ゴッホの高額落札作品トップ15──ひまわり、肖像画からプロヴァンスの風景まで
独自の厚塗り技法やうねるような筆致で知られるフィンセント・ファン・ゴッホは、その波乱に満ちた生涯とあいまって、印象派・ポスト印象派の中でも根強い人気を誇る画家の1人だ。以下にゴッホのオークション落札額トップ15を紹介する。うち2点は、日本の企業や個人が関係している。

- 15. 《アルルのフィンセントの家 [表]、フィンセント・ファン・ゴッホから弟テオへの手紙の1ページ [裏] 》(1888):約550万ドル(約8億7000万円)
- 14. 《日の出の風景》(1889):990万ドル(約15億7000万円)
- 13. 《ひまわり》(1888):2250万ポンド(約48億2000万円)
- 12. 《トランクタイユの橋》(1888):3740万ドル(約59億5000万円)
- 11. 《小麦畑に座る麦わら帽の若い農婦》(1890):4750万ドル(約75億5000万円)
- 10. 《アルピーユ近郊の野原》(1889):5200万ドル(約82億7000万円)
- 9. 《アイリス》(1889):5390万ドル(約85億7000万円)
- 8. 《暗雲が立ち込める風景》(1889):5400万ドル(約85億9000万円)
- 7. 《静物、ヒナギクとポピーを生けた花瓶》(1890):6180万ドル(約98億3000万円)
- 6. 《アリスカンの並木道》(1888):6600万ドル(約105億円)
- 5. 《オリーブの木と糸杉に囲まれた木造の小屋》(1889):7135万ドル(約113億4000万円)
- 4. 《髭のない自画像》(1889):7150万ドル(約113億7000万円)
- 3. 《畑を耕す農夫》(1889):8130万ドル(約129億3000万円)
- 2. 《医師ガシェの肖像》(1890):8250万ドル(約131億2000万円)
- 1. 《果樹園と糸杉》(1888):1億1720万ドル(約186億3000万円)
1990年、クリスティーズ・ニューヨークで8250万ドル(2026年5月末日の為替レートで約131億円、以下同)という驚くべき金額で落札されたフィンセント・ファン・ゴッホの《医師ガシェの肖像》は、当時オークション史上最高額の絵画となり、アート界に衝撃を与えた。だが、これ以外にも、ゴッホがアート市場で有数の人気作家であることを印象づけた記録はいくつもある。
サン=レミ=ド=プロヴァンスで描かれた渦巻くような田園風景や燃えるような糸杉から、アルルやオーヴェル=シュル=オワーズで制作された繊細な静物画や肖像画に至るまで、ゴッホの作品は今もなお個人コレクターや文化機関を魅了し続けている。特に、情感に溢れ、話題性のある来歴を持つ作品が、1000万ドル(15億9000万円)以上の落札額になることは珍しくない。
以下、オークションにおけるゴッホの史上最高額から15位までを見ていこう。
* 日本円は全て2026年5月末日の為替レートに基づき算出。
15. 《アルルのフィンセントの家 [表]、フィンセント・ファン・ゴッホから弟テオへの手紙の1ページ [裏] 》(1888):約550万ドル(約8億7000万円)

2013年11月5日、ゴッホがアルルで部屋を借りていた家とその周辺を描いた希少なペン画が、クリスティーズ・ニューヨークで約550万ドル(約8億7000万円)で落札された。これは同じ作品がその10年前にオークションに出品されたときの落札額の4倍に相当する。1888年9月に弟テオに送られた手紙に描かれたこのドローイングには、ゴッホが南仏に築きたいと願っていたアーティスト共同体のビジョンが反映されていた。
数十年にわたりゴッホの子孫が所有していたこの作品は、オランダの個人コレクションに収蔵されている。オークションへの出品はコレクターたちにとって、ゴッホ直筆の手紙からアルル時代を垣間見る貴重な機会となった。
14. 《日の出の風景》(1889):990万ドル(約15億7000万円)

