藤田嗣治の単独オークションが香港で開催──予想落札総額は15点で5億円超、アジアで根強い需要

エコール・ド・パリを代表する画家、藤田嗣治(1886-1968)の作品15点が、9月28日にサザビーズ香港で競売にかけられる。同社がアジアで開催する初の単独作家オークションで、落札予想総額は最大2650万香港ドル(約5億4000万円)に上る。

壁に掛けられる藤田嗣治《夢──ラ・フォンテーヌへのオマージュ》(1949)Photo: courtesy of Sotheby’s.

エコール・ド・パリを代表する画家、藤田嗣治の作品に特化したオークションが、9月28日にサザビーズ・香港で開催される。アートネットが伝えた。

「The Foujita Lexicon: Works from the Lewis Collection」と題された今回のオークションには、イギリス人実業家でアートコレクターのジョー・ルイスと、娘のヴィヴィアン・ルイスが1992年から2017年にかけて収集した藤田作品15点が出品される。

イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーの元オーナーとしても知られるジョー・ルイスは、世界有数の美術コレクターでもある。6月24日にサザビーズ・ロンドンで開催されたルイス・コレクションのオークションは、落札総額3億660万ポンド(現在の為替レートで約660億円、以下同)に達し、イギリスで行われた単一所有者コレクションの競売として史上最高額を記録した。

著名コレクター所蔵の藤田作品15点が出品

サザビーズがアジアで単独作家に特化したオークションを開くのは、今回が初めて。予想落札総額は1780万~2650万香港ドル(約3億6000万~5億4000万円)に上る。

藤田は1910年、東京美術学校(現・東京藝術大学美術学部)西洋画科を卒業後、フランスへ渡った。1920年代のパリで、アメデオ・モディリアーニパブロ・ピカソらと親交を結び、日本画を思わせる繊細な線描と西洋絵画の技法を融合させた独自の画風を確立。乳白色の肌で表現した裸婦や猫の絵で名声を得て、エコール・ド・パリを代表する画家のひとりとなった。晩年にはフランス国籍を取得し、レオナール・フジタと名乗った。

今回出品される水彩画や油彩画、素描は、藤田がフランスで活動していた1920年代から、第2次世界大戦後の1950年代に同国へ戻るまでの画業をたどるものだ。戦時中に日本軍の従軍画家として戦争画を制作し、戦後に批判を受けた時期を挟みながら、藤田はこの間に約1万点の作品を手がけたという。

ルイス親子が1992年に初めて購入した藤田作品《眠るマドレーヌ(Madeleine endormie)》(1933)も出品される。ペンとインク、水彩で描かれた同作の予想落札価格は、30万~50万香港ドル(約610万~1020万円)。この作品をきっかけに、2人は藤田に長年にわたる関心を寄せるようになった。

「最高傑作」と評される作品も

最高額が見込まれるのは、巣穴の中で身を寄せ合って眠るキツネの家族を、油彩とインクで細密に描いた《夢──ラ・フォンテーヌへのオマージュ(Le rêve──Hommage à La Fontaine)》(1949)だ。藤田が2度目にニューヨークへ滞在した際に制作した作品で、戦後、国際的な評価を取り戻そうとしていた時期にあたる。予想落札価格は400万~600万香港ドル(約8130万~1億2200万円)となっている。

藤田嗣治《眠っているマドレーヌ》(1933)Photo: courtesy of Sotheby’s.
《夢──ラ・フォンテーヌへのオマージュ》(1949)Photo: courtesy of Sotheby’s.
《自画像》(1924)Photo: courtesy of Sotheby’s.
《テーブルの上でうたた寝する少年》(1927)、予想落札価格:200万~300万香港ドル(約4070万~6100万円)Photo: courtesy of Sotheby’s.
《母猫と子猫》(1932)、予想落札価格:200万~300万香港ドル(約4070万~6100万円)。Photo: courtesy of Sotheby’s.
藤田嗣治。Photo: courtesy of Sotheby’s.

サザビーズ・アジアで近現代美術部門会長を務めるエヴリン・リンは、アートネットの取材に対し、同作は「現在も個人の手に残る藤田作品のなかで、最高傑作と広く評価されています」と説明した。

同作は、動物を主人公とする寓話で知られるフランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌへのオマージュとして制作された、4点からなるシリーズのひとつ。このうち2点は、それぞれポーラ美術館東京国立近代美術館に収蔵されている。

シリーズのもう1点にあたる《誕生日(La fête d’anniversaire)》(1949)は、2018年にロンドンのボナムズで709万ポンド(約15億5000万円)で落札された。これは現在も、藤田作品のオークション最高記録となっている。

藤田のトレードマークである、おかっぱ頭と丸眼鏡を描いた初期の《自画像(Mon portrait)》(1924)も注目作のひとつだ。パリ時代における藤田の象徴的なイメージを初めて本格的に表現した自画像とされ、予想落札価格は80万~120万香港ドル(約1630万~2440万円)となっている。

近年高まるアート市場人気

藤田作品の市場人気は、ここ10年で高まり続けている。2026年3月には、東京のSBIアートオークションで《エレーヌ・フランクの肖像(Portrait d’Hélène Franck)》(1924)が5億600万円で落札された。アートネット・プライス・データベースによると、藤田作品として史上7番目に高いオークション落札額だという。

今回の開催地に香港が選ばれた背景には、アジア市場における藤田作品への根強い需要がある。リンによると、過去3年間にサザビーズで藤田作品に入札した人の85%をアジアのコレクターが占めた。このうち日本と香港が計65%、そのほかのアジア地域が20%だった。また、藤田作品のオークション落札額トップ10のうち、5件はアジアで開催されたセールで記録されている。

その一方で、リンは「藤田の市場はますます国際化している」と指摘する。アジアを確固たる基盤としながら、藤田作品への関心はヨーロッパやアメリカにも広がっている。

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