「DEI廃止」大統領令がスミソニアン博物館に与える影響は? 「組織の理念」に関する対応に注目集まる
政府職員の多様性に対する取り組みを廃止する大統領令にドナルド・トランプが署名したことを受け、ワシントンD.C.にあるナショナル・ギャラリー・オブ・アートは多様性にまつわる部署を閉鎖した。同時に、スミソニアン博物館の多様性プログラムの今後も注目されているが、政府職員が関与していない同施設のDEI活動は存続するかもしれない。
ドナルド・トランプが就任直後に署名した大統領令により、政府職員の「ダイバーシティ、公平性、包括性(Diversity、 Equity、 Inclusion = DEI)」に対する政策や活動の廃止が命じられている。これを受けて早速、ワシントンD.C.にあるナショナル・ギャラリー・オブ・アートがDEIにまつわる部署を閉鎖したが、これに続き、スミソニアン博物館の対応が注目されている。
米人事管理局が多様性プロジェクトに従事する連邦職員に出した通達によれば、トランプは「1月22日の午後5時までに」有給休暇を取るよう職員たちに命じており、休暇を取っている間に「すべての多様性、公平性、包括性、アクセシビリティー(DEIA)を運営する事務所やプログラムの閉鎖・終了」に向けた措置が取られるという。
しかし、アメリカ美術や肖像画、アフリカ系アメリカ人の歴史・文化などに焦点を当てた21の博物館・美術館を運営するスミソニアン協会は、特殊な組織構造を持っていることから、トランプが新たに署名した大統領令に従う必要がない可能性がある。
米議会調査局によると、スミソニアン協会は「立法、行政、司法のいずれの部門からも組織的に独立した存在」であることから、他の政府機関とは異なる。1846年に合衆国議会によって設立されたスミソニアン協会は、1829年に死去したイギリス人科学者ジェームズ・スミッソンが連邦政府に遺贈した遺産に端を発する。その結果、スミソニアンは「アメリカの信託機関」となり、三権からそれぞれ選出された代表者で構成される評議員会によって監督されている。
また、スミソニアン協会が公開した2023年度年次報告書によれば、連邦政府からの予算配分は全体の53%にすぎず、残りの47%は寄付金や助成金、事業収入、基金からの配当で賄われている。
厳密に言えば、スミソニアン博物館で働く人々の多くは、連邦政府の職員として扱われており、政府から資金提供されているプログラムや活動、あるいは連邦職員が関与する活動については、このDEIへの取り組みを廃止する大統領令に従う必要があるだろう。その一方で、信託基金で運営される事業や非連邦職員の活動は、この行政命令の対象外となる。
ナショナル・ギャラリー・オブ・アートはスミソニアン協会が運営する美術機関ではない。だが、同館のDEIプログラム終了が決定したことで、連邦資金を受け取る他の文化施設も追随するのではないかという懸念が広がっている。スミソニアンのウェブサイトには、依然としてダイバーシティ責任者とアクセス部門ディレクターが掲載されているほか、外部の文化施設がスミソニアン協会から作品を借用し、教育戦略を共有できるスミソニアン・アフィリエーションズ・プログラムでは、「組織の理念の一部」としてDEAIが重視されていることが他のウェブサイトには記されている。
スミソニアンは、DEIプログラムの資金提供、DEIAプログラムに従事する職員の休暇取得状況、事務所の閉鎖計画に関するコメントは発表していない。(翻訳:編集部)
from ARTnews