NVIDIA創業者夫妻、美術大学新設に122億円を寄付。テック業界の影響力拡大に懸念も

閉校するカリフォルニア・カレッジ・オブ・ジ・アーツのキャンパスを引き継ぎ、新たな美術大学が設立される。NVIDIA創業者夫妻による122億円の寄付が計画を後押しする一方、地域の文化におけるテック業界の影響力拡大を懸念する声も上がっている。

東京で開催された富士通、ファナック、安川電機などの代表らと行われた合同記者会見に登壇したジェンスン・フアン。2026年7月16日撮影。Photo: Tomohiro Ohsumi/Getty Images
東京で開催された富士通、ファナック、安川電機などの代表らと行われた合同記者会見に登壇したジェンスン・フアン。2026年7月16日撮影。Photo: Tomohiro Ohsumi/Getty Images

今年1月、サンフランシスコのベイエリアに位置するカリフォルニア・カレッジ・オブ・ジ・アーツ(CCA)は、2つのキャンパスをテネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学に売却し、2027年に閉校すると発表した。その後、ヴァンダービルト大学は、取得したキャンパスを拠点に新設する教育機関を「ジェンスン&ロリ・フアン芸術建築大学(Jen-Hsun and Lori Huang College of Art, Architecture and Design)」と命名することを明らかにした。名称は、NVIDIAの創業者ジェンスン・フアンと妻のロリから寄せられた7500万ドル(約122億3340万円)の寄付に由来する。命名にあたり、フアンは声明で次のように述べた。

「テクノロジーは、私たちが生み出せるものの可能性を広げてくれます。そして、アートとデザインは、何のためにものをつくるのかを教えてくれます。両者が結びつくところに、文明が生まれるのです。ヴァンダービルト大学と協力して次世代のクリエイターを育て、サンフランシスコが世界有数の創造性とイノベーション、文化の中心地であり続けるための力になれることを、大変うれしく思います」

財政難にあえぐベイエリアの美術大学

1907年にバークレーで創立されたCCAは、サンフランシスコに残る最後の非営利の私立美術大学だった。ヴァンダービルト大学は声明でその119年の歴史を称えるとともに、CCA研究所を新たに設立すると発表している。同研究所は、CCAに付属していたワティス現代美術研究所を引き継ぎ、CCAのアーカイブを管理する予定だ。また、卒業生やベイエリアのクリエイティブ・コミュニティを対象としたイベントを企画するほか、アーティストや建築家、デザイナー、キュレーターなどに向けたレジデンシーやフェローシップの運営も担うという。ヴァンダービルト大学は現在、新設する芸術建築大学を率いる初代学部長を募集している

CCAは長年にわたって赤字が続いており、地元紙サンフランシスコ・クロニクルの推計によれば、累積赤字は約2000万ドル(現在の為替で約32億6140万円)に上っていたという。今年初めに発表した声明で、学長のデイヴィッド・ハウズは、閉校と売却に至った理由として、入学者数の減少、学費収入への依存度が高い持続不可能な運営モデル、人口動態の変化を挙げている。また、地元メディアKQEDによれば、昨秋の時点でCCAに在籍していたのは学部生207人と大学院生117人で、2027年の体制移行までに卒業を見込む学生は500人を下回るという。2025年3月には、50人以上の寄付者が集めた2250万ドル(同約36億6900万円)に加え、フアンが同額を寄付したことで、財政難は一時的に緩和された。

NVIDIA創業者の寄付で進む大学拡張

台湾出身のフアンは、サンタクララに本社を置く半導体大手、NVIDIAの創業者で、社長兼CEOを務めている。フォーブスの推計によれば、フアンの純資産は1789億ドル(約29兆1687億円)に達し、2026年7月時点の世界長者番付で7位に入っている。近年は高等教育機関への多額の支援も行っており、2008年にはスタンフォード大学工学部に3000万ドル(現在の為替で約48億9000万円)を、2022年には自身の名を冠したオレゴン州立大学の研究センターに5000万ドル(同約81億5000万円)を寄付した。

ヴァンダービルト大学は、フアン夫妻からの7500万ドルの寄付に加え、カリフォルニア拠点の設立に向けて2500万ドル超(約40億7600万円)の資金を調達した。規制当局の承認を経て2027年秋に開設される予定の同拠点は、ヴァンダービルト大学が各地で進める拡張計画の一つだ。同大学はこのほか、ニューヨーク市やフロリダ州ウェストパームビーチでのキャンパス新設、テネシー州チャタヌーガでの量子コンピューティング研究所の設立も計画している。

ベイエリアの美術大学が相次いで財政難に陥るなか、シリコンバレーの企業や資産家は、支援者や買収主体として地域の文化シーンで存在感を高めている。CCAと同様に、赤字と入学者数の減少に直面していたサンフランシスコ・アート・インスティテュートは、破産を申請したのち、2022年に閉校した。同校のキャンパスには、5000万ドル(当時の為替で約72億円)の価値があるとされるディエゴ・リベラの壁画が残されていたため、その行方にも注目が集まった。閉校から2年後、旧キャンパスは故スティーブ・ジョブズの妻、ロリーン・パウエル・ジョブズが率いる非営利団体エマーソン・コレクティヴに買収され、現在は「カリフォルニア・アカデミー・オブ・スタジオ・アーツ」として再出発する計画が進められている。

テック業界がアート界に及ぼす影響への懸念

サンフランシスコ市長のダニエル・ルーリーは、CCAのヴァンダービルト大学への売却を「市にとって大切な日」と語っている。しかし、ベイエリアのアート界におけるビッグ・テックの影響力拡大に対して、地元のクリエイティブ・コミュニティが諸手を挙げて賛同しているわけではない。

1993年にギャラリー16を設立し、以来ベイエリアで運営を続けてきたグリフ・ウィリアムズは、1月にサンフランシスコ・クロニクル紙へ寄せた記事で、「私の身の回りの人々は、CCAの閉校を知り、深い悲しみに包まれました」と記している。ウィリアムズによれば、近年は同ギャラリーにベンチャーキャピタル業界からも関心が寄せられるようになったという。そのうえで、市の予算に「手頃な価格の住宅と芸術支援」を盛り込むよう求め、次のように主張している。

「現在のサンフランシスコに必要なのは、アートビジネスだけでなく、私たちのアートコミュニティを構成する人々に対する、即効性があり、有意義で、長期的な支援なのです」(翻訳:編集部)

from ARTnews

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