ティラノサウルスの骨格標本、史上最高額の81億円で落札。科学者は「研究の場から失われる」と警鐘
ニューヨークのサザビーズで行われたオークションで、6700万年前にさかのぼるティラノサウルスの骨格標本が81億円超で落札された。近年、超富裕層による恐竜化石の購入が続く中、学術研究への影響を懸念する古生物学者の声が高まっている。

7月14日、「ガス(Gus)」の愛称で呼ばれるティラノサウルス・レックスの化石がサザビーズのオークションに出品され、恐竜の化石として史上最高額となる5010万ドル(最近の為替レートで約81億2000万円、以下同)で落札された。先史時代の化石はもはや単なる自然史上の珍品ではなく、高額の収集品市場で大きな注目を集める1つの分野へと変貌を遂げている。今回の結果も、そのトレンドが続いていることを印象付けた。
2021年から23年にかけてサウスダコタ州の牧場で発掘された「ガス」の体長は約11.6メートル、体高は約3.8メートル。サザビーズによると、この骨格標本は183個の化石化した骨片からなり、骨の数で全身の約63%が残っていることから、これまでに発見されたティラノサウルス・レックスの化石の中で最も完全な状態に近いものの1つだという。愛称の「ガス」は、発見された場所である牧場の主、故ゲイリー・“ガス”・リッキングにちなんで名付けられた。
6700万年前にさかのぼるこの骨格標本は、19回にわたる入札合戦を経て4300万ドル(約70億円)で決着し、手数料込みの最終的な金額は5010万ドル(約81億2000万円)となった。これは、やはりサザビーズで2024年に落札されたステゴサウルスの「エイペックス」による過去最高記録、4460万ドル(約72億3000万円)を余裕で上回る金額だ。
このオークション結果は、博物館級の恐竜の化石が一流の現代アート、希少な腕時計、スポーツの優勝記念品などと同様に、超富裕層コレクターの「究極の収集品」となったことを如実に示している。ここ数年だけでも、クリスティーズでティラノサウルスの「スタン」が3180万ドル(約51億6000万円)、サザビーズでは「エイペックス」が4460万ドル(約72億3000万円)で落札。昨年はケラトサウルスの幼体化石に、予想落札価格の400万から600万ドル(約6億5000万~9億7000万円)をはるかに上回る3050万ドル(約49億5000万円)の値が付いた。
「ガス」による史上最高記録樹立は、7月前半に開催されたサザビーズの「ギーク・ウィーク(Geek Week)」が成功裡に終わったことを象徴し、同社がファインアートの枠を超えた事業領域拡大に邁進していることを裏付けた。同社は有名絵画やラグジュアリー品に加え、科学、テクノロジー、スポーツ関連収集品の分野でも大規模なセールを次々と展開しているが、これらは全て世界各地の超富裕層コレクターがターゲットだ。
しかし、上昇し続ける落札価格に、古生物学者からの批判が強まっている。大規模オークションによって、科学的に重要な標本が公的機関の手の届かないものになっているというのだ。
バーミンガム大学の古脊椎動物学者、リチャード・バトラーは英ガーディアン紙の取材に対し、「恐竜の化石が希少な美術品のように、オークションハウスで途轍もない価格で取引される現在の傾向は非常に憂慮すべき事態です」と答えている。バトラーは、一般に認められた博物館で所蔵されていない化石は、事実上、研究の場から失われてしまうと指摘。その一方で、金額が高騰することで博物館が取得競争から脱落せざるを得なくなっていると語る。
エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサットも同意見で、ガーディアン紙に対し、売買自体は完全に合法ではあるが、「あれほどの価格を支払えるのは超富裕層に限られる」と嘆く。さらに他の研究者からも、個人所有の化石は博物館への貸し出しから引き揚げられたり、再売却されたりする可能性があるため、公的な施設で恒久所蔵されている標本に比べ、長期にわたる科学的な利用が不確実なものになるとの懸念が示されている。
こうした批判にサザビーズ側も反論している。この5月、同社の科学・自然史部門でバイスチェアマン・グローバル統括責任者を務めるカサンドラ・ハットンはUS版ARTnewsに対し、「ガス」は長年にわたる発掘、記録、保存作業の成果であるとし、商業的な化石ハンターが発掘・保存していなければ、決して出土することがなかったものも多いと主張。サザビーズはまた、昨年ヘッジファンド界の大物ケン・グリフィンが落札したステゴサウルスの「エイペックス」は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館に長期貸与されていることも指摘している。(翻訳:石井佳子)
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