サン=レミ=ド=プロヴァンスのサン・ポール・ド・モーゾール精神療養院で1年ほど療養生活を送っていたゴッホは、1889年にそこで《Landscape with Rising Sun(日の出の風景)》を制作した。この作品は、1985年4月24日にサザビーズ・ニューヨークで990万ドル(約15億7000万円)で落札。それまでのゴッホの最高額を大幅に更新し、当時の印象派およびポスト印象派作品の記録も塗り替えた。
1階にあったゴッホの病室から見える早朝の麦畑を描いた《Landscape with Rising Sun》は、1965年に鉄道王一族のフローレンス・J・グールドが、物理学者で「原爆の父」と呼ばれたJ・ロバート・オッペンハイマーから購入したもの。オッペンハイマーは、コレクターだった父ジュリアスからこれを相続していた。ゴッホの作品中、最も早い時期に国際的な展覧会に出品されたものの1つである本作は、1929年に開館したニューヨーク近代美術館(MoMA)の初展覧会でも展示されている。1985年のオークション時、アート市場ではこの絵にどれほどの需要があるのか疑問視されていた。しかし、そこでの記録的な成功は、ゴッホの風景画に対する人気の上昇を認識させ、作品評価における大きな転換点となった。
13. 《ひまわり》(1888):2250万ポンド(約48億2000万円)

1888年からゴッホが繰り返し描いた有名な「ひまわり」シリーズの一作であるこの絵は、1987年3月31日にクリスティーズ・ロンドンで2250万ポンド(約48億2000万円、当時の為替レートでは約58億円)で日本の安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)が落札し、当時のオークション最高記録を樹立した。作品は東京の安田火災東郷青児美術館(現・SOMPO美術館)のコレクションに入り、現在も同美術館で展示されている。
鮮やかな黄色を使い、表現力豊かな筆致で描かれたこの作品は、ゴッホがポール・ゴーギャンを迎える前にアルルの自宅を飾ろうと制作したもので、南仏で次々と作品を生み出していたこの時期の楽観的な気分と創作への意欲が表れている。
12. 《トランクタイユの橋》(1888):3740万ドル(約59億5000万円)

ゴッホが次々と作品を生み出していたアルル時代の1888年6月に完成した《Bridge at Trinquetaille(トランクタイユの橋)》は、2021年5月13日にクリスティーズ・ニューヨークのオークションに出品され、最高予想価格の3500万ドル(約56億円)を上回る3740万ドル(約59億5000万円)で落札された。
ポール・ゴーギャンと同居していたアルルの家のそばの風景を描いたこの絵には、ローヌ川を越えてトランクタイユへと通じる橋が見える。「アブサン色」とファン・ゴッホが表現した、空と川の緑がかった鮮やかな黄色は、彼の大胆な色彩感覚と感情の激しさを映し出している。ゴッホはこの絵で描いた人々を、アルルの歓楽地帯に言及しつつ「町外れの通りにたむろするごろつき」と言っていた。本作は彼の死後、弟のテオやイギリスの収集家エリザベス・ワークマン、サウジアラビアの実業家アクラム・オジェなど何人かの所有者の手を経て、現在は個人コレクションに入っている。
11. 《小麦畑に座る麦わら帽の若い農婦》(1890):4750万ドル(約75億5000万円)

ゴッホが人生最後の数カ月間を過ごしたオーヴェル=シュル=オワーズで1890年に制作されたこの絵には、麦とポピーを背に座る女性が描かれている。落ち着いた色彩と内省的な雰囲気は、これ以前に描かれた肖像画の激しさとは一線を画すものだ。
この作品は1997年にアメリカのカジノ王スティーブ・ウィンに4750万ドル(約75億5000万円)で落札され、大きな話題を呼んだ。そのウィンは、2005年に本作とポール・ゴーギャンの絵画をヘッジファンドマネージャーのスティーブン・A・コーエンに1億ドル(約159億円)以上で売却している(金額の詳細は非公開)。こうした高額のプライベートセールは、今もアート市場でゴッホの人気が高く、人生の最後の2年間に制作された作品で特にそれが顕著であることを示している。
10. 《アルピーユ近郊の野原》(1889):5200万ドル(約82億7000万円)

晩秋のフランスの田園地帯を捉えた鮮やかな筆致と情緒あふれる色彩で高く評価される《Fields near Les Alpilles(アルピーユ近郊の野原)》(1889)は、2022年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで5200万ドル(約82億7000万円)で落札された。描かれているのはサン=レミ=ド=プロヴァンスの精神療養院近くの風景で、ライラック色の山々を背に1本のアーモンドの木が麦畑の中央に立っている。その木のくっきりとした輪郭には、ゴッホが傾倒していた日本の浮世絵の影響が見て取れる。
このオークションに出される前、本作は長く個人の所有となっていた。複数の所有者の中には、ファッションデザイナーのイヴ・サンローランと、サン=レミ近郊にゴッホの名を冠した農場を持っていた彼のパートナー、ピエール・ベルジェも名を連ねている。
9. 《アイリス》(1889):5390万ドル(約85億7000万円)

