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フランク・ロイド・ライト唯一の高層ビル「プライス・タワー」現所有者に、2億2000万円での譲渡命令

1月21日、フランク・ロイド・ライトが設計した唯一の高層ビル、アメリカ・オクラホマ州のプライス・タワーをめぐる半年間の法定闘争が決着。現所有者に約2億2000万円での譲渡命令が出された。

フランク・ロイド・ライト設計のプライス・タワー(写真左)。Getty Images/iStockphoto

フランク・ロイド・ライトが設計した唯一の高層建築、19階建てのプライス・タワーは、オクラホマ州ワシントン郡のバートルズビルにある。この物件の売買については、半年にわたり財務問題が燻り、法廷闘争が行われていたが、1月21日に同郡のラッセル・ヴァクロー判事が判決を下し、140万ドル(直近の為替レートで約2億2000万円、以下同)での譲渡が言い渡された。アートネット・ニュースがこの件の第一報を伝えている。

この判決は、現所有者であるカッパー・ツリーとグリーン・カッパー・ホールディングス(以下、カッパー・エンティティーズ)と、オクラホマ州タルサを拠点とするマクファーリン・ビルディング・カンパニーとの間で交わされた2023年5月の契約を強制執行するもの。マクファーリン社側は、すでに不動産売買は合意されているとして、他の買い手候補の排除を主張していた。

一方、カッパー・エンティティーズは200万ドル(約3億1000万円)にのぼると見られる負債を抱えていた。負債には、地元実業家からの60万ドル(約9400万円)の融資のほか、バートルズビルの地域コミュニティやカッパー・エンティティーズ社長のシンシア・ブランチャードと交流のある人物からの借入金20万ドル(約3100万円)も含まれている。そのため、債権者による弁済請求やプライス・タワー内の家具に関する複雑な手続きが終わるまで、裁判所が140万ドルの資金を保全するとしている。

その背景には、家具に関する保存契約があったにもかかわらず、カッパー・エンティティーズがそれを破って一部を売り払っていたことがある。同社は昨夏、財務逼迫を理由に家具の競売を開始した。しかし、マクファーリン社との売買契約には、銅製のレリーフパネルや特注の肘掛け椅子など、ライトがデザインしたものをはじめ全ての什器や備品が含まれるという条項がある。これについてヴァクロー判事は、タワーの譲渡以前に什器の取引で得た代金は、返金されるか、譲渡価格から差し引かれなければならないとしている。

カッパー・エンティティーズは判決の2日後に破産を申し立てたため、こうした支払い手続きが混乱に陥る可能性もある。そんな中、タワーは昨年8月に閉鎖されて以来、電気や水道などが止められており、1月に気温が急低下したことが建物を危険にさらしているとして、法的手続きのスピードアップが急務とされる。マクファーリン社は裁判所の命令を受けて電気や水道などの復旧を試みようとしたと主張しているが、現状では放置されたままだ。

1956年に完成したプライス・タワーは、当初ニューヨークでの建設が構想されていた。カッパー・エンティティーズはこのビルにレストランやブティックホテルを入れる計画を発表していたが、負債が膨らんだだけでほとんど実現していない。

これに対してマクファーリン社は、タルサのザ・メイヨー・ホテルのような歴史的建造物の修復に実績がある。これが、「値段が付けられないほど貴重な芸術品」とヴァクロー判事が表現したプライス・タワーの唯一の希望かもしれない。いずれにせよ、まず急ぐべきは電気の復旧だ。(翻訳:石井佳子)

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