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「芸術は人生の危機を乗り越える命綱」──香港のM+、草間彌生展のチケット1万枚を地元の学生にプレゼント

香港の美術館、M+が、現在同館で開催中の草間彌生の大回顧展「Yayoi Kusama: 1945 to Now」のチケット1万枚を地元の学生にプレゼントする。これは、同館が開始したメンタルヘルスプログラムの一環で、ほかにも自分の感情をアート制作を通じて表現するワークショップなども開催される。

香港のM+で開催中の「Yayoi Kusama: 1945 to Now」展で、《infinity room》で自撮りする来館者たち。Photo: Li Zhihua/China News Service via Getty Images

草間彌生は、数少ないインタビューの中で、「芸術は人生の危機を乗り越えるための命綱である」と語っている。幼少期から幻覚や幻聴に悩まされた草間は、複雑で、ときに見るものを圧倒する抽象画で世界的に知られることとなったが、それらは彼女の内に秘められた途方もない苦悩の荒々しい表出とも言える。

香港の美術館、M+は、「彼女の作品に同じような慰めを見出すことができるのではないか」という思いから、現在、同館で開催中の大人気回顧展「Yayoi Kusama: 1945 to Now」のチケット1万枚を地元の学生らに配布するプロジェクトを開始した。これは、メンタルヘルス支援活動を行う政府主導の「Shall We Talk」との提携による「Shall We Talk at M+」プログラムの一環で、精神的な問題を表現するためのワークショップも開催する。

「わたしたちはセラピストではないので、必ずしも誰かを助けることはできないかもしれません。しかし、あなた自身の感情表現と経験とを結びつけるサポートはできます」

こう語るのは、M+の学習・解説担当ヘッドキュレーター、ケリー・ライアンだ。ライアンは、「私たちは、アートを制作したりこの展覧会を見ることを通じて、人々がより安心して自分自身を表現できるよう支援することはできると思います」と続ける。

絵画やドローイング、彫刻、インスタレーションなど200点以上の草間作品を紹介する本展は、日本以外のアジアで開催される草間彌生展としては最大規模。第二次世界大戦中、草間がまだ10代だったときに描いたドローイングから、最新の没入型作品《Infinity Rooms》まで、時系列で展示している。

「Shall We Talk at M+」プログラムではそのほかにも、学生を対象に、展示物との対話を促すガイド付きツアーを実施するほか、参加者が自身の感情をアート作品を通じて表現することを促す一連のワークショップも開催している。

本展の中でも特に注目すべきは、草間が約70年前に制作を開始した自画像のセクションだ。ワークショップは、受講者たちがこれらの作品に対峙しながら、自己イメージが経験によってどのように安定し得るのか、しかり決して真の意味で変化することはないかもしれない、というようなことをテーマにしている。

「ワークショップでは、自分の気持ちを“話す”のではなく、色や形を通して表現することが大切です。完璧な作品をつくることではなく、創作のプロセスこそが重要なのです」と、ライアンはその意義を語る。

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