切り刻まれたダ・ヴィンチ手稿、500年ぶりによみがえる。伊英共同の10年プロジェクトが結実
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の現存最大の手稿集『アトランティコ手稿』が、デジタル技術によって本来の姿を取り戻した。フィレンツェのガリレオ博物館は6月8日、後世に分断された500ページ以上を再統合したオンラインプラットフォーム「レオナルドテーカ(Leonardotheka)」を公開した。

フィレンツェのガリレオ博物館は6月8日、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿集『アトランティコ手稿(Codex Atlanticus)』について、後世に切り離された500ページ以上をデジタル上で再統合したオンラインプラットフォーム「レオナルドテーカ(Leonardotheka)」を公開したとArtforumが報じた。
ダ・ヴィンチは手書きのメモや草稿をまとめた十数冊に及ぶ手稿を遺したが、そのなかでも『アトランティコ手稿』は最大規模を誇る。1470年代からダ・ヴィンチが死去する1519年までに書かれた2200ページ以上には、アルキメデス式スクリュー(螺旋揚水機)や永久輪(永久機関)、コウモリを思わせる飛行機械、ハープシコード・ヴィオラなど、芸術家でありエンジニアでもあった彼の代表的な発明の数々が含まれている。
ダ・ヴィンチの手稿群は、彼の死後、最後の弟子フランチェスコ・メルツィに受け継がれ、その後16世紀末にイタリアの彫刻家ポンペオ・レオーニの手に渡った。レオーニは手稿を、芸術に関する内容と技術・科学に関する内容の2冊に独断で分け、その過程でページの一部を切り取り、失わせることさえした。しかしこの分割は、芸術と科学を一体のものと捉えるルネサンスの根本理念に背くものだった。
17世紀初頭、レオーニの娘婿ポリドーロ・カルキが2冊の手稿を引き継ぐと、彼は後に『アトランティコ手稿』と呼ばれることになる技術・科学関連の手稿集をガレアッツォ・アルコナーティ伯爵に売却した。伯爵はこれをミラノのヴェネランダ・アンブロジアーナ図書館に寄贈した。一方、芸術関連の約550葉の手稿は1620年代にイングランドへ渡り、その約50年後、イギリス王室のロイヤル・コレクションに収められた。








今回のプロジェクトは、ガリレオ博物館が中心となり10年がかりで進められた。アンブロジアーナ図書館、ロイヤル・コレクション・トラスト、ダ・ヴィンチの故郷ヴィンチにあるレオナルディアーナ図書館が協力し、アンブロジアーナ図書館が所蔵する『アトランティコ手稿』と、かつて同じ手稿群に属していたロイヤル・コレクション所蔵の約550葉を、デジタル上で再統合した。さらに同プロジェクトでは、紙の寸法や下地処理の方法、材質、透かしを照合することで、新たに50葉分の復元にも成功した。
こうして完成した「レオナルドテーカ」は、キーワードや技法ごとに検索しながら膨大な文書群をシームレスに閲覧できるほか、関連する研究資料にも容易にアクセスできる。
ガリレオ博物館のエグゼクティブ・ディレクター、ロベルト・フェラーリはこのプロジェクトについて、声明で次のように述べている。
「レオナルドテーカのモデルは、文化機関がデジタル事業の知的主導権をいかに保持できるか、そして保持すべきかについて、説得力のある先例を示しています。そうした責任を商業プラットフォームに委ねたいという誘惑に抗うべきなのです。人工知能が急速に進化する時代にあって、このプロジェクトが思い出させてくれるのは、デジタル・ヒューマニティーズ(デジタル技術を活用した人文学)の真の価値は、私たちの共有遺産を探究し理解するためのデジタルツールを、学術機関自らが主体的に構想し築いていくことにある、ということです」

2. シモーネ・マルティーニ《受胎告知》(1333年)Photo: Uffizi Gallery
上部に華麗な彫刻が施され、金箔とテンペラで描かれたこの大作は、ルネサンスへの移行期における傑作の1つ。【作品の詳細はこちら】

3. パオロ・ウッチェッロ《サン・ロマーノの戦い:ニッコロ・マウルジ・ダ・トレンティーノは、ベルナルディーノ・デラ・カルダを倒した》(1435-40年頃)Photo: Uffizi Gallery
1432年のサン・ロマーノ(ピサ)の戦いを描いた3連作の板絵の1枚。【作品の詳細はこちら】

