フランク・ロイド・ライトの傑作「落水荘」、11億円の大規模修復が完了へ──「不確かな未来」に対応

フランク・ロイド・ライト(1867–1959)の代表作「落水荘」の3年に及ぶ大規模修復・保護プロジェクトが、今年4月に完了見込みだ。約700万ドル(約11億円)を投じたこの修復は、同邸の構造的欠陥や「不確かな未来」に対応する重要な取り組みだ。

アメリカ・ピッツバーグ近郊にある、フランク・ロイド・ライト設計の落水荘。2014年撮影。Photo: Chris Melzer/picture alliance via Getty Images

フランク・ロイド・ライトによる名建築「落水荘」で、3年間にわたり総額約700万ドル(約11億円)を投じて行われてきた修復・保護プロジェクトが、今年4月に終了する見込みだとアートニュースペーパーが報じた。

アメリカ・ペンシルベニア州の森の中、ベア・ラン川の約9メートルの滝の上に建てられた「落水荘」は、ピッツバーグの百貨店王エドガー・J・カウフマンとその家族の週末用別荘として1939年に完成した。建設開始直前にライトが「滝を単に眺めるのではなく、滝と共に生き、それを生活の不可欠な一部としてほしい」とカウフマンに書き送った通り、同邸は自然との一体化を強く意識して設計されている。大きな窓を備え、滝の上に浮かぶように大きく張り出した大胆なカンチレバー構造のテラスを持つほか、川原の小石を混ぜたコンクリートや岩盤をそのまま利用した床など、その場所に存在する素材が積極的に用いられている。こうした設計により、滝の音や湿度、風景が生活空間に取り込まれる「自然と共に生きる住宅」という理念が徹底されている。

落水荘が抱える重大な構造的欠陥

同邸はその革新性から20世紀建築を代表する傑作とされ、2019年にはユネスコ世界遺産に登録された。しかしその一方で、コンセプトに由来する重大な構造的欠陥を抱えていた。西ペンシルベニア自然保護協会(WPC)の副代表であり落水荘の館長でもあるジャスティン・ガンサーはアートニュースペーパーの取材に対し、「ライトは滝の上に張り出したカンチレバー部分に十分な鉄筋を入れなかったため、型枠を外した途端に建物はたわみ始めたのです」と説明する。ライトはそれを自然な現象だとカウフマン家に説明していたが、実際には建物は初期から崩壊の恐れを抱えていた。さらに、外壁と屋根の接合部に本来設けられる防水処理(フラッシング)がなかったことなどから、水が壁の内部に浸透し、時には居住空間にまで流れ込んだ。1956年の激しい嵐の際には、増水したベア・ラン川がリビングルームに流入し、室内にいたカウフマン一家は無事であったものの、貴重な美術品に大きな被害が生じた

足場が組まれた落水荘。Photo: Instagram/visitfallingwater
落水荘修復の様子。Photo: Instagram/visitfallingwater

建設から約90年を経た現在も屋根や壁などからの漏水の問題が続いているが、長年の保存活動によって建物は維持されてきた。今回の大規模プロジェクトでは、ライトによる構造的欠陥を補いながら、不確実な未来から建物を守ることが目指されている。その中心的な方針の一つが、気候変動への適応だ。ガンサーは「防水システムを全面的に更新し、建物の密閉性を高め、将来にわたる長期的保存を確実にする時期だと判断しました」と語る。

「可能な限り良好な状態で管理する責務」

本プロジェクトでは、約20年ぶりに建物全体を足場で覆い、大規模な修復が行われた。外観上の美的変更は一切加えられず、屋根、外壁、テラス、窓、扉といった主要部分が修復の対象となった。保存チームは、塗装にあたって当時の塗料をもとに色を再現し、カウフマン家が生活していた状態を維持することに最大限努めた。

また今回は、地中レーダーや内視鏡などの技術が石壁内部の空隙の位置や大きさ、形状の把握に活用された。さらにスマートフォンのレーザースキャンアプリも、壁厚を迅速に測定する手段として用いられた。修復にあたって最も大きな発見の一つは、石壁内部が想像以上に空洞化しており、水が溜まり得る状態にあったことだ。また、ゲストハウスとボイラー室の繋ぎに防水されていない床スラブが存在したことも判明した。多数の亀裂が入った壁には、新技術である液体グラウト注入が採用され、約12トン分が充填された。

ガンサーは、50年後、100年後には気候変動によって周囲の森の植生が変わり、滝そのものが失われる可能性に言及した。しかし、意図を持って積み重ねられる小さな行為こそが、こうした実存的脅威を和らげるとし、次のように語る。

「常に建物の静的な状態を維持しようとする。それが私たちの基本姿勢です。時間の経過とともに、自然は建築に独自の風合いをもたらしますが、この建築を可能な限り良好な状態で管理し、最善の保存手法と基準を用いてできる限り長く維持することが私たちの責務なのです」

落水荘には年間約14万人が訪れる。ガンサーは、落水荘が今後も本来の役割を果たし続けることを望んでいると話し、こう続けた。

「落水荘を写真で見ることはできますが、実際に訪れて初めてその影響力を理解できます。視覚だけでなく、森の香りを感じるなど、あらゆる感覚が喚起され、それが自然との結びつきを一層強めるのです」

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