》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
エミリー・ファイフ《私たちの島》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
エミリー・ファイフ《私たちの島》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大岩オスカール+坂 茂《男木島パビリオン》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大岩オスカール+坂 茂《男木島パビリオン》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大岩オスカール+坂 茂《男木島パビリオン》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

おすすめ作品6:《ゆめうつつ〜ミライのワタシ》

松井えり菜の《ゆめうつつ〜ミライのワタシ》(2025)は、「未来の男木島人」をコンセプトに、男木小・中学校に通う子どもたち14人の自画像を重ね合わせた版画を制作し、誰も見たことのない明日の「顔」を生み出すというもの。会場となっている古民家の部屋を生かしたインスタレーションで、床いっぱいに敷かれた色とりどりの座布団に寝転がり、天井に吊るされた3枚の障子を見上げると、「ミライのワタシ」の顔が眺められる。さらに、部屋の奥には芝居の書き割りのような絵が並び、何ともパワフルかつ不思議な空間になっている。男木島には、過疎化でいったんは休校した小中学校が、瀬戸芸をきっかけに移住者が増えたことで再開したという経緯がある。この作品はアートが地域の再活性化の一助になったことを再認識させてくれ、ちょっと嬉しい気持ちになった。

おすすめ作品7:《私たちの島》

ここからさらに島の南へ向かって歩いていると、ところどころで猫に出会った。毛づくろいをしている猫を横目に、次の作品の会場「老人憩いの家」の扉を開けると、受付の方が「すみません、入ったら閉めてください。猫が入ってきてしまうので」と声をかけてくれた。猫たちには悪いが、作品にいたずらをされないよう気を配っているのだそうだ。その作品とは、フランス出身のエミリー・ファイフによる《私たちの島》(2025)で、藍色のはぎれを集めて男木島の形に作り上げたテキスタイルの彫刻作品。200人弱の島民全員が関わるプロジェクトとして、伝統的な織物(くるま織り、しじら織り)や、リサイクルされた服、布地などが住民から集められた。一見、ブルーのシンプルなグラデーションだが、よく見るとさまざまな色合いが混じり合い、中には模様のある生地もあって見飽きない。

おすすめ作品8:《男木島パビリオン》

港に面した斜面の中腹には、豊玉姫神社が鎮座している。その近くにあるのが、大岩オスカールと坂茂の《男木島パビリオン》(2022)だ。坂茂の代名詞とも言える紙管を用いた建物で、港に面した部屋の大きなガラス窓に、船やタコなど海に関連したモチーフを大岩オスカールが描いている。ガラス越しに見える海と重なった絵は、まさにサイトスペシフィックな作品で、3つに分かれた窓を重ねると、また違う世界が現れる。瀬戸内海の景色と建築、絵画の巧みさ、アイデアの面白さを一度に味わえるこの部屋は、ついつい長居したくなる場所だ。

松本秋則《アキノリウム》 Photo: Yasushi Ichikawa(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
大岩オスカール《部屋の中の部屋》 Photo: Yasushi Ichikawa(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
山口啓介《歩く方舟》 Photo: Kimito Takahashi(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

男木島には古民家を活用した作品がいくつもあるが、中でもカラクリ仕掛けのサウンドオブジェで光と影と音に没入できる松本秋則の《アキノリウム》(2016)、床の間のある和室を90度回転させたような大岩オスカールの騙し絵的インスタレーション《部屋の中の部屋》(2016)は、感覚への楽しい刺激を与えてくれる。また、島の中心部から大井海水浴場方面に足を伸ばすと、堤防から海に向かって歩いているような山口啓介の《歩く方舟》(2013)を見ることができる。

【小豆島】海や里山、港など、地区ごとに異なる風景とともにアートを楽しむ

コンパクトな女木島、男木島と比べると、小豆島はかなり広い。バス路線は複数あり、芸術祭会期中には臨時バスも運行されるが、可能であればレンタカーを使うと自由度が格段に増すのでベターだろう。体力に自信があり、天候に恵まれればレンタサイクルという手もある。島の南側では特産品のオリーブが多く栽培され、北側は古くから良質な石材の生産地として知られる小豆島は、地区ごとに多様な風景や景観が堪能できる。その中から、おすすめのエリアと作品をピックアップした。

