ダ・ヴィンチのDNAに迫る研究プロジェクトが新成果を発表。素描と親族資料のDNAに関連の可能性

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)のDNA特定を目指す研究プロジェクト「レオナルド・ダ・ヴィンチDNAプロジェクト(LDVP)」が1月6日、研究成果をプレプリントデータベース「bioRxiv」で公開した。

フリードリッヒ・ヴェーバー《レオナルド・ダ・ヴィンチの肖像》(1823-1882)Photo: Sepia Times/Universal Images Group via Getty Images

レオナルド・ダ・ヴィンチのDNAを特定することを目的とした研究プロジェクト「レオナルド・ダ・ヴィンチDNAプロジェクト(Leonardo da Vinci DNA Project、LDVP)」は1月6日、その研究成果を未査読論文を公開するプレプリントデータベース「bioRxiv」に掲載した。

科学誌サイエンスによると、LDVPはY染色体DNAが父系を通じてほぼ変化せずに受け継がれる性質に着目した。研究チームは、ダ・ヴィンチ作とされる赤チョークによる素描《聖なる幼子(Holy Child)》から得られたY染色体配列と、レオナルドの祖父アントニオ・ダ・ヴィンチのいとこにあたるフロジーノ・ディ・セル・ジョヴァンニ・ダ・ヴィンチが書いた手紙から採取したDNA配列を比較。その結果、いずれもダ・ヴィンチの出生地であるトスカーナに共通の祖先をもつ遺伝的集団に属すると結論づけている。

しかし、この調査結果には慎重な見方も多い。まず問題となるのは、分析対象となった《聖なる幼子》の帰属だ。同作は2000年代初頭に美術商フレッド・クラインによって取得され、一部の研究者はダ・ヴィンチ作とみなしているが、弟子による作品である可能性を指摘する声も根強く、見解は分かれている。

ジャクソン研究所ゲノム医療部門で同作のサンプル分析を行った遺伝学者チャールズ・リーは、サイエンス誌に対し、作品上のDNAがレオナルド本人のものである可能性は否定できないとしつつも、「この調査結果は、遺伝子的に同一人物であることを証明するにはほど遠い」と指摘する。また、フィレンツェ大学(UNIFI)の人類学者で古代DNA研究の専門家でもあるLDVPメンバーのデイヴィッド・カラメッリも、「疑いの余地のない同一性を確立するには非常に複雑です」と語り、結論の難しさに同意している。

この研究をさらに困難にしているのが、ダ・ヴィンチ本人に直接由来するDNAが現存していないという事実だ。レオナルドは子孫を残しておらず、フランスにあった墓所はフランス革命期に部分的に破壊された。遺骨は失われたか、あるいはアンボワーズのサン=ユベール礼拝堂に移された際に他の遺骨と混ざってしまった可能性があるとされている。

一方で、LDVPの試みは単なる空想的研究と片付けられるものではない。サイエンス誌は本研究を、美術作品や文化財に含まれる有機・無機成分を網羅的かつ高精度に分析する近年の研究潮流「アーティオミクス(arteomics)」の一手法として位置づけている。ベルリン国立博物館群ラートゲン研究所所長のシュテファン・ジーモンは、「これは単に新しい窓を開くのではなく、全く新しい世界を切り開くものです」と評価する。

LDVPの研究チームは、この手法が広く理解され、ダ・ヴィンチの作品や手稿を所蔵する機関・個人から今後さらにサンプルが提供されることを期待している。LDVP代表で、ロックフェラー大学の環境科学者ジェシー・オーズベルはサイエンス誌に対し、「レオナルドが絵を描く際、筆だけでなく指も使っていたことはよく知られています。そのため、顔料の中に表皮細胞が混ざっている可能性は十分にあるのです」と語った。(翻訳:編集部)

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