フランク・ロイド・ライト名住宅に「放置による取り壊し」の危機──野生動物も出入りする深刻な荒廃

フランク・ロイド・ライト(1867-1959)が設計した、ロサンゼルス唯一のユーソニアン住宅「スタージス邸」。約10年前に保存目的で非営利団体が取得したものの、長年にわたる維持管理不足で荒廃が進み、「放置による取り壊し」の危機に瀕している。

荒廃が進むスタージス邸。Photo: Instagram/socal_landmarks

フランク・ロイド・ライトが設計した、ロサンゼルスに現存する唯一のユーソニアン住宅「スタージス邸」が、「放置による取り壊し」の危機に瀕している。domusが伝えた。

スタージス邸は、「落水荘」として知られるカウフマン邸の完成から2年後の1939年、航空機メーカーのロッキードで技師を務めていたジョージ・スタージスと妻セルマのために建てられた。建物は、ライトが提唱したユーソニアン様式に基づいている。ユーソニアン住宅とは、世界恐慌後の中産階級に向けて考案された、簡素で経済的な住宅形式だ。同邸にも、約110平方メートルという比較的小規模な床面積、自然素材や地元産資材の使用、母屋とは別に設けられたカーポート、大型の暖炉といった特徴が見られる。

「落水荘」の技術を受け継いだ中産階級向け住宅

この住宅を象徴するのが、渓谷に向かって張り出す長さ約6.4メートルの片持ち式テラスだ。テラスを支える構造梁は、建物や周囲の景観になじむよう木材で覆われている。

落水荘をはじめとする多くの建築と同様、スタージス邸にも、敷地の地形と調和する建物を生み出すライトの卓越した手腕が表れている。とりわけこの土地は、建設が困難なほど急峻だった。渓谷を望むテラスは、そうした難題に対するライトの回答だった。

敷地は建築に不向きだと考えられていたため、スタージス夫妻はわずか10ドル(現在の為替で約1600円・以下同)で購入できたという。ライトは建築家ジョン・ロートナーに施工監理を任せ、建物は1939年に完成。夫妻は1951年までここで暮らした。

その後の15年間に3人の所有者を経て、1967年、テレビドラマ『スーパーマンの冒険』への出演で知られる俳優ジャック・ラーソンと、映画監督ジェームズ・ブリッジズが、ライトのデザインによる家具とともに購入した。美術品コレクターでもあった2人は、同邸をロサンゼルスの文化人が集う場所とした。ブリッジズが死去した1993年には、スタージス邸がロサンゼルス市歴史文化記念物に指定されている。

現在のスタージス邸の様子。Photo: Instagram/socal_landmarks
現在のスタージス邸の様子。Photo: Instagram/socal_landmarks
現在のスタージス邸の様子。Photo: Instagram/socal_landmarks

保存目的で取得されるも進む荒廃

ラーソンが2015年に死去した後、邸宅は売りに出された。世界各地から問い合わせが殺到したものの、購入後に修復を担える適格な入札希望者が現れず、いったん売却が取り下げられた。

その後、2016年12月、建物の保存と教育目的での活用を掲げるカリフォルニア州の非営利団体オール・ライト・ナウ財団が、185万ドル(約2億9600万円)で取得した。

しかし、取得から約10年が経過した現在も、保存と活用はほとんど進んでいない。歴史的建造物の保存団体ロサンゼルス・コンサーバンシーとフランク・ロイド・ライト建築保存協会は、修復・維持管理計画について所有者側へ繰り返し働きかけてきたが、十分な協力を得られなかったという。

その間にも、スタージス邸の劣化は進んだ。象徴的な片持ち部分では、外装に使われたレッドウッドの一部が腐食。外壁には隙間が生じ、内部構造が風雨にさらされることで、さらなる損傷が懸念されている。カーポートにもゆがみが見られ、木製の柱も傷んでいる。

フランク・ロイド・ライト建築保存協会のディレクター、バーバラ・ゴードンはアートネットの取材に対し、近隣住民から近年、野生動物が邸内に入り込む様子を目撃したとの報告が寄せられていると明かした。

迫る「長期的な放置」による取り壊しの危機

こうした事態を受け、ロサンゼルス市建築安全局は2026年7月1日、所有者に建築基準違反通知を出した。通知では、30日以内に違反を是正するか、そのための計画を提出するよう求めている。

スタージス邸が直面しているのが、「デモリション・バイ・ネグレクト(放置による取り壊し)」と呼ばれる事態だ。歴史的建造物の維持管理を怠り、修復不能な損傷や構造上の危険が生じるまで劣化させることを指す。その段階に達すれば、安全上の理由から取り壊しが認められる可能性がある。

スタージス邸は1993年にロサンゼルス市歴史文化記念物に指定されたものの、この指定だけでは、長期的な放置による取り壊しを防げない恐れがある。

今回の問題は、ロサンゼルスにおける建築遺産保護制度の弱点も浮き彫りにした。同市には「放置による取り壊し」を直接禁じる条例がなく、深刻な劣化に至る前に、歴史的建造物の所有者へ維持管理を義務づける手段も限られている。

ロサンゼルス・コンサーバンシーは、スタージス邸を「2026 L.A.ウォッチリスト」の最優先案件に選び、行政機関や市民に行動を呼びかけている。ライトがカリフォルニアに残した最もユニークな住宅のひとつは今、早急な修復を必要としている。

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