WHOが「アートの健康効果」に関する最新研究を発表──「アートは健康促進に不可欠な資源」

アートの鑑賞が健康増進に寄与する可能性を科学的に検証する国際プロジェクトが始動した。世界保健機関(WHO)と医学誌『Lancet』が主導するこの取り組みは、芸術をラグジュアリーから健康に欠かせないものへと再定義しようとしている。

自宅のバルコニーをステージに変え、歌を披露する女性。新型コロナウイルス感染症によるロックダウン期間中のスペインにて。Cristina Quicler/AFP via Getty Images
自宅のバルコニーをステージに変え、歌を披露する女性。新型コロナウイルス感染症によるロックダウン期間中のスペインにて。Cristina Quicler/AFP via Getty Images

心と身体の健康維持には、適度な睡眠と栄養の摂取、そして定期的な運動が欠かせない。しかし、この数十年間で芸術界と医療界の双方において、アート鑑賞もその一助となる可能性があるという認識が高まってきた。現在、世界保健機関(WHO)、アートを通じてウェルビーイングの向上を目指す団体「Jameel Arts & Health Lab(ジャミール・アーツ・アンド・ヘルス・ラボ)」、そして医学誌『Lancet』が立ち上げたイニシアチブが、これを科学的に裏付けようと試みている。

WHOのウェブサイトに設けられている「Arts and Health」と題されたページでは、芸術作品が「本質的にもつ健康効果」について説明されており、そこにはこう書かれている。

「医療現場にアートを取り入れることによって、治療成果の向上が見込まれているほか、医療従事者や患者の家族、そして近隣コミュニティを含むさまざまな関係者によい影響を与えることが示されている。健康増進、健康状態や疾病の管理、病気の予防など、いくつかの指標において効果が確認されている」

WHOとJameel Arts & Health Labが『Lancet Global Series: Health Benefits of the Arts(ランセット・グローバル・シリーズ:アートの健康効果)』と題した論文シリーズの立ち上げを発表したのは2023年のこと。『Lancet』誌が発表する研究論文と委嘱研究で構成されるこのプロジェクトは、Jameel Arts & Health Labの共同ディレクター兼ニューヨーク大学文化・教育・人間発達学部の教授ニーシャ・サジナニと、同じく共同ディレクターで、WHOヨーロッパ地域事務局の技術担当官を務めるニルス・フィエチェが統括している。

この論文シリーズの発表に際してサジナニとフィエチェは、Jameel Arts & Health Labのウェブサイトにこう記している。

「この論文シリーズは、アートをラグジュアリーではなく健康を促進するために不可欠なリソースとして検証し、文化資産を健康政策や医療現場に導入するための諸条件を模索する取り組みだ。2000〜2019年までに発表された900以上の研究をまとめた画期的なWHOの報告書を含め、音楽や演劇、ダンス、視覚芸術といったアートの導入が、心身および社会的ウェルビーイングによい影響をもたらす研究成果が続々と報告されている」

『Lancet Global Health』シリーズは、最初の研究成果を32枚の写真とともに発表した。これらの写真は、Jameel Arts & Health Labの共同ディレクターであるスティーブン・ステイプルトン率いるチームによってまとめられており、医療現場や刑務所、難民キャンプといった困難な状況下にある施設にアートを導入した成果を示している。こうした成果はPDFで公開されており、トルコの難民キャンプで実施された道化師によるワークショップ・プログラム、シンガポールの老人ホームで行われたダンスパフォーマンス、そして警備レベルが厳重なカリフォルニア州の刑務所に設置されたインスタレーションといった事例が紹介されている。

『Lancet Global Series』は、2025年後半にも新たな論文を発表する予定だという。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい