METは「ガリアーノ展」ではなく「メットガラ」を中止すべきだった──展覧会中止で広がる議論
メトロポリタン美術館(MET)が、来春に予定していたジョン・ガリアーノ展を中止するというニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。過去の差別的発言への批判を受けての展覧会中止について、各メディアはファッション評論家のさまざまな論評を掲載している。

8月31日、ニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)は、2027年春に予定していたジョン・ガリアーノ展の中止を発表した。同展は、コスチューム・インスティテュートの春季大型展として、恒例のチャリティイベント「メットガラ」と連動して開催される予定だった。
開催発表当初から物議
ファッション評論家のロビン・ギヴァンは、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿記事で「展覧会は中止されるべきではなかった。中止すべきはメットガラのほうだ」と記している。彼女はまた、難しいテーマに向き合うことが美術館の役割だとし、ガリアーノの展覧会は「人間が抱える矛盾や、ヘイトの感情が見えないところに潜んでいることを私たちが理解する一助となったのではないか」と論じた。
ギヴァンはさらに、「奴隷制支持者や人種差別主義者が称賛される場面なら、わざわざ想像するまでもない」と付け加えている。なぜなら、彼らは今もなお各地で称えられているからだ。
「周りを見渡してほしい。公共の広場では、いまだにトーマス・ジェファーソン(*1)やウッドロー・ウィルソン(*2)、ロバート・E・リー(*3)など、黒人を貶めた人物たちを讃える像があちこちに見られる」
*1 アメリカ合衆国第3代大統領。独立宣言を起草した建国の父の1人として知られるが、奴隷所有者でもあった。
*2 アメリカ合衆国第28代大統領。連邦政府機関での人種隔離政策を導入・推進した。
*3 南北戦争で奴隷制維持のために戦った南部連合の司令官。
2027年にMETで行われる予定だったガリアーノ展は、開催発表当初から物議を醸していた。彼が10年以上前に繰り返していた反ユダヤ主義的・反アジア的な発言や、2011年にフランスで人種や宗教などに基づく公然侮辱罪の有罪判決を受けた事実を問題視する向きが少なくなかったからだ。

ガリアーノの「再起」を支えたウィンターにも批判
批判されているのはガリアーノだけではない。彼の長年の友人であり、VOGUEのグローバル・エディトリアル・ディレクターであるアナ・ウィンターにも厳しい目が向けられている。彼女は展覧会の中止を受け、次のような声明を出した。
「自身の作品を集めた展覧会を現時点で開くべきではないというジョンの決断は非常に勇気あるもので、彼の人となりを表していると思います」
ウィンターは、ガリアーノがディオールを解雇された後、その再起に大きな役割を果たした。彼女の尽力もあり、彼は2013年にオスカー・デ・ラ・レンタとの仕事でデザイナーとして復帰。2014年にはメゾン マルジェラのアーティスティック・ディレクターに就任し、同ブランドでのコレクションは批評家から高く評価された。また、ケヴィン・マクドナルド監督による2023年のドキュメンタリー映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー(原題:High & Low – John Galliano)』には、コンデナスト・エンターテインメント(*4)が共同制作会社として名を連ねている。
*4 ヴォーグ誌の発行元であるコンデナスト社の映像制作・配給部門会社。
英デイリー・テレグラフ紙のファッション部門を率いるリサ・アームストロングは、「アナ・ウィンターがガリアーノ救済を試みるも、悪手だったMETの展覧会」というタイトルの論説記事を書いた。その中で、「多くのユダヤ人たちは、ガリアーノ作品が美術館に並ぶ日がいつか来ることは受け入れていた」が、今の政治情勢の下では「適切ではない」と記している。
「展示」と「祝祭」は同じなのか
近年、メットガラは批判されることが多かった。前出のギヴァンは、「ウィンターはゲストがヴィンテージのガリアーノを着て来ることを期待していたのだろうか? それとも、ディオール時代のガリアーノがショーの最後で喝采を浴びるときに着ていたような、海賊などの奇抜な衣装で現れることを? 彼女はサーカスを開きたかったのだろうか」とニューヨーク・タイムズ紙の論説で問いかけた。
さらに、今年こそ「いわゆる『年間最大のパーティ』について再考する絶好のタイミングだったはずだ。このイベントは、ガザでの戦争や、影響力を拡大するアメリカの億万長者たちへの抗議の場となっており、ガリアーノに対する抗議も間違いなく起きただろう」と書いている。
ギヴァンはさらに、雑誌の発行部数が減少する中、ウィンターが自身のレガシーを築く場として芸術分野へと進出してきたと指摘。メットガラを、彼女が年に一度「服飾芸術の救世主」として君臨できる「バッキンガム宮殿」のような場所だと評している。
英タイムズ紙のファッションエディター、ハリエット・ウォーカーは自身の記事で「アナ・ウィンターの言葉はかつてほど絶対的なものでなくなっているようだ」と書いている。また、ガリアーノのドキュメンタリー映画を監督したマクドナルドに2024年に取材し、ウィンターがなぜガリアーノを救うことにしたのか、彼の考えを聞いたという。監督の答えはこうだった。
「ジョンのために彼女が自身の政治力を行使しようと決めたことについて、私はいつも不可解だと思っていました。彼は確かに素晴らしい才能の持ち主ですが、それ以外に彼女が自分自身や会社を危険にさらす理由が見当たらないのです」
英タイムズ紙に掲載された別の論説記事では、アリザ・リヒトがこう書いている。
「ファッション業界でマーケティングの専門家として働く私にとって、ウィンターが自分ではなくガリアーノに批判の矛先が向くよう仕組んだのだとしても驚きはない。彼らの公式声明を見れば明らかだ」
とはいえ、依然としてガリアーノ展の実現を望む声は多い。俳優でモデルのハリ・ネフはX(旧ツイッター)への投稿で、2012年のメットガラのテーマと展覧会タイトルになった「スキャパレリとプラダ:不可能な対話(Schiaparelli and Prada: Impossible Conversations)」を思い出したと述べ、こう続けた。
「ガリアーノのデザイナーとしての功績と、彼の過去の発言を切り離すのは難しいかもしれません。でも本当にそれは『不可能』なのでしょうか? 実現すればきっとクールで興味深いものになったはず!! そして、もちろん美しいものに」(翻訳:野澤朋代)
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