1889年5月、ゴッホがサン=レミ=ド=プロヴァンスの精神療養院に自ら入院する数日前に描いた《アイリス》は、1987年11月11日にサザビーズ・ニューヨークでオークションにかけられた。4900万ドル(約77億9000万円)のハンマープライス、手数料を含めた落札総額は5390万ドル(約85億7000万円)で決着したものの、落札者だったオーストラリアの実業家アラン・ボンドは直後に企業破綻したため取引を完遂できなかった。結局この絵は、その約3年後にロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館によって取得され(金額は非公開)、現在も同美術館に収蔵されている。それ以前は、アメリカの実業家ジョーン・ホイットニー・ペイソンが所有していた。
創作意欲を取り戻しつつあった転換点を示すこの絵の大胆な色彩と流れるような筆致は、療養中のゴッホが自然の中に見出した情感と活力を反映している。満席の会場で行われ、世界中のメディアから注目されたこのオークションで、ゴッホはアート市場で最上位の人気作家としての地位を確固たるものにした。
8. 《暗雲が立ち込める風景》(1889):5400万ドル(約85億9000万円)

1889年4月にアルルで描かれた《Landscape Under a Stormy Sky(暗雲が立ち込める風景)》は、2015年11月5日にサザビーズ・ニューヨークで5400万ドル(約85億9000万円)で落札された。1888年12月に自身の耳を切り落としてから数カ月後、サン=レミ=ド=プロヴァンスの精神療養院に入院する直前に完成させたこの作品には、春の花が咲き乱れる草原が描かれ、左側には重く垂れ込めた灰色の雲の下を男女が歩いている。
ゴッホがアルルで制作した最後の風景画の1枚である本作は、1889年4月中旬の弟テオへの手紙の中で春を描いた6点の絵の1つとして言及され、7月にはパリのテオのもとへ送られている。絵の具を厚く塗り重ね、ドラマチックな筆遣いで描かれた暗雲はアルル時代の作品としては異例で、この地で彼が過ごした最後の数カ月間の困難な状況を反映しているように見える。
7. 《静物、ヒナギクとポピーを生けた花瓶》(1890):6180万ドル(約98億3000万円)

この世を去る1カ月あまり前の1890年6月に完成した《Still Life, Vase with Daisies and Poppies(静物、ヒナギクとポピーを活けた花瓶)》は、2014年にサザビーズ・ニューヨークで事前予想を1000万ドル(約16億円)以上も上回る6180万ドル(約98億3000万円)で落札された。ドラマチックで色彩豊かなこの作品は、ゴッホの主治医で美術品コレクターでもあったポール・ガシェの自宅で制作されたものだ。ゴッホは彼の家に飾られていたセザンヌの花の絵などからインスピレーションを得たのではないかと考えられている。あるいは、診療報酬の代わりとして贈られたのかもしれない。
ゴッホの存命中に販売された数少ない絵画の1つである本作は、その後ニューヨーク近代美術館(MoMA)創設者の1人であるコンガー・グッドイヤーのコレクションに加わり、別の個人コレクターを経てニューヨーク州バッファローのオルブライト=ノックス美術館(現・バッファローAKG美術館)で30年以上にわたり展示されていた。2014年にサザビーズでこの作品を手に入れたのは、花の絵を好むコレクターで、アマチュア画家でもある中国のエンターテインメント界の大物、王中軍だった。ゴッホ作品の市場の変化を感じさせたこのオークション結果は、東アジア、それも特に中国のコレクターからの需要の高まりを反映している。
6. 《アリスカンの並木道》(1888):6600万ドル(約105億円)

《アリスカンの並木道》は、友人のポール・ゴーギャンが彼のアルルの家に滞在し始めた1888年11月の作品だ。アルルの近くで古代ローマから中世まで続いた墓地、アリスカンの中央通りを鮮やかな色彩で描いたこの作品は、短い期間ではあったが2人の画家が肩を並べて制作を行っていた頃に制作された。彼らはそれぞれ異なる視点から、この場所を描いている。
長く個人蔵となっていたこの作品は、2003年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで1200万ドル(約19億円)で落札された。その後、2015年11月10日にサザビーズ・ニューヨークで再びオークションにかけられた際の落札価格は、6600万ドル(約105億円)にまで跳ね上がった。この劇的な価格上昇は、ゴッホ作品に対する需要が高止まりしていることを如実に示している。なお、サザビーズでの落札者は明らかになっていないが、中国のコレクターだとされている。
5. 《オリーブの木と糸杉に囲まれた木造の小屋》(1889):7135万ドル(約113億4000万円)

