香りとめぐる展覧会──「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」【Scent for Art Vol.1】

香りの空間演出やブランディングを多数手掛けるセントデザイナーの箕輪三香が、展覧会に纏っていきたい香水をペアリングする新連載「Scent for Art」。初回は、国立新美術館で開催中の展示「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」のための二つの香りを紹介する。

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)

国立新美術館では現在、「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」が開催中。本展は、パリ国立ピカソ美術館が所蔵するパブロ・ピカソの作品約80点を、伝統的な仕立てと遊び心あふれる色使いで知られるイギリス人ファッションデザイナー、ポール・スミスによる会場演出で紹介する展覧会だ。

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景 撮影:小野正博(fort)

展示室に足を踏み入れると、まず、ポール・スミスらしいヴィヴィッドな色彩と軽やかな遊び心に視界が満たされる。しかし、作品の前で立ち止まると、「青の時代」の静かな陰影や、キュビズム以降に展開された大胆な造形実験、新古典主義へと至る表現の変遷など、ピカソの創作の軌跡が、この鮮やかな空間に奥行きを生み出していることに気づく。本展の魅力は、その鮮やかさと深み、遊び心と緊張感という二つのレイヤーが心地よく共存していることだ。

会場を歩きながら、この鑑賞体験にさらなる没入感を与える二つのフレグランスを選んだ。

歴史と伝統を、ポップに裏切る──ゲラン「ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン」

ゲラン「ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン」(50mL/17600円、30mL/12320円)

ポール・スミスによる鮮やかな遊び心と、作品の奥に潜むピカソの複雑な表情とのコントラストは、本展の独自性そのもの。ゲランの「ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン」は、その二層性をよく表している香りだと言える。

本作は、トップノートではブラックチェリーやベリーが弾け、ヴィヴィッドな赤やピンクを思わせる華やかさが広がる。一方で、時間の経過とともにブラックティーやパチュリが姿を現し、香りは次第に黒や青を思わせる陰影と深みを帯びていく。

メゾンの伝統を受け継ぎながら新たな表現へ踏み出したこの香水は、古典的な絵画技法を確かな基盤としながら、既存の表現を更新し続けたピカソの歩みともどこか響き合うようだ。とりわけ印象的なのは、時間とともに香りが異なる表情を重ね、一つの印象へと収束しないこと。そのレイヤーの移ろいは、一つの対象を複数の視点から捉えようとしたキュビズムの発想を思わせると同時に、本展の展示構成でも表現されている、絶えず変化を続けたピカソの創作の軌跡とも静かに共鳴する。

明るさと陰影、軽やかさと深み。その二つを行き来するように、「ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン」は、本展で私が感じた鑑賞体験に寄り添ってくれる。

問い合わせ先:ゲランお客様窓口 0120-140-677

常識をぶち壊し、子どもの目を取り戻す無邪気なパッション──メゾン フランシス クルジャン「クルキー オパフュメ」

メゾン フランシス クルジャン「クルキー オパフュメ」(70mL/28710円)

「ラファエロのように描くには4年かかったが、子どものように描くには一生かかった」とは、ピカソの言葉として広く知られる一節だが、その感覚を最も素直に受け止められる香りとして思い浮かんだのが、メゾン フランシス クルジャンの「クルキー オパフュメ」だ。

現在ディオールの調香も手がけるフランシス・クルジャン自身のブランドによる本作は、彼の原点である子ども時代の記憶を着想源としたフルーティ・ムスキーの香り。大人になるにつれて忘れがちな自由な感性を呼び覚ましてくれる。また、カラフルなわたあめを口に含んだような甘く弾む「トゥッティフルッティ(ミックスフルーツ)」の香りが内包する多幸感は、ポール・スミスが会場に散りばめたストライプやヴィヴィッドな色彩が生み出す、おもちゃ箱のような世界観とも自然に重なる。

色彩やユーモアによって美術館の空間に新たなリズムと奥行きをもたらしたポール・スミスによる空間で、ピカソ作品と向き合っていると、大人になって身につけた「正しい見方」を少し手放してもいいのではないかと思えてくる。作品を理解しなければと構えるのではなく、まず驚き、楽しみ、自由に想像するという姿勢こそ、本展を味わう鍵なのかもしれない。肌の上で広がる無邪気な甘さとともに展示室を歩けば、ピカソとポール・スミスがこの展覧会で生み出した、遊び心に満ちた対話を、より立体的に味わえるだろう。

問い合わせ先:メゾン フランシス クルジャン 03-6689-8301

ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ
会期:2026年6月10日(水)〜9月21日(月・祝)
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
休館日:火曜日 ※ただし、8月11日(火・祝)は開館、8月12日(水)は休館
開館時間:10:00〜18:00 ※金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで

箕輪三香(みのわ・みか)
セントデザイナー。香りの演出や空間デザイン、講師活動を行う。TEDxや大阪ステーションホテルをはじめ、ホテル、商業施設、ブランドイベントなど、さまざまなプロジェクトの香りを手がける。施設や音楽鑑賞など、さまざまな世界観にオリジナルの「香り」を重ね合わせ、五感で記憶に刻む新しい鑑賞体験を提案している。
https://www.instagram.com/mika.minowa/

あわせて読みたい