クリスティーズが初の日本アニメ・漫画オークションを開催。北斎から宮崎駿まで日本美術史を横断

クリスティーズで初となる日本のアニメと漫画に特化したオークションが、3月18日から31日までオンラインで開催される。葛飾北斎から手塚治虫、宮崎駿、奈良美智までを横断的に並べ、日本のサブカルチャーを美術史の文脈に位置づけようとする試みだ。

『風の谷のナウシカ』(1984)セル画。巨神兵の場面。Photo: Courtesy Christie’s.

クリスティーズで初となる日本のアニメと漫画をメインに据えたオークションAnime Starts Here: Japanese Subculture Imagines Tradition(アニメはここから始まる:日本のサブカルチャーが伝統を再解釈する)」が、3月18日から31日までオンラインで開催される。本セールは、3月18日から4月2日まで展開される「アジアン・アート・ウィーク」の一環として企画された。

今回の特徴は、単に人気アニメや漫画作品を並べるのではなく、それらを日本美術の長い歴史の流れの中に位置づけようとするキュレーションにある。オブザーバー誌によれば、本オークションは日本のアニメや漫画を古典的芸術遺産との視覚的対話のなかで提示することを意図しているという。

出品作は、竹内直子による漫画『セーラームーン』の原画、ドラえもんのアニメセル画まで多岐にわたる。さらに葛飾北斎が手掛けた木版画や、奈良美智らアニメ的美学を現代美術へと接続してきた作家の作品も含まれる。

日本美術の文脈から漫画・アニメを概観

注目ロットのひとつが、手塚治虫による漫画『リボンの騎士』(1953)の原画で、予想落札価格は1万2000~2万2000ドル(約188万円~344万円)。友人に個人的に贈られたという来歴を持ち、市場では極めて希少とされる作品だ。そのほか、宮崎駿『風の谷のナウシカ』(1984)に登場する巨神兵の場面を描いたセル画は3500~4500ドル(約55万~70万円)、『となりのトトロ』(1988年公開)のオリジナル日本版映画ポスター(1988~1989年公開時)は2500~3500ドル(約40万~55万円)の予想落札価格で出品される。

一方で、葛飾北斎の浮世絵《神奈川沖浪裏》(江戸時代)は4万~6万ドル(約625万~940万円)の予想価格が付けられている。アートネットによれば、他のアニメ・漫画関連ロットの多くは3000ドル(約46万円)以下の見積もりとなっているという。

スタジオジブリ『となりのトトロ』1988年から1989年にかけての公開時のオリジナル日本版映画ポスター。Photo: Courtesy Christie’s.
東宝『ゴジラ』告知ポスター。Photo: Courtesy Christie’s.
手塚治虫『リボンの騎士』原画(1953)Photo: Courtesy Christie’s.
葛飾北斎《神奈川沖浪裏》(江戸時代)Photo: Courtesy Christie’s.

世界に拡大する日本の漫画・アニメ市場

近年、日本の漫画とアニメはアジア圏を超えて世界的な存在感を高めている。今年2月16日には、ポケモンカード「Pikachu Illustrator」がゴールディン・オークションズで1650万ドル(約26億円)で落札され、「ポケモンカード」史上最高額を更新した

世界のアニメ・漫画の市場規模も拡大を続けている。業界レポートによれば、世界のアニメ市場は2025年に約377億ドル(約5兆9000億円)規模と推定され、2033年までに年平均成長率(CAGR)約9.2パーセントで770億ドル(約12兆300億円)を超えると予測されている。

また世界の漫画市場は、2025年に約102億ドル(約1兆6000億円)規模と推定され、2033年までに年平均成長率(CAGR)約20.5パーセントで438億ドル(約6兆8000億円)以上に拡大すると予測されている。こうした急成長は、世界的関心の高まりに加え、デジタルプラットフォームによるアクセス向上やクロスメディア展開が牽引している。

市場の拡大と並行して、日本のアニメ・漫画に対する美術館やコレクターの評価も変化している。サンフランシスコのデ・ヤング美術館では2025年9月から2026年1月にかけて「Art of Manga(漫画の芸術)」展が行われ、テキサス州アジア協会では3月15日まで「The House of Pikachu(ピカチュウの家)」展が開かれている。さらに大英博物館の「サムライ」展でも、漫画やアニメは現代日本文化の一側面として紹介されている。2023年にはオランダ・アムステルダムのゴッホ美術館がポケモンとコラボレーションを実施し、ロンドンの自然史博物館もポケモンとの新たな連携に乗り出している

これらの評価の高まりの理由について、今回のオークションを主導するクリスティーズ日本・韓国美術部門責任者の村上高明は、オブザーバー誌の取材に対し次のように語る。

「現代人は漫画とアニメを単なる娯楽ではなく、本格的な芸術として認識しています。いずれのジャンルも、日本国内では子ども向けに限定されたことは一度もありません。当初から社会の気分を反映してきました」

たとえば手塚治虫の『鉄腕アトム』は戦後復興期の希望と技術への信頼を体現した。その後経済発展を遂げ、1980年代には宮崎駿の『風の谷のナウシカ』が、産業成長と原子力発電が自然と人類に与える影響を描いた。1990年代の『新世紀エヴァンゲリオン』は、バブル崩壊後の日本社会に広がった不確実性や金融不安、アイデンティティ危機を映し出した作品として語られている。

村上はこう続ける。

「これらの作品は、その時代を生きた人が抱えた社会への思いを表現しています。どの時代の漫画とアニメにも人々の代弁者がいるのです」

さらに彼が強調するのは、歴史との接続だ。漫画とアニメは日本の急速な近代化の中で発展したが、その基層には伝統的な視覚文化がある。「漫画」という言葉は、葛飾北斎が日常生活や動植物、妖怪を描いた版画集『北斎漫画』に由来する。躍動的な構図と筆致が生む運動感覚は、多くの近現代アーティストに影響を与え、現代のビジュアル文化にも通底している。

村上はアートネットに対し、こう語った。

「これまで、現代のサブカルチャー・アートを、日本の古典的な遺産や視覚的伝統と結びつけるような議論はあまりされてきませんでした。必要なのは、これらの作品を日本のより長い美術の系譜の中に位置づける、より広いキュレーション上の対話です」

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