おすすめ作品9:《迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜》(迷路のまちエリア)

目[mé]《迷路のまち~変幻自在の路地空間〜》 Photo: Yasushi Ichikawa(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
目[mé]《迷路のまち~変幻自在の路地空間〜》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
長澤伸穂《うみのうつわ》 Photo: Shintaro Miyawaki (瀬戸内国際芸術祭参加作品)

高松からの船便が最も多い土庄港からほど近い市街地にある迷路のまちは、その名の通り細い路地が網の目のように入り組んだエリア。ここに一軒家を改造した体験型の作品《迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜》(2016)を制作したのは、現代アートチームの目 [mé]だ。もともとあった白い外壁を家の中へと増殖させ、内部は洞窟のようになっている。白く、丸みを帯びた空間は、家の中が雪に埋もれたようで、上ったり下ったり、カーブしたりする通路は、街の迷路の延長のようにも思える。

このエリアにはほかに、醤油蔵に展示された長澤伸穂《うみのうつわ》のほか、夏会期からはソピアップ・ピッチ《山》がお目見えする。前者は光ファイバーを編み込み、青白く発光する船で脈動を視覚化する作品。タイミングが合えば、暗闇の中で船の中に横たわり、光による脈動を感じることができる。一方、カンボジア生まれのアーティスト、ソピアップ・ピッチは、日本の剪定された木々に着想を得た作品を展示する。

おすすめ作品10:《抱擁・小豆島》(肥土山・中山エリア)

ワン・ウェンチー[王文志] 《抱擁・小豆島》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ワン・ウェンチー[王文志] 《抱擁・小豆島》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
豊福亮《黄金の海に消えた船》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
豊福亮《黄金の海に消えた船》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
岡淳+音楽水車プロジェクト《Reverberations 残響 ~ 岡八水車》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

山に囲まれた肥土山・中山エリアには、美しい棚田が広がる。その向こうに見える天文台のような巨大彫刻は、約4000本の竹を用いたワン・ウェンチー(王文志)の《抱擁・小豆島》(2025)だ。60メートルにおよぶアプローチを上り、直径15メートルのドームに入ると、中央に小豆島の形をした窪みがある。見上げると、編まれた竹の合間から空が、ドームの入り口からは棚田が見える。来場者は、お湯のない浴槽のような窪みの中に座ったり、周囲に寝転がったりと、自然とアート作品が渾然となって醸し出す気の流れのようなものを思い思いに味わっていた。

このエリアの2025年の新作には、豊福亮《黄金の海に消えた船》(2025)や岡淳+音楽水車プロジェクト《Reverberations 残響〜岡八水車》(2025)などがある。前者は古びた倉庫を絢爛豪華な竜宮城のように変身させた作品で、内部の池ではボートに乗ることができる。後者は、かつてこの地区にたくさんあった水車に着想を得たもので、製粉道具や農具、民具などを使った装置で音楽を奏でるインスタレーションだ。

おすすめ作品11:《Utopia dungeon〜a Tale of a Time〜》(三都半島エリア)

田中圭介《Utopia dungeon ~ a Tale of a Time ~》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
田中圭介《Utopia dungeon ~ a Tale of a Time ~》 Photo: Shintaro Miyawaki(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
田中圭介《Utopia dungeon ~ a Tale of a Time ~》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
尾身大輔《ヒトクサヤドカリ》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志 《ダイダラウルトラボウ》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志 《ナップヴィナス》(足の方から見たところ) Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

島の中央部から南へ突き出た三都半島エリアには、新旧合わせて9作品が設置されている。その半島の突端に近い神浦地区の静かな入江に面した古民家に入ると、田中圭介のインスタレーション《Utopia dungeon〜a Tale of a Time〜》(2019、2022、2025)が内部の空間全体を使って展開されている。角材を細かく彫刻し、彩色してミニチュアの森を出現させる作品で知られる田中だが、ここでは古民家の柱や梁、窓枠など、古民家に残る建材に小さな木々の彫刻が施されている。森から切り出された木が家を建てる材料となり、時を経て廃屋となった家にまた森が生まれるという生命の循環と、人間の一生をはるかに超えた時の流れを感じさせる作品だ。

