トランプ大統領令によりワシントンの美術館が多様性(DEI)プロジェクトを廃止。他の芸術機関の対応は
トランプ大統領は1月20日、政府職員の多様性に対する取り組みを廃止する大統領令に署名した。それを受けて、ワシントンD.C.にあるナショナル・ギャラリー・オブ・アート(NGA)は多様性にまつわる部署を閉鎖したと発表した。
ドナルド・トランプ大統領が新政権初日の1月20日に多数の大統領令に署名し、前政権の政策を大きく転換した。その中には、アメリカ連邦政府に対して、職員らのDEIに対する取り組みを全面的に廃止するよう命じたものもある。これを受けて、ワシントンD.C.にあるナショナル・ギャラリー・オブ・アート(NGA)は、「多様性、公平性、包括性(Diversity、Equity、Inclusion=DEI)」にまつわる部署を閉鎖したと美術館の広報担当者はニューヨーク・タイムズ紙に語った。
NGAがDEI推進プロジェクトを発足させたのは、トランプ前政権時代だ。これに伴いNGAは82万ドル(約1億2800万円)を投じてロゴやサインのデザインを含むリブランディングを行い、2021年には、「多様性、公平性、包括性に焦点を当て、私たちが伝えるストーリーやそれを伝える方法、そして私たちのスタッフを多様化します」という新たなビジョンとミッションステートメントを発表していた。
この取り組みは、これまでNGAの指導者や学芸スタッフのほぼ全員が白人だった事実を浮き彫りにした。その後同館は、NGA初のアフリカン・アメリカン・アートのキュレーターや、新しいチーフ・キュレーターを含む雇用を生み出し、より多くの女性や有色人種のアーティストを紹介する多様な展覧会を実現した。
しかし昨年の大統領選を前に、多様性プロジェクトの最高責任者は辞任し、後任のポストは空いたままだった。同プロジェクトで働いていた2人の職員は別の部門に配置転換されたという。現在、NGAはオンライン上のステートメントから、「多様性、公平性、アクセス、包括性」という言葉を削除し、「歓迎的雰囲気でアクセスしやすい」という表現に置き換えている。
アメリカの芸術機関の中では同館がいち早く大統領令に従った形になるが、NGAは1937年に議会によって設立された政府機関として、運営予算の約80%を連邦政府から得ているという背景がある。さらに同館の評議員は国務長官が兼任しており、これまで大統領の方針に従うことを好んできた。1月18日に開催された、J・D・バンス副大統領が主催する大統領就任記念パーティの会場にもNGAは使われている。
美術館や芸術団体はいま、DEIを否定する大統領令にどう対応すべきかの判断に迫られている。例えばワシントンのスミソニアン博物館を管理するスミソニアン協会は、現在の多様性プログラムが今後どうなるのかについて現時点でコメントしていない。また、US版ARTnewsがアメリカン・ビジョナリー・アート・ミュージアムとナショナル・チルドレンズ・ミュージアムに取材したが、これまで返答は戻っていない。(翻訳:編集部)
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