「廃棄ロープ」に2億円? デイヴィッド・シュリグリーが、資金難のギャラリーで芸術の価値を問う

イギリスの現代アーティスト、デイヴィッド・シュリグリーの新作が話題を呼んでいる。彼はロンドンのスティーブン・フリードマン・ギャラリーでスタートした個展で、自ら集めた廃棄ロープを積み上げただけの作品に100万ポンド(約2億円)の値をつけたのだ。

「David Shrigley: Exhibition of Old Rope」展展示風景。Photo:Instagram/stephenfriedmangallery

ロンドンのスティーブン・フリードマン・ギャラリーでデイヴィッド・シュリグリーの個展「David Shrigley: Exhibition of Old Rope(デイヴィッド・シュリグリー:古ロープ展)」が開催中だ(12月20日まで)。

1968年にイングランドに生まれ、現在はスコットランドを拠点に活動するシュリグリーは、「ワンライナー(短くて印象的なセリフ、ジョーク)」のテキストを入れたドローイング作品がよく知られている。彼の作品は絵画のみならず彫刻や映像、写真など多岐に渡るが、いずれも機知に富み、シュールで、ダークなユーモアを含んでいる。

そんな彼が最新の個展で発表したのは「古いロープの山」。使い古されたロープはリサイクルすることが困難で、埋め立て地行きの運命にある。シュリグリーはイギリス中を数カ月かけて歩き、素材となる廃棄予定のロープを探し回った。展示の解説によると、その多くは大型クルーズ船の係留索から、標識ブイの細い紐や長縄、カニやロブスターの漁網に至るまで、海上で使われていたもの。それ以外は、登山学校や樹木医、洋上風力発電所、足場工事業者、窓清掃会社から提供を受けたものだという。

こうして生まれた作品の総重量は10トンとなり、なんと100万ポンド(約2億円)の値が付けられている。だが、2024年11月にサザビーズ・ニューヨークでマウリツィオ・カテランのガムテープで壁に貼られたバナナ《Comedian》が624万ドル(約9億7000万円)で落札されたことを考えれば、決して高くはないとも言える。

「David Shrigley: Exhibition of Old Rope」展展示風景。Photo:Instagram/stephenfriedmangallery
「David Shrigley: Exhibition of Old Rope」展展示風景。Photo:Instagram/stephenfriedmangallery
「David Shrigley: Exhibition of Old Rope」展展示風景。Photo:Instagram/stephenfriedmangallery

シュリグリーは同作を通して何を伝えようとしているのか。彼は出発点に、「money for old rope(楽して儲けることの意味)」という慣用句があるといい、次のように説明した。

「古いロープは役に立ちません。しかもリサイクルするのが難しく、あちこちに放置されていました。そこで私は考えました。これを字義通りの『古いロープの展示会』にして、古いロープをアート作品として100万ポンドで販売したらどうだろう、と。この作品が存在する理由は、人々がアートに置く価値に興味があるからです。あの慣用句が、それを探るきっかけを与えてくれました。私は、100万ポンドは妥当な値段だと思います。アイデアの価値もあるし、ロープもかなりの量だからです」

これは彼にとって典型的なスタイルで、同作は彼の平面作品を立体化したものであると言っても良い。この展示が彼の絵画スタイルで表現されているのを想像するのは容易だ。積み上げられたロープの素朴な線画の下には、あの慣用句が書かれているのだ。

この展示は、ほとんどのコンセプチュアル・アートと同様に意見を二極化させるだろうが、この種のものがもはやアート界では驚きではないという事実によって、衝撃は緩和されるだろう。マルセル・デュシャンによって造られた用語「レディメイド」は1世紀以上前から存在しており、トレイシー・エミンの《マイ・ベッド》が1998年に話題になるずっと前から、マン・レイヨーゼフ・ボイス、さらにはパブロ・ピカソといった面々がこういった表現に飛び乗っていたのだ。

ガーディアン紙の美術評論家エディ・フランケルが同展について指摘した点は、私は改めて伝える価値があると考えている。彼はこう言った

「財政的に生き残りに苦労しているギャラリー(発表の場となったスティーブン・フリードマン・ギャラリーは今年初めに巨額の損失を発表した)で、芸術の価値について皮肉なコメントをするのも、少し気まずく感じる。作品を通してシュリグリーは、『お前らはどんなガラクタでも買うんだろう?』と言っているようなものだ。しかし会場は、どんなガラクタでも売るのにかなり苦労しているギャラリーなのだ」

この「ガラクタ」に100万ポンドを支払う意思のある人物がいるのか、いるとすれば誰なのかは、まだ分からない。しかしタイミングが全てだ。11月18日に開催されるサザビーズ・ニューヨークのオークションでは、マウリツィオ・カテランの100キロの18金で出来た便器《America》が出品される。この出来事も人々のコンセプチュアル・アートへの欲求が試されることになるだろう。(翻訳:編集部)

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