巨大彫刻を「スライス売り」。MSCHFの新作は、2次元イメージが覇権を握る現代への皮肉なのか

ブルックリンを拠点とする「MSCHF(ミスチーフ)」は、資本主義社会の歪みやアート作品の価値への疑問をコンセプチュアルに表現し、数々の物議を醸してきたアートコレクティブ。その彼らが新たな作品《King Solomon's Baby(ソロモン王の赤ん坊)》を携えて、ニューヨークのアートシーンに戻ってきた。

MSCHF《King Solomon's Baby(ソロモン王の赤ん坊)》(2025) Photo: MSCHF

巨大な彫刻に魅了され、「その一片でも持ち帰りたい」と思ったことがあるのなら、MSCHF(ミスチーフ)の新しいプロジェクトは見逃せない。3次元の彫刻を、限りなく2次元に近づける試みがこの週末に繰り広げられるからだ。

MSCHFはこれまで、利用者の口座残高を暴露するATMをアート・バーゼル・マイアミ・ビーチに出展したり、ダミアン・ハーストの「スポット・ペインティング」を構成する多数の円を1つずつ切り離して売り出したりと、意表を突くプロジェクトを次々と発表してきた。2023年には、鉄腕アトムの靴に着想を得た赤いブーツの販売で話題をさらっている。

「金融信用の低下(financial trust fall)」と呼ばれる今回のプロジェクトは、アーリーアダプターが大きなリスクを取り、それに追随する人がネズミ算的に増えることを前提とする逆ピラミッド型の構造になっている。具体的には次のような仕組みだ。《King Solomon's Baby(ソロモン王の赤ん坊)》(*1)と名付けられた巨大な彫刻の価格は10万ドル(約1460万円)で、買い手が2人なら1人5万ドル、4人なら各人2万5000ドルずつとなり、最終的には1000人で打ち切られる(このとき1人当たりの価格は100ドル)。

*1 旧約聖書に、1人の赤ん坊を自分の子だと争う2人の女性に対し「赤ん坊を2つに分けて、半分ずつ与えよ」と命じたソロモン王の逸話がある。真の母親は赤ん坊を死なせたくないのでもう1人に譲った。

「赤ん坊」の販売は、7月10日の午後2時(アメリカ東部時間)にkingsolomonsbaby.comで開始され、午後7時から9時までブルックリンの非営利文化センター、パイオニアワークスでオープニングイベントが開かれる。その後、巨大彫刻が分割されていく様子は、7月11日から13日までライブパフォーマンスとしてパイオニアワークスで公開され、オンライン配信も行われる。

MSCHFが提示するのは、解体される運命にある巨大な赤ん坊の彫刻だ。それは、切り刻まれて販売され、薄いスライスで流通する。つまり、大きなスケールの彫刻作品だったものが、壁に飾れる1000枚の絵になってしまう。言うなれば、この彫刻のオリジナル性を資産化し、解体ショーを商品化し、集合的記憶をパーツ化した壁飾りへと変容させるのだ。コレクターが手にするのは発泡スチロールに絵の具で着色した一片で、ランダムに選ばれたものが割り当てられる。

完全に解体された彫刻は7月13日に展示されるが、ブルックリンまで見に来れなくても問題ない。プロジェクトのマニフェストで、MSCHFはこう述べている。

「ウィーンのアートコレクティブ、Gelitine(ゼリティン)が、イタリア・ピエモンテ州の丘の上に設置した巨大なピンクのウサギを写真で見た人は、それを実際に見たことのある人を大きく上回ります。おそらく数桁違うでしょう。ですから、ソロモン王の赤ん坊が3次元から2次元に変わるのも特に珍しいことではありません。それは、2次元のイメージが覇権を握った現在のパラダイムへのコミットメントなのです。カメラという刃物は、どこまでも薄いスライスを生み出しますから」(翻訳:石井佳子)

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