1889年にサン=レミ=ド=プロヴァンスで制作された《Wood Cabins Among the Olive Trees and Cypresses(オリーブの木と糸杉に囲まれた木造の小屋)》には、生き生きとした自然の中に立つ2軒の小屋がゴッホ特有のインパスト技法(絵の具を厚く盛り上げる手法)で描かれている。この牧歌的な景色には、精神療養院で過ごしながら精力的に絵画制作に取り組んでいたゴッホが、プロヴァンスの風景に抱いていた深い感情が見て取れる。
2021年11月11日、この作品はクリスティーズ・ニューヨークで7135万ドル(約113億4000万円)で落札され、ゴッホの風景画に対するコレクターの関心が依然として高いことを証明した。それまでの所有者は、テキサスの石油王エドウィン・コックスだった。
4. 《髭のない自画像》(1889):7150万ドル(約113億7000万円)

1889年9月にサン=レミ=ド=プロヴァンスの精神療養院で制作された本作は、数少ない髭のないゴッホの自画像の1枚。髭を剃った直後の姿は、自身の健康状態が改善したことを知らせるため、母親への贈り物として描かれた可能性がある。強烈な青緑色の背景と、真っ直ぐにこちらを見る鋭い眼差しが印象的なこの絵には、晩年の作品に特徴的な生々しい感情が宿っている。また、厚塗りされた絵の具とその筆致には、苦難続きだったこの時期にゴッホが感じていた痛みと決意の両方が表現されている。
本作は1998年11月19日にクリスティーズ・ニューヨークで7150万ドル(約113億7000万円)で落札された。それ以前はドイツの実業家ジャック・ケルファーが所有しており、めったに公開されることがなかったことで関心が高まっていた。
3. 《畑を耕す農夫》(1889):8130万ドル(約129億3000万円)

1889年9月初旬、サン=レミ=ド=プロヴァンスのサン・ポール・ド・モーゾール精神療養院で制作された《Laborer in a Field(畑を耕す農夫)》は、渦巻くような大空の下で農作業に勤しむ1人の農夫を描いたものだ。重いてんかんの発作に見舞われ、6週間以上も絵筆を取ることができなかったゴッホは、病室から見える石壁に囲まれた小麦畑を題材に、新たな活力と希望を持って制作を再開した。褐色とリズミカルな筆致は、そこに描かれた農夫の勤勉さだけでなく、創作意欲や感情面での再生に向けた画家自身の苦闘を表している。
苦難続きではあったものの、実り多い時期でもあった晩年に描かれたこの作品は、テキサス州の富裕なコレクターだったナンシー・リーとペリー・R・バス夫妻の遺産管理団体からクリスティーズ・ニューヨークのオークションに出品され、2017年11月13日に8130万ドル(約129億3000万円)で落札されている。数十年ぶりに市場に出たこの絵は、その芸術的・歴史的重要性で多数のコレクターの関心を集めた。
2. 《医師ガシェの肖像》(1890):8250万ドル(約131億2000万円)

ゴッホが死の直前にオーヴェル=シュル=オワーズで完成させた《医師ガシェの肖像》(1890)は、1990年5月16日にサザビーズ・ニューヨークで8250万ドル(約131億2000万円)で落札され、当時のオークション記録を樹立。落札した大昭和製紙名誉会長の齋藤了英は、自分が死んだらこの絵を一緒に棺桶に入れて火葬してくれと語り、大きな物議を醸した。
絵の中ではゴッホの主治医だったポール・ガシェが片手で頬杖をつき、周りにジキタリスの花や本が置かれている。その情感溢れる表現とゴッホ作品の希少性から、本作は市場に出た肖像画の中で最も多くの人々を惹きつけるものとなった。1996年の齋藤の死去後、この絵は所在不明となり、97年または98年にオーストリアの投資銀行家ヴォルフガング・フレットルに売却されたという報道もあったが、今も所有者と所在は明らかになっていない。
1. 《果樹園と糸杉》(1888):1億1720万ドル(約186億3000万円)

多作なアルル時代に描かれた《Orchard with Cypresses(果樹園と糸杉)》(1888)は、2022年11月10日にクリスティーズ・ニューヨークで1億1720万ドル(約186億3000万円)で落札され、現在まで続くゴッホのオークション最高記録を樹立した。この絵は、ねじれた枝ぶりのオリーブの木や黒々とした糸杉、その上に広がる明るい空など、生き生きとしたプロヴァンスの風景が力強い筆致で描かれている。
マイクロソフト共同創業者の故ポール・G・アレンのコレクションに入っていたこの作品は、その良好な保存状態と素晴らしい来歴が歴史的な高値につながった。(翻訳:野澤朋代)
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