フランク・ロイド・ライトの建築が「危機リスト」入り。廃墟状態で「迅速な対処が必要」と保存協会

シカゴ西部にある、フランク・ロイド・ライト(1867-1959)が初期に設計した重要な建築物が、シカゴで最も危機に瀕している歴史的建造物リストに加えられた。

危機に瀕するシカゴのJ.J. ウォルサー・ジュニア邸。Photo: Facebook/Frank Lloyd Wright Building Conservancy

シカゴ西部のオースティン地区にある、フランク・ロイド・ライトが設計し1903年に建てられた住宅「J.J. ウォルサー・ジュニア邸(ウォルサー邸)」が、シカゴの歴史的建造物を守る非政府団体、シカゴ歴史保存協会が2003年から毎年発表する「差し迫った危機に瀕している歴史的建造物への警鐘を鳴らす」ことを目的とした「シカゴ7」リストに加えられたとアートネットが報じた。

ウォルサー邸は、1903年に印刷会社の重役だったジョゼフ・ジェイコブ・ウォルサーの依頼で建てられた。安価な住宅のために設計した初期の優れた例とも言われており、建設費用も当時4000ドル、現在の価値でおよそ15万ドル(約2240万円)程度だった。だが同邸は、水平ラインを強調した外観、深い張り出し庇、造り付け家具を備えた開放的な内部設計など、ライトの成熟したプレーリースタイルの多くの特徴を備えていた。ライトはその後、この邸宅を参考にして、バッファローのバートン邸やインディアナ州のデロード邸など、数々の有名邸宅を手掛けていった。

同邸はその後所有者が変わり、1970年代から居住していたアンナとハーレー・ティーグ夫妻は、長年にわたってこの建物の維持に努め、奮闘してきた。しかし2019年にアンナ・ティーグが亡くなって以来、ここに住むものも維持管理するものもおらず、その間にかなり劣化が進んだとシカゴ歴史保存協会は説明した。

J.J. ウォルサー・ジュニア邸の様子。Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy.
Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy.
Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy.
Photo: Frank Lloyd Wright Building Conservancy.

現在のウォルサー邸は、漆喰の壁や外装が崩れ落ち、窓が割れ、 基礎部分と天井には大きな穴が空いている。この状況を見かねたフランク・ロイド・ライト建築物保護協会は最近、リビングルームへの浸水を防ぐための処置を施した。 保護協会はウォルサー邸の支援を求めるページで、「この家のあらゆる部分に注意が必要です。この家は、構造的に安定させ、修復と再利用に向けて取り組む管理者の手に委ねる必要があります」と指摘している。

新しい管理者をなるべく早く見つけ出さねばならない状況ではあるが、話は簡単ではない。20年前、ティーグ家はウォルサー邸を担保にリバースモーゲージ(不動産担保融資)を利用したが、相続者による金利の支払いが滞っており、現在、同邸は差し押さえ手続きが進められているからだ。

シカゴ歴史保存協会とフランク・ロイド・ライト建築物保護協会は差し押さえを担当するエージェントに圧力をかけ、3月11日のヒアリングで、同邸が建築基準法を違反している事への対処を行うことに同意させた。また、保存協会は、市、住宅ローン会社、銀行に差し押さえ手続きの迅速化を求めており、4月1日に予定されている次の会議では、進捗状況が確認される予定だ。

シカゴ歴史保存協会のエグゼクティブ・ディレクターであるウォード・ミラーは、アートネットの取材に対して、「これは迅速に行う必要があります。この家屋は外部環境の影響や、敷地内に不法侵入する人々の影響を受けやすい状況にあるのです」と訴えた。

ウォルサー邸は、オースティンがシカゴに併合された直後に建てられ、ライトが自宅兼スタジオを置いたオーク・パークの近くに位置している。 その後の1世紀の間、この2つの場所は異なる運命を辿ってきた。 オーク・パークは今でも裕福な郊外地域だが、シカゴ歴史保存協会の言葉を借りれば、オースティン地域は「数十年にわたって衰退の苦境に立たされてきたが、現在では行政が主導する計画的な取り組みにより地域再生の兆しが見られる」状況だという。

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