4. ピエロ・デッラ・フランチェスカ《ウルビーノ公夫妻の肖像》(1473-75年)Photo: Uffizi Gallery
ルネサンス期の最も有名な肖像画の1つであり、傭兵隊長として活躍したフェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ公爵と、出産後に26歳で命を落としたその妻バッティスタ・スフォルツァを描いた作品。【作品の詳細はこちら】

5. ピエロ・デル・ポッライオーロ、サンドロ・ボッティチェリ《7つの美徳》(1469-72年)Photo: Uffizi Gallery
仮想の最高裁判所のようにも見える威風堂々たるこの連作絵画には、7つの美徳を擬人化した女性像が描かれている。【作品の詳細はこちら】

6. サンドロ・ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》(1485年)Photo: Uffizi Gallery
さまざまな雑貨に、この作品が印刷されているのを見たことがある人は多いに違いない。彼女はリーボックのスニーカーの売り上げに貢献し、著名アーティストのインスピレーションの源泉になってきた。【作品の詳細はこちら】

7. イノシシ(紀元前2-1世紀)Photo: Uffizi Gallery
このリアルなイノシシは、無名のローマ人彫刻家による大理石の彫刻で、ヘレニズム時代のブロンズ像を参考にしたものと考えられている。【作品の詳細はこちら】

9. ピエロ・ディ・コジモ《アンドロメダを救うペルセウス》(1510-15年)Photo: Uffizi Gallery
翼のあるサンダルを履いたペルセウスが空を飛び、尻尾の先がくるくる巻いた巨大な海の怪獣がアンドロメダを襲おうとする場面を描いている。【作品の詳細はこちら】

10. レオナルド・ダ・ヴィンチ《東方三博士の礼拝》(1482年)Photo: Uffizi Gallery
1481年にダ・ヴィンチは、フィレンツェ近郊のサン・ドナート教会に飾るための絵を、アウグスチノ会の修道士たちから依頼された。【作品の詳細はこちら】

13. ヘルマプロディートス(紀元2世紀)Photo: Uffizi Gallery
元前2世紀の古代ギリシャのブロンズ像をもとにしてローマ時代に作られたこの作品は、ギリシャのパロス島で採掘された大理石から彫られている。【作品の詳細はこちら】

14. エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン《自画像》(1790年)Photo: Uffizi Gallery
画家ルイ・ヴィジェの娘で、有名な画商ジャン=バティスト=ピエール・ルブランの妻だったエリザベートは、肖像画で成功を収めた作家だ。【作品の詳細はこちら】

15. パルミジャニーノ《長い首の聖母》(1534-40年)Photo: Uffizi Gallery
聖母の長い首と指、そして乳首とへそが見える薄布の衣服が描かれたこの絵には、典型的な聖母子像にはない官能性がある。【作品の詳細はこちら】

16. ポントルモ《エマオの晩餐》(1525年)Photo: Uffizi Gallery
ポントルモの《エマオの晩餐》は、復活したイエスが旅人に扮し、2人の弟子とともに食卓にいる様子を描いている。【作品の詳細はこちら】

17. ロッソ・フィオレンティーノ《エテロの娘たちを守るモーセ》(1523-27年)Photo: Uffizi Gallery
筋骨隆々の男たちが、カンバスから飛び出そうな勢いで前面に押し出されている混乱したシーンは、聖書の物語の一場面で、そこに登場するモーセが活劇のヒーローのように描かれている。【作品の詳細はこちら】

21. アルテミジア・ジェンティレスキ《ホロフェルネスの首を斬るユディト》(1620年頃)Photo: Uffizi Gallery
この有名な物語は多くの画家が題材として取り上げているが、その中でも最も真に迫ったものの1つがこの作品だ。【作品の詳細はこちら】

22. ユストゥス・スステルマンス《Madonna “Domenica delle Cascine,” la Cecca di Pratolino, e Pietro Moro》(1634年)Photo: Uffizi Gallery
人物同士がやり取りをしている瞬間をカメラで捉えたかのように描写されている。【作品の詳細はこちら】






