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「ナチス式敬礼」疑惑のイーロン・マスク肖像画をドイツの博物館が撤去。「無批判な賛辞」との反発を回避

1月20日に行われたトランプ大統領就任式のイベントで、イーロン・マスクが「ナチス式敬礼」をしたと物議を醸している。同日、ドイツの博物館はマスクの肖像画を撤去した。

1月20日、ワシントンDCのキャピタル・ワン・アリーナで開催されたトランプ大統領就任イベントでスピーチするイーロン・マスク。Photo: Christopher Furlong/Getty Images

1月20日、ワシントンD.C.で行われたトランプ大統領就任式のイベントでイーロン・マスクがスピーチをし、出席者に感謝を述べた後、手のひらを下にして右手を斜め上に上げるジェスチャーをした。その後さらに、後ろの出席者にも同じポーズをした。多くの人はこれを「ナチス式敬礼」と解釈し、非難している。

「ナチス式敬礼」は、アドルフ・ヒトラーがナチス政権時に、イタリアのファシスト独裁者ベニート・ムッソリーニとその支持者たちが用いたローマ式敬礼をアレンジしたものだ。戦後、ヨーロッパ諸国ではナチス政権を思い起こさせるとして自主規制や制限の対象となっており、ドイツでは故意に行うと重大な刑事罰の対象となる。

ドイツのミュンヘンにあるドイツ科学技術博物館では、「過去と未来の思想家」という展示で、航空宇宙分野の開拓者たちとともにスペースX創業者であるマスクの肖像画が飾られていたが、マスクが疑惑の行動をしたわずか数時間で肖像画が撤去された。そもそも肖像画は、マスクが米大統領選に関与していた2024年11月には覆いをかけられていたという。

その理由について美術館の広報担当者は、1月22日にフォーチュン誌に次のように語っている。

「生きている人を展覧会のような目立つ場所で称えることは、常に問題になり得ます。なぜなら、無批判な賛辞と受け取られる可能性があるからです。人間の生涯にわたる業績は、振り返って初めて正しく評価できることが多いのです」

実際、今回の大統領選で、マスクは起業家に加えて政治家の肩書を得た。スペースXと電気自動車会社テスラの創業者兼CEOであるマスクは、現在、純資産4300億ドル(約67兆円)超の世界一の大富豪だ。大統領選ではトランプ陣営に2億7700万ドル(約432億円)を拠出し、トランプは新設する「Department of Government Efficiency(DOGE、政府効率化省)」のトップにマスクを任命した。

今回の「ナチス式敬礼」騒動について、SNSでは、「彼はナチズムを積極的に推進している」という意見がある一方で、「マスクは胸に手を当てて皆に手を振る感謝のジェスチャーをしたかったが、興奮してそうなってしまった」という意見も多い。マスク自身もXで、この論争は批判者による「卑劣な策略」と呼び、「誰もがヒトラーだという攻撃は陳腐だ」と反論した。(翻訳:編集部)

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