フランク・ロイド・ライト「ウォルサー邸」が危機を脱し再生へ。地域ぐるみの連携で保存を実現

荒廃や差し押さえによって危機的な状態にあったフランク・ロイド・ライト設計の「ウォルサー邸」を、このほどシカゴ市の支援のもと地元の非営利団体が取得した。今後は地域コミュニティとともに修復・活用方法を検討していく。

J.J. ウォルサー・ジュニア邸。2025年6月12日撮影。Photo: Raymond Boyd/Getty Images

2025年にシカゴ歴史保存協会が危機に瀕する歴史的建造物に指定した、シカゴ西部オースティンのフランク・ロイド・ライト建築「J.J. ウォルサー・ジュニア邸(ウォルサー邸)」。このほど、地元の非営利団体オースティン・カミング・トゥゲザー(Austin Coming Together、ACT)が同邸を取得したとアートネットが報じた。

ウォルサー邸は1903年、印刷会社の重役ジョゼフ・ジェイコブ・ウォルサーの依頼を受けて建てられた。比較的手頃な住宅として設計されたライト初期の代表作のひとつで、建設費は当時4000ドル、現在の価値で約15万ドル(現在の為替で約2430万円・以下同)だったとされる。一方で、水平ラインを強調した外観や深い軒、造り付け家具を備えた開放的な内部空間など、後のプレーリースタイルを特徴づける要素がすでに取り入れられていた。ライトはその後、この住宅を発展させる形で、ニューヨーク州のダーウィン・D・マーティン邸やインディアナ州のデロード邸など、数々の代表作を手がけている。

1970年代には、ウォルサー邸はハーリー・ティーグと妻アンの所有となった。夫妻はこの建物が歴史的建造物であることを知らず、その風格ある佇まいに魅了されて購入。ハーリーは自ら内装の改修を行い、建物を維持してきた。

しかし2019年、夫妻が相次いで亡くなると状況は一変する。2000年代初頭から利用していたリバースモーゲージ(住宅担保融資)の未払い分を遺族が返済しなかったため、邸宅は差し押さえの対象となった。その後は管理されないまま急速に老朽化が進み、不法侵入の被害も相次いでいた。

現在のウォルサー邸の様子。Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy
現在のウォルサー邸の様子。Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy
現在のウォルサー邸の様子。Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy

こうした状況を受け、フランク・ロイド・ライト建築の保存・保護・普及に取り組む非営利団体「フランク・ロイド・ライト・ビルディング・コンサーバンシー」は、地元の保存団体と連携し、差し押さえ手続きや裁判を通じて一貫して建物の保存を訴えてきた。

その後、2025年12月の差し押さえ競売で、連邦住宅抵当公社(Federal National Mortgage Association、通称ファニーメイ)が同邸を取得。2026年1月に再び市場へ出された。アートネットが取引関係者に取材したところ、ファニーメイは当初の希望価格20万ドル(約3200万円)を12万5000ドル(約2030万円)に値下げし、4月にシカゴを拠点とする非営利の地域開発金融機関であるコミュニティ・インベストメント・コーポレーション(Community Investment Corporation、CIC)へ売却。その後、CICはACTへ6万5000ドル(約1050万円)で譲渡した。このうち6万ドルは、シカゴ市の「Trouble Buildings Initiative(問題物件対策プログラム)」から拠出されている。

プレスリリースによると、ACTが最初に着手するのは建物の応急的な安定化だ。その後は、地域住民やコミュニティリーダーらと協議を重ねながら、復元方法や再設計、将来の活用方針を決定していく。この手法は、シカゴ・オースティン地区の旧ロバート・エメット小学校を約4500万ドル(約73億円)を投じて最先端の就労支援施設「アスパイア・センター・フォー・ワークフォース・イノベーション」へ再生した際にも採用された。ACTは、ウォルサー邸についても建築としての歴史的価値と地域コミュニティの双方を尊重した再生を目指すとしている。

ウォルサー邸の取得について、ACTのエグゼクティブ・ディレクター、ダーネル・シールズはプレスリリースで次のように述べた。

「J.J.ウォルサー邸はオースティンの歴史の一部です。その次の章は、この地域を故郷と呼ぶ人々の手で紡がれるべきだと私たちは信じています。フランク・ロイド・ライトの作品としてだけでなく、オースティンの歴史を物語るかけがえのない存在だからこそ、ACTはこの建物を守るために動いたのです」

また、フランク・ロイド・ライト・ビルディング・コンサーバンシーはリリースで、「危機的な状況にあったこの建物を守ることができたのは、多くの関係者による連携があったからこそです」とコメントした。今後の修復の進捗は、ACTの公式サイトなどで随時公開される予定だ。

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