まるで創世神話の1シーン! 最新調査で、古代エジプト・カルナック神殿は「島」にあったことが判明

エジプト・ルクソール近郊にあるカルナック神殿で、この地域における初の包括的な地質考古学調査が行われた。その結果、初期のカルナックは河川の浸食により出現した島状の地形であったことや、中王国時代に始まったと考えられていたこの地域への人々の居住が300年以上も前の古王国時代から行われていたことが明らかになった。

エジプト・ルクソール近郊にあるカルナック神殿。2025年2月3日撮影。Photo: NurPhoto via Getty Images

エジプト・ルクソール近郊のカルナック神殿でこのほど、この地域で初となる包括的な地質考古学調査が行われ、その調査結果が10月6日、学術誌『アンティクイティ』で発表された。

カルナック神殿は「カルナック神殿複合体」とも呼ばれており、古代エジプトの宗教的首都テーベの内部と付近に位置している。紀元前2040年頃からの中王国時代に人々がこの地域に住み始め、センウセルト1世(紀元前1965-1920年頃)の統治中に神殿の建造が始まったとされる。その後、新王国時代(紀元前1550-1069年頃)にかけての数百年の間に、約30人のファラオが24の神殿、礼拝堂、その他の構造物をカルナックの広大な土地に建設した。これらは1979年に「古代都市テーベとその墓地遺跡」としてユネスコの世界遺産に登録され、ギザのピラミッドに次いでエジプトで2番目に訪問者の多い考古学遺跡となっている。

最新調査では、スウェーデン・ウプサラ大学のアンガス・グラハム博士が率いる国際研究チームが、神殿遺跡内および周辺から61本の堆積物コアを採取し分析した。また、調査結果の年代特定に役立てるため、その中に含まれる数千点の陶器片を調査した。その結果、カルナックは紀元前2520年頃以前には、ナイル川の氾濫よって定期的に浸水していたため、この場所は恒久的な居住には適していなかったことが分かった。そして、陶片の最古のものが紀元前2305年から1980年の間であったことから、カルナックにおける最も古い人々の居住は古王国時代(紀元前2591年-2152年頃)だった可能性が高いと結論付けられた。

研究者たちは、ナイル川の流れは西と東の川床を削り込み、古王国時代に現在の神殿区域の東部から南東部にあたる場所に高地の島を作り出したと考えている。そして出現した島に人々が居住し、初期のカルナック神殿が建てられたのだ。

論文の筆頭著者でイギリス・サウサンプトン大学の地質考古学客員研究員であるベン・ペニントンはこの調査結果について、フィズ・オルグ誌に「この新しい研究は、小さな島から古代エジプトを象徴する機関の一つへと発展したカルナック神殿の進化について、前例のない詳細を提供するものです」と語った。

また、研究の共同執筆者の一人であるドミニク・バーカーは、後に古代エジプト人が砂漠の砂を川に投棄して「新しい土地を作り出していた」ことも発見したと話す。

カルナックのはじまりとされる河川に囲まれた島は、あたかも「混沌の水」から神が出現するというエジプトの創世神話の1場面のようだ。ペニントンによると、当時、毎年の洪水期の終わりには水が引いて神殿が立ち上がるように見えたという。そして彼は、「テーベの支配層が、カルナックの島が創世神話の情景と合致していたので、創造神アメン・ラーの住処として選んだのだと考えたくなります」と付け加えた。(翻訳:編集部)

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