アート活動への参加で「生物学的老化」が遅くなる可能性──英UCLの最新研究が示唆
アートなどの芸術鑑賞や、歌・ダンスといった文化活動を楽しむことが、生物学的な老化速度を遅らせ、健康維持に役立つ可能性があるという新たな研究成果が発表された。継続的に文化に触れることが、精神的・身体的な健康効果につながるという。

5月11日、学術誌『イノベーション・イン・エイジング』に、芸術や文化に触れることが生物学的な老化のペースを遅らせる可能性があるとするユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の論文が掲載された。
イギリスで行われたこの研究の結果は、「芸術が生物学的レベルで健康に与える影響を実証した」と英ガーディアン紙は報じている。この発言は、研究論文の筆頭執筆者で、UCLの社会生物行動研究グループ長を務めるデイジー・ファンコートによるものだ。ファンコートはまた、「芸術や文化活動への参加は、運動と同様に健康を増進する行動として認識されるべきだという証拠を提供しています」と付け加えた。同論文では次のように記されている。
「芸術・文化活動への関与(ACEng:Arts and Cultural Engagement)は、それ自体が健康行動であるという認識が高まっている。健康に有益な、多様な『有効成分』(例:社会的交流、認知的刺激、多感覚的刺激、創造性など)を含み、精神的および身体的な健康成果に関連する複雑な心理的、生物学的、社会的、行動的な作用メカニズムを活性化させる」
このACEngは、以下の4種類の活動への参加状況を測定することで評価された。(1)参加型芸術活動(例:歌、ダンス、絵画、写真、手工芸)、(2)鑑賞型芸術活動(例:美術展や文化イベントへの参加)、(3)文化財の見学(例:歴史公園、歴史的建造物、記念碑等への訪問)、(4)その他の文化活動(例:博物館、図書館、公文書館等への訪問)。
ただし、老化の進行が遅くても、長生きできるとは限らない。ガーディアン紙が指摘するように、「この研究で生物学的年齢を評価するために用いられた『エピジェネティック・クロック(DNAのメチル化パターンの解析で細胞の生物学的年齢を測定する技術)』は、将来の罹患率や死亡率を予測するものであり、これまでの研究で芸術活動と長寿との関連性が示唆されてはいるが、寿命との潜在的な因果関係を立証するにはさらに多くの研究が必要」だからだ。
それでも、調査の評価方法の1つでは、少なくとも週に一度「芸術活動を行う」文化愛好家は老化の進行が4%遅く、月に一度の参加でも進行が3%遅いことが示された。分析には、イギリス世帯パネル調査の成人3556人の血液検査データとアンケートへの回答が用いられている。
同論文によると、リラックスすることと比較して、「音楽を聴くことは、ドーパミンの分泌、シナプス機能の強化、ニューロンの新生などに関与する遺伝子の発現を亢進する」。また、さまざまな文化活動は社会的アイデンティティの形成を可能にし、それが「ストレスの緩和、対処、レジリエンス(精神的回復力)といった心理的プロセスにおいて極めて重要な可能性がある」とされている。余暇活動が必ずしも社交的なものでなくても、その活動を行う集団の一員であるという個人的なアイデンティティ(たとえば「ランナー」や「アーティスト」など)が生み出される。
同論文では、さらなる研究の必要性があるとしつつ、次のように述べられている。「この知見は、芸術・文化活動を公衆衛生の枠組みや個人の健康行動に組み込むための科学的根拠を提供し、健康的な高齢化に向け、誰もが利用しやすく充実した道筋への手がかりを示すものだ」(翻訳:石井佳子)
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