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フランク・ロイド・ライト建築保存のため、南カリフォルニア大学が歴史的邸宅を売却

南カリフォルニア大学(USC)は、フランク・ロイド・ライトが1924年に建てた歴史ある邸宅をロサンゼルスの不動産開発業者に売却した。

サミュエル・フリーマン邸 Courtesy Frank Lloyd Wright Foundation
サミュエル・フリーマン邸 Courtesy Frank Lloyd Wright Foundation

傷みが激しいこの物件は、恒久的な修復保存を条件に非公開取引で販売された。ロサンゼルス・タイムズ紙は、邸宅の購入者はワイントラウブ不動産グループ(Weintraub Real Estate Group)を率いるリチャード・E・ワイントラウブCEOだと報じている。

ハリウッドヒルズに立つ約260平方メートルの邸宅は、ライトが手掛けたテキスタイルブロック(*1)建築の一つ。壁には、複数の四角い穴を組み合わせた模様のコンクリートブロック1万2000個が使われている。1920年代に建てられ、1980年代までロサンゼルスの芸術家や文化人の交流の場となっていた。元の所有者のサミュエル&ハリエット・フリーマン夫妻は、1986年にこの邸宅を南カリフォルニア大学の建築学部に寄贈している。

*1 直線を基調とする幾何学的装飾が表面に施されたコンクリートブロック。

1994年の地震で被害を受けたフリーマン邸は、2000年代初頭から建物の劣化が指摘されていた。2005年には、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の助成金と南カリフォルニア大学が集めた寄付金を使い、痛んだファサードや構造部分の修復が行われている。

しかし、三段階にわたる修復計画は、大学の運営主体が変わると中断してしまう。2019年には、フリーマン邸から数点の家具が盗まれた事実を大学が公表していなかったことが明らかになり、大学の管理能力をめぐる新たな懸念が生まれた。

ワイントラウブは、このモダニズム住宅を180万ドルで購入している。これは南カリフォルニア大学が2021年7月にこの物件を市場に出した時の価格、425万ドルよりかなり安い。大学はワイントラウブとの取引が成立する前、大規模な修復の必要性から、325万ドルに価格を下げていた。

ワイントラウブがこの物件を手に入れた際の条件の一つに、「保全地役権」(*2)がある。これは、歴史建造物や街並みなどの保存・再生を行う非営利会員組織のロサンゼルス・コンサーバンシー(Los Angeles Conservancy)がフリーマン邸に設定したもので、ワイントラウブや将来の買い手による邸宅の取り壊しや大幅な増築を禁止している。さらに、教育プログラムとして年4回、建物の一般公開を行うことも契約に含まれている。

*2 保全地役権(Conservation Easement)とは、土地環境の保全目的に反する活動を一切禁止する権利。

ロサンゼルスで危機に瀕しているライトの建築は、フリーマン邸だけではない。ハリウッドヒルズのエニス邸は、ライトが手がけた4軒のテキスタイルブロック建築の中で最後にして最大のものだが、2005年の暴風雨で被害を受けた。マヤ・リバイバル様式のこの邸宅を保全するための工事が2006年に始まり、2011年に個人所有者の手に渡った後、全面的な修復が行われている。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月28日に掲載されました。元記事はこちら

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