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草間彌生が過去の著作の人種差別発言を謝罪。「私が引き起こした痛みについてお詫びする」

草間彌生は、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)での個展開幕を目前に控えた10月13日、2003年の自伝『Infinity Net(邦題:無限の網──草間彌生自伝)』を含むいくつかの著作で、黒人差別的な表現をしていたことについて言及した。

デイヴィッド・ツヴィルナーで開催された展覧会での草間彌生。2013年11月7日撮影。Photo: Andrew Toth/Getty Images

2003年に出版された自伝の表現が問題に

2003年に出版された草間彌生の自伝『Infinity Net』の日本語版、『無限の網──草間彌生自伝』では、草間は黒人の身体や性的な事柄に対して、蔑視するような言葉で表現している。その中には、アーティストが自身のパフォーマンス・アートに裸の黒人を起用した際の回想の生々しい描写、彼女がかつて住んでいたニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジの一帯が、「黒人が撃ち合いを」しているために不動産価格が下落し、「スラム街」になってしまったことを嘆く言葉も含まれている。このセリフは、英訳版では削除されている。

10月12日、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニスト、ソレイユ・ホーが、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で草間の展覧会を開催することについて批判した。これに対してクリストファー・ベッドフォード館長は「SFMOMAは、これらおよびすべての反黒人感情には断固反対します」とメールで答えている。

その翌日の10月13日、草間彌生はサンフランシスコ・クロニクル紙の独占取材で、その件についてこう話した。

「私の本の中で、傷つけるような攻撃的な言葉を使ったことを深く反省しています。私は常に、愛、希望、思いやり、そしてすべての人への尊敬を作品に込めてきました。私の生涯の意図は、芸術を通して人間性を高めることです。私が引き起こした痛みについてお詫びします」

以前から『Infinity Net』での表現は問題視されていた。日本語が堪能で、フルブライト奨学生として早稲田大学に1年間留学し、東京の草間彌生美術館オープン時に、草間にインタビューを行ったジャーナリストのデクスター・トーマスが、2017年のVice誌、2023年初めのウェブメディアHyperallergicで、草間が使用した軽蔑的な言葉を取り上げている。

トーマスは、草間の1984年の短編小説『The Hustler’s Grotto of Christopher Street 』でも、黒人の登場人物の匂いと性的な表現に関する「グロテスクで覗き見主義的な描写」が描かれており、この扱いは物語の白人登場人物には適用されていないと指摘した。1971年の戯曲『Tokyo Lee』でも、黒人の登場人物を差別的な言葉で表現しているという。

美術館側は予定通り展覧会を開催。「アーティストを紹介する意味を問い直すきっかけに」

サンフランシスコ美術館(SFMOMA)のベッドフォード館長は、サンフランシスコ・クロニクル紙の電話インタビューで、草間彌生の展覧会を予定通り開催することについて、「私たちはこの瞬間を、美術館でアーティストを紹介することの意味をより広く問い直すきっかけにすることができるでしょう。SFMOMAにとって、これはとてつもないリーダーシップの機会だと思います」と語った。

また、ベッドフォードは「多くの意味で、草間彌生自身が発表した声明は、私たちがこの分野のリーダーとなり、作者の複雑さと芸術的表現の関係について考えるための扉を開いてくれました」ともコメントする。

この展覧会はSFMOMAのチーフ・エデュケーション&コミュニティ・エンゲージメント・オフィサーのガミン・ギヨットが主導するもので、彼女が2023年6月にSFMOMAに着任して以来、計画が進められてきたという。

今年94歳になる現代美術家、草間彌生は、小説や自伝のほか、インスタレーション、彫刻、パフォーマンス・アート、映画、詩など様々な手法で表現してきた。特に有名なのは、自撮りを誘う鏡張りの「インフィニティ・ルーム」シリーズや、水玉模様の作品だ。

2023年は、彼女にとって特に忙しい年だった。1月には、草間とルイ・ヴィトンとの2度目のコラボレーションが大々的なキャンペーンを展開。草間をモデルにしたアニマトロニック・ロボットなど、彼女の作品にちなんだ装飾が施された店舗がいくつも登場した。

3月、ハーシュホーン美術館・彫刻ギャラリーでは草間作品の展覧会が開催され、7月16日まで会期延長した。4月には香港のサザビーズが彼女の作品が一晩のオークションで2300万ドル(約34億4000万円)で落札され、香港のM+で開催した大回顧展のチケット1万枚が地元の学生たちにプレゼントされた

5月には、デイヴィッド・ツヴィルナーがニューヨークの3つのスペースで彼女の大規模な個展を開催し、たちまち長蛇の列ができた。7月には、ブラジルのブルマディーニョにある彫刻公園兼美術館、インスティトゥート・インホティムに草間作品の常設ギャラリーがオープンしている。

精神を患う草間は1977年以来、東京の病院で暮らしている。彼女はまた、『Infinity Net』の中で、病気との長期的な闘いについて、「私は毎日、痛み、不安、恐怖と戦っています。病気を和らげる唯一の方法は、アートを創り続けることです」と書いている。

草間彌生の北カリフォルニアにおける初の個展「Infinite Love」は、2024年9月7日までSFMOMAで開催されている。クロニクル紙によると、同展はすでに11月分までチケットが完売しているという。US版ARTnewsはSFMOMAとトーマスにコメントを要請したが、返事はまだ来ていない。(翻訳:編集部)

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