イギリスの化石ハンターがジュラ紀化石318点をアブダビに売却。研究者は「国家的損失」と問題視

イギリス世界遺産「ジュラシック・コースト」で採集されたジュラ紀の化石318点が、アブダビ自然史博物館に売却された。貴重な標本の国外流出に、研究者からは「国家的損失」との声が上がっている。

イギリス・ドーセット州にあるライム・レジスに埋まるアンモナイトの化石。Photo: Loop Images/Universal Images Group via Getty Images.

イギリスで採集されたジュラ紀の化石318点が、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ自然史博物館に売却された。

化石群を収集したのは、イギリスの化石ハンターで標本製作者でもあるクリス・ムーアだ。採集地は、約2億年前の化石を豊富に含むイングランド南西部のユネスコ世界遺産「ジュラシック・コースト」。魚竜や魚類、甲殻類などが含まれ、なかには新種である可能性を持つ標本もあるという。

国外流出の理由は「資金不足」

ムーアは当初、ロンドン自然史博物館とウェールズ国立博物館に化石群の購入を打診した。提示額は8桁、すなわち少なくとも1000万ポンド(現在の為替で約21億5000万円、以下同)規模だったとされる。しかし、両館はいずれも資金不足を理由に購入を断念した。

ムーアが最初にイギリスの博物館へ購入を持ちかけたのは、この地域の化石採集規範に従ったためだ。同規範では、学術的に重要な標本を売却する場合、海外などへ販売する前にイギリスの登録博物館や公的機関に6カ月間、購入の機会を与えることが定められている。

その後、アブダビ自然史博物館がムーアからコレクションを購入。2025年11月から展示していることを同館は明らかにした。

化石採集の歴史は古い。古生物学が科学分野として確立するはるか以前から、古代ギリシャやローマでは氷河期の哺乳類の骨が掘り出され、神殿などで公開されていた。

ガーディアンは、イギリスの化石採集家兼標本商だったメアリー・アニング(1799-1847)も、かつてムーアと同じジュラシック・コーストで数々の重要な発見をしたと紹介している。そのひとつが、1823年に見つかった、ジュラ紀の海生爬虫類プレシオサウルスの世界初となる完全な骨格だ。

高騰し続ける化石価格

しかし近年、世界的な化石需要は急速に拡大している。SNSには化石ハンターが採集成果を披露する動画があふれ、保存状態に優れた標本の価格は高騰を続けている。

2020年には、ティラノサウルスの骨格、通称「スタン」が当時の史上最高額となる約3200万ドル(約51億円)で落札され、後にアブダビ自然史博物館の所蔵品となった。2026年7月には、別のティラノサウルス「ガス」がサザビーズで5000万ドル(81億2000万円)を記録し、恐竜化石のオークション最高額を更新した。

こうした価格は、多くの博物館の購入能力をはるかに超える。そのため、希少な化石の多くが個人コレクションに流れており、レオナルド・ディカプリオやラッセル・クロウなどの著名人もその収集家として知られている。

モンゴルやブラジルなど一部の国では、化石を国家の所有物とみなしているが、イギリスには同様の制度がない。このため、化石の採集や売買をどう規制すべきかをめぐり、意見が分かれている。

現行制度の維持を支持する専門家は、海外への化石売買を禁止すれば収集家のモチベーションの低下に繋がるだけでなく、海岸の浸食によって露出した重要な標本が回収されないまま破損・流失するリスクがあると指摘する。あるいは、違法に採掘されて闇市場で取引される危険性も高まると主張する。

化石の国有化は必要か

一方、ドイツのシュトゥットガルト州立自然史博物館で前期ジュラ紀の海生脊椎動物を研究するエリン・マクスウェルは、ガーディアンの取材に対し、異なる見方を示した。

「私の考えでは、こうした売却はイギリスにとっての損失です。化石は、それが産出した地域や国の自然遺産、あるいは文化遺産の一部です。ただし、今回は富裕な個人のコレクションではなく博物館に収蔵されたことで、損失はいくらか相殺されたとも言えます」

またマクスウェルは、イギリスのように化石が国有物とされていない国にも採り得る方策はあるという。

「輸出に先立ち、現在のように大幅につり上がった市場価格ではなく、原価を基準とする価格で、国がコレクションを優先的に購入できる権利を持つことが重要だと思います。ただし、国が購入を見送った場合、海外の博物館への売却は最善の選択肢です」

イギリス・ドーセットのチャーマス・ヘリテージ・コースト・センターに所属する古生物学者フィル・デイビッドソンも、重要な標本を公共コレクションに収めることが最優先という考えを示した上で、こう語る。

「私が話をした研究者は全員、同じことを言っています。どこの博物館に収蔵されるかは2次的な問題です」

また、ムーアの化石群のように、同じ地層から採集されたコレクションを分散させず、一括して保存することの重要性も強調した。

少なくとも、この点はアブダビ自然史博物館も同じ考えのようだ。同館の広報担当者は、前期ジュラ紀に現在の「ジュラシック・コースト」があるドーセット海岸は北アフリカに相当する緯度に位置していたことを踏まえ、ガーディアンにこう語っている。

「地球上の生命がたどった42億年の物語を伝えるのであれば、あらゆる博物館のコレクションは、空間と時間の双方を越えて移動しなければなりません」(翻訳:編集部)

from ARTnews

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