2026年のトレンドカラーは白系の色。そこから連想される問題と懸念に関する一考察

世界共通の色見本帳で知られるパントン社が、毎年恒例となっている翌年のトレンドカラーを発表。2026年の色は白系の「クラウドダンサー」であることが明らかになった。しかし、その色に対する懸念も示されている。以下、US版ARTnewsシニアエディターの考察を紹介する。

パントンが発表した2026年のトレンドカラー「クラウドダンサー」。Photo: Courtesy Pantone

昨今、アメリカや欧州では白人性の政治的意義が議論の的になっている。そんな中、パントントレンドカラーの発表を行った。2026年の色に選ばれたのは、は「クラウドダンサー」という白系の色合いだ。

パントンのプレスリリースによれば、クラウドダンサーは「安らぎを感じさせるふんわりとした白」であり、「殺気だった社会の中で心を穏やかにする効果の象徴として、落ち着いた思索や静かな内省の価値を再発見させるもの」だという。実にシリアスな言葉だ。その重々しさゆえに、白が厳密には色ではないことを忘れてしまうかもしれない。アドビのウェブサイトでは「専門的には、黒と白は色合いではなく明度」とされ、英語圏で最も広く使われている辞書の1つであるメリアム・ウェブスターでも、白は「色がない状態」と定義されている。

「外的な刺激に溢れた時代に、よりシンプルなものを求める」

パントン・カラー・インスティテュートのエグゼクティブディレクター、リアトリス・アイズマンは、2026年のカラー・オブ・ザ・イヤーを発表した声明で、クラウドダンサーが選ばれた理由を次のように説明している。

「世の中が過渡期にある今、私たちは未来の世界における自らの場所を再構築しようとしています。PANTONE 11-4201 クラウドダンサーは、明瞭さへの希望を秘めた白の色合いです。私たちは周囲の不協和音に圧倒されそうになり、内なる声に耳を傾けることがますます難しくなっています。そんな中、クラウドダンサーはよりシンプルなものを求める意思表明として、外部からの刺激に心を乱されずに集中できる環境をもたらします」

そうした外的な刺激の要因には、アメリカや欧州の一部における保守化の流れや、スーダンウクライナガザ地区での戦争、そしてさまざまな検閲への危惧が広がっていることも含まれるのだろうか?

パントンの色彩に関する見解は、アーティストやグラフィックデザイナーなどに影響を与え、トレンドを牽引するものとして注目される。同社のプレスリリースに書かれてはいないが、2026年のトレンドカラーの発表は、本質的にクラウドダンサーが他のあらゆる色調を凌駕する最高の位置にあることを示唆している。もちろん、同社が2026年の色を白人至上主義に関する議論の新たな火種にするつもりはないだろうが、その曖昧さがむしろ意図的であるようにも思える。

確かに、パントンは政治色の薄い路線を取っているし、ヴォーグ誌が12月4日に公開したクラウドダンサーに関する記事にも、白は「波風を立てたり、事を荒立てたりしない」と記されている。アイズマンはヴォーグ誌に対し、クラウドダンサーは「真っ白ではなく、ナチュラルなホワイトトーン」だと述べ、その色合いが攻撃的なものではないことを示そうとした。また、同研究所のバイスプレジデント、ローリー・プレスマンは、「自らのイマジネーションを広げ、自分らしさに合わせ、他者にどう見られたいか、自分がどう感じたいかによってこの色を取り入れてほしい」と付け加えている。

現在の政治的状況で「白」を選択することへの懸念

しかし、これは白をある種の基準とするもので──もしそれが本当に色であるならば──誰もが自らと比較せざるを得ない色だ。そして、2020年に保守系メディアが投稿した「リベラル諸君、残念だったな!『反白人入門』講座は永久に中止だ!」というツイートをリポストした大統領がアメリカを統治する時代の(色の)選択なのだ。今、2期目にある大統領はそのリポスト通り、政府資金によるDEI(多様性、公平性、包摂性)関連プログラムの終了を要求し、展示パネルの説明で「白人の文化」という表現を使ったスミソニアン博物館を批判した。

パントンに色の選択をもう少し真剣に考えてほしいと望むのは、無理な注文かもしれない。同社は2025年のトレンドカラーに「モカ・ムース」を選び、チョコレートやコーヒーを連想させるこの茶色を「私たちの安らぎへの欲求」をくすぐる色合いだとした。また、2023年のトレンドカラーは「ビバ・マゼンタ」(濃いピンク)で、「新しい挑戦や自己表現を促す色」と説明されていたが、このときは前年からバービーコア(ピンクを基調としたファッション)が大流行していた時期だった。だが、リスクも緊張感も高まっている今の時代、パントンの選択にはよりセンシティブであることを求めざるを得ない。

こうした懸念を示すメディアはほかにもあり、ニューヨーク・タイムズ紙のファッション担当ディレクターであるヴァネッサ・フリードマンは、「あまり好ましくない連想も頭に浮かぶ」と指摘した。パントン側のプレスマンはそうした関連性を否定し、ワシントン・ポスト紙に「肌の色は全く考慮されていません」と語っている。だが、その発言自体が示唆的と言えるのではないだろうか。自らを「色彩の専門知識における主要な情報源」と称する組織が、人種に対する一種の無関心さを含む見解を示しているのだから。

今回の発表で思い出したのは、2018年にニューヨークの実験的アートスペース、ザ・キッチンで見た展覧会だ。「On Whiteness(白さについて)」と題されたこの展覧会は、作家のクラウディア・ランキンが設立した学際的な文化研究所、レイシャル・イマジナリー・インスティテュートとの共同企画で、ジェンダー研究の専門家であるサラ・アーメッドが2007年に発表した小論を出発点としていた。彼女はそこで、「白人性が意識されないことで広く受け入れられているのなら、白人性に目を向けることは何を意味するのか?」と問いかけている。

この展覧会に出展したアーティストの1人にシャルロット・ラガルドがいた。《コロニアル・ホワイト》(2018)と題されたプロジェクトで、彼女は参加者に「コロニアル・ホワイト」と表示された色を塗ったチップを渡し、自分が目にした光景とチップを比較した写真を送り返すよう依頼している。ラガルドの元にはナプキンやコーヒーショップ、米連邦議会議事堂の画像が届き、彼女が「構造的人種差別についての対話」と呼ぶものを実現させた。

もし、ラガルドのプロジェクトをクラウドダンサーで再び実践したら何が起こるだろうか? 誰かがそれに挑戦し、その対話が継続するように願わずにいられない。(翻訳:石井佳子)

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