詩人・菅原敏が詩で拡張する名画の世界──歌川国芳《相馬の古内裏》【Poetry & Painting Vol.8】

詩人・菅原敏が毎回異なる絵画を一点選び、その作品のために一編の詩を詠む「Poetry & Painting」。第8回は、歌川国芳による浮世絵《相馬の古内裏》。菅原自身による朗読と合わせてお届けする。

 
 
 
ばらばらと

骨が砕けて

雨になる

 

世間のあらゆる声から

わたしたちを守るように

この日々を支えた背骨は

名も知らぬ男の

やいばによって

まっぷたつ

 

大きな骨が降り注ぐ

わたしは弟を庇い

目を閉じるその刹那

 

我が父の

首と体 

それぞれ遠く離れた地に埋められていても

土の中では

つながっていたことを知る

 

しんしんと

骨が積もって

雪になる

 

どくろのまなこに

何が映っているのか

時代の波に流され

生かされているだけの

あなたたちには

わからないでしょう

 

父は

首を落とされてもなお

民を見ていた

 

砕け散っても甦り

やがて船の竜骨となる

骸骨の船は

夜の海を渡り

船首に掲げた

どくろが

闇を照らし

かならずや

やがて船の竜骨となる

 

 

歌川国芳《相馬の古内裏》は、江戸後期に流行した読本『善知安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)』をもとに描かれた浮世絵。相馬とは現在の茨城と千葉にまたがる平将門ゆかりの地であり、将門の娘・滝夜叉姫が、父の無念を晴らすため妖術を操り、廃墟となった屋敷(古内裏)に巨大な骸骨を呼び出し、源頼信の家臣とされる大宅太郎光圀(おおやたろうみつくに)に対峙する場面が描かれている。その異様な姿は、恐ろしさと同時に、どこか哀しみを帯びている。

物語の原作を書いたのは戯作者の山東京伝。この原作は未完に終わり、その結末は語られることはなかった。原作では複数の骸骨が現れるところを、国芳はあえて一体の巨大な骸骨として描いた。その骨の大きさは、死者の身体というより、滅びた一族、歴史の底に沈んだ記憶そのもののようにも見える。骸骨の傍らには滝夜叉姫の弟とされる少年の姿も描かれ、父を失った者たちの悲しみが、この幻想的な場面の奥に流れている。

平将門は平安時代中期、朝廷に対して関東で挙兵し、自ら「新皇」と名乗った。朝廷から見れば反逆者であった一方、東国の人々を守ろうとした英雄として語られることもあり、その評価は時代によって揺れ動いてきた。討たれた後、京都で晒された首が故郷を求めて関東へ飛び去ったという伝説は、やがて将門の祟りの物語を生み出していく。

現在も東京都千代田区に残る将門の首塚には、花を手向け、手を合わせる人が絶えない。人々が将門を恐れるだけでなく、敬い続けてきた証でもある。関東大震災後や戦後の再開発、GHQによる接収計画の際にも、関係者の事故や死が重なったという逸話が多数残されている。《相馬の古内裏》で描かれた巨大な骸骨は、ただの妖ではないのかもしれない。失われた命、消えた一族、歴史の中で声を失った者たち。その記憶が骨となって立ち上がり、今も私たちの前に現れる。国芳が描いたのは、死そのものではなく、忘れられてしまうことへの抵抗だったのではないだろうか。

歌川国芳《相馬の古内裏》1845~46年頃、千葉市美術館など所蔵

歌川国芳(1797-1861)は、江戸時代後期を代表する浮世絵師。初代歌川豊国に入門し、役者絵や美人画などから画業を始めたが、中国古典『水滸伝』を題材にした武者絵で人気を博した。その後も歴史画、風景画、風刺画、美人画など幅広いジャンルを手がけ、豊かな想像力と卓越した描写力で、浮世絵の表現を大きく押し広げた。歌川広重と並び、幕末を代表する浮世絵師の一人として知られる。猫をはじめとする動物への深い愛情でも知られ、遊び心あふれる作品も数多く残した。一方で、天保の改革による出版統制の時代には、風刺や寓意を巧みに織り込み、社会を映す絵師としての一面も見せた。《相馬の古内裏》では、原作に登場する複数の骸骨を、画面いっぱいを覆う一体の巨大な骸骨へと大胆に置き換え、怪異と悲哀、物語性を兼ね備えた国芳芸術を象徴する代表作を生み出した。その自由な想像力と革新性は、現在も国内外で高く評価されている。

菅原敏(すがわら・びん)
詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』 をリリース。執筆活動を軸に、毎夜一編の詩を街に注ぐラジオ番組「at home QUIET POETRY」(J-WAVE)、Superflyや合唱曲への歌詞提供、ボッテガ・ヴェネタやゲランなど国内外ブランドとのコラボレーション、欧米やロシアでの朗読公演など幅広く詩を表現。現代美術家との協業も多数。近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)、最新詩集『珈琲夜船』(雷鳥社)。東京藝術大学 非常勤講師。
https://www.instagram.com/sugawarabin/

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