古代エジプト女王の希少な肖像入り指輪が農園遺跡から出土──王室文化の広がり示す

ロシア南部アナパ近郊で出土した指輪が、プトレマイオス朝エジプトの女王アルシノエ3世を描いたものと発表された。黒海北岸でも古代エジプト王室のイメージが広く受容されていたことを示す貴重な発見として注目されている。

ロシア南部アナパ近郊で出土した指輪。 Photo: Courtesy of Institute of Archaeology RAS

2024年、ロシア南部アナパ近郊で、ロシア科学アカデミー考古学研究所のチームがブロンズ製の指輪を発見。その調査結果がこのほど発表されたAncientistが伝えた。

指輪が出土したのは、黒海北岸に位置し、ボスポロス王国の勢力圏に属していた古代都市ゴルギッピア近郊の農園遺跡群「ヴォスクレセンスコエ6」の「土坑4号」だ。同じ土坑からは、アンフォラ(貯蔵・運搬用の壺)の破片をはじめ、食器や調理用土器、建築用陶材など112点の土器片も見つかっている。

指輪は鋳造ブロンズ製で、楕円形のベゼル(印面部分)と幅広の環部を備える。ベゼルには左向きの女性の頭部が刻まれており、肖像は摩耗しているものの、髪の生え際に沿う細い帯状の飾りや、頭頂から流れ落ちる長い巻き髪、後頭部のシニヨンなどを確認できる状態だった。研究者らは、これらの特徴から、モデルはプトレマイオス朝エジプトの女王アルシノエ3世(在位:紀元前220〜204年)と特定した。また、この肖像は女王の存命中に制作されたとみられ、後世の創作ではない、極めて希少な同時代の肖像と考えられている。

さらに、指輪は「プトレマイオス型」と呼ばれるグループに属するという。このタイプのブロンズ製指輪は黒海北岸、とりわけボスポロス王国の領域で出土しており、多くにはプトレマイオス朝ゆかりの女性王族の肖像が刻まれている。これまでの出土例には、アルシノエ2世やベレニケ2世を表した可能性が高いものが含まれる。

今回の発見で注目されるのは、その出土状況だ。指輪は宮殿や神殿、有力者の墓ではなく、割れたアンフォラや食器、調理用土器などとともに、日常生活の痕跡が残る農園遺跡から見つかった。ただし、この農園にエジプト人が住んでいたことや、アルシノエ3世とゴルギッピアの間に直接的な政治関係があったことを示すものではない。

この指輪からうかがえるのは、黒海北岸が地中海世界から文化的に隔絶した地域ではなかったということだ。プトレマイオス朝エジプトの王室イメージはアレクサンドリアから遠く離れたこの地にも伝わり、複製され、人々に身につけられていたとみられる。

発掘調査では、紀元前4〜3世紀の集落跡も確認された。当時、この地域はボスポロス王国の一部を形成し、ギリシャ文化の影響を受けながら、ヘレニズム世界と広く交易を行っていた。今回の発見は、プトレマイオス朝エジプトと黒海北岸の間で、高級品や芸術様式、政治的シンボルが行き交っていた可能性を改めてうかがわせるものとなった。

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