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ピラミッドが気候変動で消滅!? 温暖化が歴史遺産に与える影響

スフィンクスやギザの大ピラミッドなど、人類史に残る偉大な古代エジプト遺跡が、今世紀末までに気候変動によって失われる可能性があると専門家が警告している。

エジプト、ルクソールのカルナック神殿。Photo: Getty Images

懸念されている気候変動による影響の1つが海面上昇だ。ルクソールの古代神殿群や、アレクサンドロス大王が紀元前331年に建設したアレクサンドリアのかなりの部分は、海抜より低い場所にあるため水没の恐れがある。

アレクサンドリア図書館に併設されている古代博物館の館長、フセイン・アブドゥル・バシールは、12月6日付の英ミラー紙で30年以内にアレクサンドリアが水没する危険性があると述べている。古代から続くこの都市が有する貴重な遺産には、15世紀のイスラム王朝時代に建てられたカーイト・ベイの要塞も含まれる。

大気汚染や異常気象もエジプト考古学的遺産を脅かしていると指摘するバシルは、「現在、全自然遺産の3分の1、文化遺産の6分の1が、気候変動による脅威にさらされている」と語る。

地中海沿岸やナイル川沿いに乾燥地帯や低地を抱えるエジプトは、世界的な持続可能性への取り組みがなければ気候変動の深刻な影響を受けることになる。専門家の予測によれば、熱波や砂嵐、暴風雨の増加で、遺跡の石が腐食したり古代の彫像の色が失われたりしているという。

11月にはニューヨーク・タイムズ紙が、ルクソールの王家の谷にある墓は早急な手当がなければ、今世紀中に「完全に失われる」とし、いくつかの神殿の石はすでに湿気による劣化が見られると報じた。また、エジプトでは急激に温暖化が進んでおり、10年ごとに平均気温が華氏3度(摂氏では約1.7度)以上上昇すると予測する専門家も少なくない。

気温が50℃を超えることもある南部のアスワン地域では、花崗岩でできた遺跡の劣化が進んでいる。昼と夜の気温差が激しいため、花崗岩に亀裂が入り、碑文や壁画が破損してしまうのだ。

19世紀後半に始まったエジプトの産業化も古代遺跡の劣化を加速させた。増加した都市人口を支えるために農地が増えたことが、ナイル川周辺の生態系破壊を引き起こしたのだ。大ピラミッド周辺では、農業灌漑のために上昇した地下水がスフィンクスの下に溜まり、水に溶け出した塩分で塩害を引き起こすという現象も起きているという。

エジプト政府は環境破壊を食い止めるための対策として、今年、持続可能なプロジェクトに資金を提供する「国家気候変動戦略」を開始。その中では、海面上昇からカーイト・ベイの要塞を保護するための予算1300万ドル(約17億7000万円)も計上されている。

ニューヨークに本拠を置くワールド・モニュメント財団のベネディクト・ド・モントラー理事長は、声明でこう述べている。「気候変動における遺跡の脆弱性を強調するだけでなく、歴史的遺産の保護が温暖化の深刻な影響を緩和する方法を示すことができるという点も重要だ」(翻訳:石井佳子)

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