アメリカで「人種」「クィア」に関する2展示が中止に。トランプの「DEI廃止」大統領令の影響
トランプ米大統領が政府職員の多様性、公平性、インクルージョン(DEI)の取り組みを廃止する大統領令に署名したことを受けて、アメリカの公的美術館・博物館はDEIに関する部署の廃止が相次いだ。そして、2月初めにワシントンD.C.のアメリカ大陸美術館で2つの展覧会が中止されたことが明らかになった。

トランプ米大統領が政府職員の多様性、公平性、インクルージョン(DEI)の取り組みを廃止する大統領令に署名した。その影響は国立の美術館・博物館にも及んでいる。
2月初め、南北アメリカ大陸を始めとする21カ国によって結成された地域的国際機構、米州機構(OAS)傘下のアメリカ大陸美術館が、3月21日に開幕する予定だった2つの展覧会、シェリル・D・エドワーズがキュレーションした、カリブ海とアメリカ出身のアフリカ系アーティストの作品を集めた「Before The Americas」と、ヨーク大学環境芸術・正義学教授のアンディル・ゴシネによる「Nature’s Wild with Andil Gosine」の中止を立て続けに発表した。
展覧会「Nature’s Wild with Andil Gosine」は、2021年に出版されたゴシネの著書『Nature's Wild: Love, Sex and Law in the Caribbean』をもとに企画された。 アート、アクティビズム、宗教における同性愛のトピックがまとめられた同著に関連し、12人のアーティストと数人の作家とのコラボレート作品で構成される予定だった。
ゴシネは、中止のニュースを最初に報じたHyperallergicの取材に対し、「3年間、私はこの展覧会で使われる3つの展示室を1センチ単位で想像し、企画してきました。展覧会はその空間のためだけに作られたのです」と訴えた。彼はこの展覧会を企画するために大学の給料を15%減給され、クラーク・アート・インスティテュートでのレジデンスの6ヶ月間を同展のカタログの作成に費やしたという。
展覧会が中止された理由は明かされていないが、OAS事務総局が展覧会の閉鎖を命じたと言われている。ゴシネは、その理由は美術館側がこの展覧会を「クィア展」と烙印を押したからだと考えている。 展覧会のメイン作品には、彼が生まれ育ったトリニダードの田舎町で3歳の頃に撮影した、青い服を着て腰に手を当てている様子の写真が使われている。その靴にはキラキラとした輝きが描き込まれていた。
「Nature’s Wild with Andil Gosine」展の資金は、ゴサイン自身が獲得した助成金、WorldPride、OASのカナダ常任代表部から拠出された。彼は、今回の中止は、トランプ政権が発したDEI廃止の大統領令に対して美術館が行った努力の一環ではないかと考える。 その大統領令の中には、「私たちは真の敵対的なプロパガンダと闘いますが、その際には、アメリカは偉大で正義の国であり、その国民は寛大であり、指導者たちは他国の権利と利益を尊重しながらも、今やアメリカ国民の中核的利益を優先しているという根本的な真実のみに基づいて行動する」という誓約が書かれている。
現在上院の承認待ちではあるが、トランプはアメリカ連邦保安官局の空輸隊コンエアー元幹部のレアンドロ・リズート・ジュニアをOASの米国大使に指名した。今年、ケネディ・センターの理事長に自らを任命するなど、トランプは現在、芸術機関を掌握することに関心を示しており、先日も政府機関の建物をモダニズム様式よりも「古典的様式」にするという大統領令を発した。
ゴシネの展覧会を手伝ったカナダの文化批評家デボラ・ルートは、今回の中止決定について、「このようなことが、ほかのアーティストや作家に悪い影響を与えることを懸念しています。彼らの中には、作品の展示機会を得るために、保守的で退屈な規範に合うように制作する人もいるかもしれません」と語った。(翻訳:編集部)
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