私のゴーストが(もう一度)行けと囁く──「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」【EDITOR’S NOTES】
TOKYO NODEで開催中の「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」を、展示構成からARグラス「電脳VISION」、音楽イベントまで含めてレポート。アニメファンもアートファンも必見の展示だ。

虎ノ門ヒルズの最上階、TOKYO NODEで開催中の「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」は、アニメ制作30周年を記念したシリーズ史上初の本格的な大規模展覧会だ。4月5日までの期間、公安9課の電脳世界にダイブするような没入体験が、虎ノ門という東京の最先端エリアで展開される。

会場に足を踏み入れるとまず圧倒されるのが、広大なGallery A/B/Cを活用した空間設計だ。建築家・元木大輔率いるDDAAによる会場構成は、電脳ネットワークを思わせる「Nerve Net」のビジュアライザーと、中央にそびえる「World Tree: Ghost and the Shell」のドーム型インスタレーションで、訪れた瞬間から「攻殻の世界」と錯覚させる。虎ノ門のビル群と東京タワーがガラス越しに見えるロケーションも(日没後ならなおさら)、主人公・草薙素子が夜の街に潜行するあの有名シーンを想起させ、来場者を盛り上げる。会場自体が作品の一部になっているのだ。
展示の核となるのは、約1,600点を超える原画・設定資料・絵コンテのアーカイヴ。押井守監督の劇場版『GHOST IN THE SHELL』から、神山健治監督の『STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、黄瀬和哉・荒牧伸志監督作、そして2026年放送予定のScience SARU新作アニメの先行原画まで、全アニメシリーズを網羅している。押井版の緻密で哲学的なタッチ、神山版の情報戦・社会派テイスト、それぞれの時代ごとの変化が一目で比較できるのは貴重な機会。特に未公開資料や修正前のラフ画が大量に並ぶ「DIG」ゾーンは、ファンなら何時間でも過ごせそうな密度。さらに封筒に入ったセル画を持ち帰れるコーナーは、お気に入りのシーンを掘り当てるべく、知らぬ間に時間が溶けるはず。
もう一つの目玉は、ARグラス「電脳VISION」(別料金)によるタチコマガイドだ。装着すると可愛いタチコマが目の前に現れ、原画の前で「これは押井監督がこだわった構図ですよ」などと解説してくれる。ARで来場者の顔にノイズがかかったり、笑い男のマークが浮かんだりする演出もあり、「電脳VISION」があるかないかでは作品世界への没入度が大きく変わる。KDDIやコロプラなどの最新技術が投入されており、まさに攻殻が予言した「電脳化」が現実になった瞬間を体感できる。特に最後の草薙素子の演出は必見で、夜間の入場をおススメする。見たらきっとこういいたくなるはずだ。
「あいつは行っちまったのさ。それこそ均一なるマトリクスの裂け目の向こうへ・・・あいつは確かに生きてる。広大なネットのどこか、あるいはその全ての領域に融合して」

本展には、複数の現代アーティストも参加しているが、中でも空山基による草薙素子をモデルにした新作彫像《Sexy Robot_The Ghost in the Shell type 1》は圧巻。無機質さと官能性が同居したフォルムは、ゴーストとシェルのテーマを巧みに体現している。個人的には押井守の劇場版『イノセンス』のファンなので、ハンス・ベルメールや四谷シモンなどの球体関節人形も見たかった。
会期中、「DEEP DIVE / 攻殻機動隊」という音楽イベントも開催される。映画、アニメともに、印象に残る音楽でストーリーを盛り上げた攻殻機動隊らしい試みであるが、名曲を残しまくった作曲家・菅野よう子が参加しないのは大変残念だ。縦横無尽にクラシック、ジャズ、テクノ、エスニックとジャンルをまたがって作曲する彼女なしに、攻殻を音楽で表現することなどできるのか。
とはいえ、展示は全体を通じて、攻殻ファン歴が長い人ほど「ここまでやるか」と楽しめる内容。前半のサイバー感、後半のアナログ感の対比は、30年前に描かれた攻殻機動隊のサイバーパンク感を上手く体現しているし、今の最先端技術を駆使した現実と虚構が溶け合う展示にも、その世界観が反映されている。本展は、単なるファン向けイベントを超えて、シンギュラリティが忍び寄る現代を生きる私たち全員に向けた「問い」の結節点ではないか。4月5日までの開催中、もう一度「行け」と私のゴーストが囁いている。