この古民家の近くでは、尾身大輔《ヒトクサヤドカリ》(2022)、伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志《ダイダラウルトラボウ》(2022)、伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志《ナップヴィナス》(2025)といった大型の野外彫刻作品を見ることができる。家を背負った巨大ヤドカリ、道路の拡幅工事で壊された石垣や廃船の船底、流木を組み合わせた巨人、その巨人と対となる作品として今年加わった女神像は、どれもおおらかでユーモラス。海と山が織りなす三都半島の自然の中に、ゆったりと佇んでいる。

おすすめ作品12:《SHIP’S CAT(Boarding)》(醤の郷・坂手エリア)

ヤノベケンジ 「Journey of SHIP’S CAT 2025」《SHIP’S CAT(Boarding)》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ヤノベケンジ 「Journey of SHIP’S CAT 2025」《SHIP’S CAT(Boarding)》 Photo: ARTnews JAPAN (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ヤノベケンジ 《スター・アンガー》 Photo: Kimito Takahashi (瀬戸内国際芸術祭参加作品)
ビートたけし×ヤノベケンジ《アンガー・フロム・ザ・ボトム 美井戸神社》 Photo: Yasushi Ichikawa(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

醤の郷・坂手エリアの坂手港には、今年4月、新しいフェリーターミナル「さかてらす」がオープン。屋上にはヤノベケンジの《SHIP’S CAT(Jumping)》(2025)が設置され、鮮やかなオレンジ色のスーツを装着した猫が海に向かってジャンプしている。あたかも、このターミナルにやってくるジャンボフェリー「あおい」に飛び乗ろうとするかのようだが、その「あおい」の展望デッキには、ペアとなる《SHIP’S CAT(Boarding)》が行儀良く座っている。1日1、2本の「あおい」の運行ダイヤに合わせられれば、2匹を同時に見ることができるというわけだ。SHIP'S CATは2017年に始まったシリーズで、帆やロープなどをかじり、積み荷や食料を食べ、疫病をもたらすネズミから、乗組員や船を守る存在として親しまれてきた「船乗り猫」がモチーフ。「若者や人々の旅や冒険を守り、地域に幸福を運ぶ巨大な猫」として制作されている。

坂手港にはまた、同じくヤノベケンジの《スター・アンガー》(2013)が、港を見下ろす高台には古井戸跡を使ったビートたけし×ヤノベケンジの《アンガー・フロム・ザ・ボトム美井戸神社》(2013)がある。前者は文明によって破壊される地球の怒り、後者は共同体と自然の再生の願いを反映している。

三宅之功《はじまりの刻》 Photo: Keizo Kioku(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
三宅之功《はじまりの刻》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
清水久和 《オリーブのリーゼント》 Photo: Kimito Takahashi(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
木戸龍介《Inner Light -Floating Houseboat of Setouchi-》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)
木戸龍介《Inner Light -Floating Houseboat of Setouchi-》 Photo: ARTnews JAPAN(瀬戸内国際芸術祭参加作品)

醤の郷のオリーブ畑に佇む清水久和のシュールな彫刻《オリーブのリーゼント》(2013)、かつて瀬戸内海の水上生活者が利用していた家船をテーマとした草壁港の木戸龍介作品《Inner Light – Floating Houseboat of Setouchi》(2025)は、これまで紹介したエリアへ向かう途中で立ち寄ることができる。最後に時間の余裕があれば、屋形崎(夕陽の丘)の三宅之功《はじまりの刻》(2022)にも足を伸ばしてほしい。これは高さ4メートルの白い陶製の卵で、割れ目には植物が自生している。海と空の青さにも、夕日のオレンジ色にも映えるこの作品は、芽吹いては枯れる「命」のサイクルを象徴したものだという。

前述のように小豆島はかなり広いので、1日で全部を周ろうとするとかなり駆け足になる。時間が取れるのであればここで1泊し、翌日に島の北部から東部地区、そして二十四の瞳映画村のある田浦エリア、土庄港エリアの作品を鑑賞してはいかがだろうか。

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