ギザの大ピラミッドを作業員が打ち砕く動画がSNSで炎上。「ずさんな管理」に議員や考古学者が非難
ギザの大ピラミッドの工事の様子がSNSに投稿されたのちに、「管理がずさん」だと非難の声が相次ぎ炎上している。これを受けエジプト政府は、動画に収められた工事の様子は20年前に設置された資材の撤去作業であると声明を発表している。
昨年11月、ギザの大ピラミッドでハンマーやノミなどの道具を使って作業する作業員の動画がソーシャルメディアで拡散された後、「管理のずさんさ」を非難するエジプト学者やエジプト議会が声明を発表するなど物議を醸している。
動画はユネスコの世界遺産であるギザの大ピラミッドで、建設作業員が豪快にハンマーを下ろして岩を砕く様子を観光客が撮影したもので、SNS上で拡散された。それを受けて同国の観光・古代遺跡省は地元メディアに対し、遺跡に被害は出ていないと語り次のような声明を発表している。
「動画に収められているのは、ピラミッドに送られる電力を拡張するために、20年前に設置された建築資材を撤去した作業の様子でした。事実に基づかない噂に惑わされないよう注意してください」
そして、考古最高評議会の古代エジプト遺産部門の責任者を務めるアイマン・アシュマウィは「この作業は民間企業によって実施されたもので、考古学者や修復専門家の立ち合いなしに行われました」と説明した。
一方、この事件を知ったエジプトの議員アミラ・アブ・ショカは議会に緊急動議を提出し、同国の観光・考古大臣であるシェリフ・ファティに説明を要求。「エジプトの観光の評判と国のイメージを台無しにした」という声明を発表した。
アブ・ショカの声明を受けてエジプト観光・古代遺跡省は調査を実施し、動画の作業内容は新しい照明システムの設置工事であり、取り除かれたのは20年前に追加された建築資材だと発表。「この作業は遺跡に影響を及ぼしていない」と説明した。
それにもかかわらずエジプトの考古学者たちは、ギザの大ピラミッドは古代遺跡の保護に関するユネスコの規定や、建造物や遺跡の保存修復に関する国際協定であるベニス憲章が順守されていないと主張。国民の怒りも収まっていない。
エジプトの遺跡にとって最大の脅威となるのが、「ずさんな管理」であると、エジプト学者のモニカ・ハンナはアート・ニュースペーパーに語っており、その例としてハンナは、世界中から抗議を受けて昨年2月に中止された、古代の花崗岩の化粧板をメンカウラー王のピラミッドに取り付ける改修工事を挙げている。
大ピラミッドの工事に対する非難が高まるなか、ギザには新しいビジターセンターがオープンする。これは、5110万ドル(約78億円)以上の予算が費やされたギザ台地の広範囲にわたる再開発の一部だ。ビジターセンターのほかにも新しい高速道路やいくつかのカフェやレストランが建設予定で、地元民は反対している。
「ギザ台地での作業は、それがコンクリートの除去であれ、照明の設置であれ、実際にはどんな建築作業であれ、遺跡の破壊や考古学情報の損失の可能性があるため、慎重に監視されなければなりません」と、アメリカン大学(カイロ)の考古学教授であるサリマ・イクラムはアート・ニュースペーパーに語っている。「この地における建設は制限すべきであり、ピラミッドから遠ざけるべきです。なぜなら、それらは景観を乱し、劇的に変えてしまうからです」(翻訳:編集部)
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